米国在住の著名な投資家の方が、生産性の向上なき賃上げによる日本株の株高は中身のない上げ方と解説されていました。

それって因果関係がめちゃくちゃなんじゃないですか？日本企業がマトモに賃上げをするのは「これから」だと思うんですが。これまではインフレ率を超えていたかどうかも疑わしいのに。以下、今回の「日本の株高」とその今後の動向についての私見です。

まずその投資家の分析については「日本の昨今の株高は、あまりの円安で日本株、すなわち日経平均が割安だって気がついた外国人投資家が買って国際的な水準調整をしただけだから、円安が上限に達した以上、日経平均がこれ以上、上昇したらおかしい」って言うんだったらまだ理解できる、とあらかじめ言っておきます。その上でアベノミクス以降の日経平均の振り返りをちょっとやってみます。

どん底にあった日経平均が底を脱却したのは、もちろんアベノミクスがあったからだろうし、その頃にようやく始まった日本の大企業の大胆な構造改革やROE対策、そして株主還元策があると思います。ただ安倍政権で株価が上がった最大の要因は「外国人投資家から極めて評判が悪かった民主党政権が終わって自民党政権になり、その安倍政権が安定政権になったからだ」と僕は分析しています。

僕は投資をするにあたって、もちろん海外の投資家とも情報交換しているんですが、はっきり言って海外の投資家に細かい日本の政党の事情はわかっていないし、そこまで詳細に日本の政治や政策を分析していない投資家が多いんです。そんな彼らが民主党政権に抱いた印象は「日本は社会主義政権になったのか？」。

そりゃ外国人投資家は日本株を買えませんよね。というか売ってきますよね。どんどん売りあびせられました。日経平均が1万円を切るわけです。

この民主党政権が終わって保守党政権に戻ってやれやれと思ったら、その政権が起用した日銀総裁が「大胆な金融緩和」とか言って金利を下げたり、資金を市場にジャブジャブ供給する方針を打ち出す。そして政権自身も強気の財政政策を打ち出して景気を浮揚するって言う。とりあえず「買う理由」ができました。

そしてこの安倍政権が「長く続いた」んですね。株式市場は「見通しが立たないこと」を極めて嫌います。外国人投資家がどこまでアベノミクスを理解していたのか、僕は今でもよくわからないんですが、外国人投資家はとりあえず「日本の政治と金融政策に安心できた」んです。

この辺の動きは民主党政権時にめちゃくちゃ売り越しになっていた外国人の売買が好転したことでもわかります。でもだからと言って外国人投資家がそれほど日本株に目を付けていたわけではないんです。世界的な株価上昇基調の中でむしろ日本株は取り残されました。

「アベノミクス以降の日経平均の外国人投資家の買い越し/売り越しを累積した金額」と言うデータを見ると面白いですよ。アベノミクス直後の2013年1月第1週の買い越し額は1903億円です。これが2015年には18兆円前後まで累積買い越し額が大幅に増えます。ここまでは順調で日経平均の回復は外国人投資家が牽引し、それに「自信を失っていた日本人投資家がようやく参戦し始め」ました。もしこれが順調にいけば、日経平均はとっくの昔にバブル後最高値を更新して4万円台を突破していたと思います。

ところがそこから売られるんです。しばらく累積買い越し額が14-15兆円で推移した後、外国人投資家は売り越し基調になって累積買い越し額がどんどん減っていきました。

2019年3月第4週の累積買い越し額は遂に5兆円を切っています。かつて18兆円あったんですから、ずいぶん売られたものです。外国人は最終的にはアベノミクスで日経をそれほど買ったわけではないのがわかります。終わりの方では、アベノミクスってなんだと思っていたのが、実際のGDPやインフレ率という政策結果につながらず「たいしたことがないじゃん」と思った可能性が否定できません。当時、海外の経済ニュース媒体でそういう趣旨のニュースがよく流れていましたから。

SNSとか見てると悪の巣窟で深い狙いをもってやってるように書かれる外国人投資家ですが、僕が知っている限り、日本株に対してそこまで深い分析なんてしていません。ポートフォリオバランスで見てウェイトが低いですから、さほど力が入っているわけでもないです。だから英語の経済媒体のヘッドラインに割と素直に反応します。記事を読んでその中身を深く分析するのはレアケースなんです。

累積買い越し額が最も少なくなったのは、コロナショックがあった2020年の9月第5週で、なんとたったの6619億円です。これが約1年前の2023年3月第5週でも1兆3996億円。

ところがここから俄然、外国人が買い出すんです。もちろん単月では買い越したり売り越したりですが、どんどん買い越し額が増えていって、つい先ごろの速報ではこれが遂に10兆円を超えたことがわかりました。約1年間で9兆円ほど買い越した計算です。特に2024年1月の日経平均の投資主体別の売買動向では、個人投資家以外がおおむね売り越している中、突出して外国人が買っているんです。1月の日経平均のバカみたいな上昇を僕はなんじゃらほいと思っていたんですが、やはり外国人が買っていたわけですね。

この外国人投資家が日経を買い出した直接のきっかけは、ウォーレン・バフェットが2023年4月に来日して日本株を買い増したことを明らかにしたことだと思います。日本株には興味がなかった外国人投資家も「オマハの賢人」の一挙手一投足には関心がありますからね。それで「なんでバフェットは日本株なんてわけがわからないものを買ったんだ」と調べ出し、気付いたんです。「あら、こりゃ割安じゃん」。実際、この時期の日経平均の上昇は、バフェットが買った商社株とバフェットが買いそうな株が支えてました。

そこから先は外国人投資家が円安であることを注視し、日経平均は割安だと判断し、日経平均構成銘柄のうち、指数へのインパクトが高い銘柄を積極的に買った結果だと僕は推測しています。彼らは日経平均の指数先物や指数オプションを積極的にやっているので、指数を上げることによる投資効果が高いんですね。

特に米国株が極めて好調に推測した結果、大儲けした利益を再投資したいけれど、米国株だけではポートフォリオのバランスが悪くなるので、その分散の一環として「日本株にも」投資したんでしょう。米国の株高は半導体株が牽引してきたわけですから、この時彼らが買うのは、当然その連想で半導体株が中心になります。

今回の日本の株高では、だから「日経平均構成銘柄のうちの指数へのインパクトが大きな銘柄」が軸になって演出されたものなんです。日経225構成銘柄に比べると「日経225構成銘柄を除くTOPIX」という視点では、それほどまでにまでは上がっていません。せいぜい半導体株などのテーマ株が中心です。さらに言えば個人投資家には好きな人が多い東証グロースなんて、グロース250はこの1年で上昇どころか横ばいやや下落しています。ここには資金が回っていないんです。

「日本株高」なんて信じない方がいいですよ。日本株が上がっているんじゃなくて、日経平均構成銘柄が上がっているのであって、それは日経平均へのインパクトが大きい銘柄がよく買われたからなんです。それを読み違えると失敗すると思います。

そのなんとかという海外投資家の言う通り、日本企業の賃上げだの、日本の景気回復だのが今回の日本の株高の原因であるとすれば、辻褄が合わないじゃありませんか。だって「日経225構成銘柄以外」だって、こうした恩恵は等しく受けているわけですから。特に今回の株高を「賃上げを享受した日本人個人投資家が演出した」というその投資家の考えは、個人が好きで個人が主体のグロース250の値動きを見るとまったく納得できません。だから質問に回答します。

そんな考えは日本の事情をよく調べていない、そのなんとかという海外の有名投資家の勘違いかこじつけです。

有名投資家であっても日本の株式市場なんて詳細に分析していない人は多いし、ジム・ロジャースみたいに言うことが右往左往する人もいます。その点ではウォーレン・バフェットはさすがと言わざる得ません。

今回の日本の日経平均の4万円超えは「日経平均構成銘柄を集中的に買ったこと」によるもの、そしてその投資主体別の売買動向を見ると「外国人が買ったことが大きく寄与している」というのが僕の結論です。

ですから今後の日経平均の値動きについては「外国人投資家の動きはチェックしておいた方がいい」と僕は思います。もし大企業では好調に推移しそうな今回の春闘で順調に賃上げが実施されて、新NISAで増えた個人投資家がそれを元手に日本株に投資して、日本株を支えるとしたら、それは「これから」でしょう。でも僕はその「これから」というムーブメントなんてないと思いますが。

これは冷静に「日経225」「225以外のTOPIX」「グロース250」の3枚のチャートを並べてみて、今回の日本の株高はなんだったか見極めて、外国人がどう動きそうか予測した方がいいでしょう。とりあえず先週末、彼らの耳に入ったのは「日銀、マイナス金利解除へ」っていうニュースです。

賭けてもいいですが、多くの外国人トレーダーはその記事の「ヘッドラインを見て」日本株への今後の投資判断をします。記事を読んだ上で詳細に解除のインパクトなんて分析しないですよ、彼らの多くは。

寝損ねたので長文の回答をしちまったぜ🤣。