質問
2024年09月30日 回答
責任ある鉱物調達は米国主導だと言う事はご存知かと思います。紛争資金や児童労働などに関与する鉱物を流通させない事が目的で主な対象は錫、タンタル、タングステン、金、コバルト、マイカがここ最近の主流でしたが、次の春に銅、黒鉛、リチウム、ニッケルも対象になりました。(共通の管理シートに追加)。この追加鉱物はEVに使われて、かつ中国依存度の高い鉱物だと思います。欧州電池規制、EUバッテリー規制の対応に準ずるものだと理解していますが、これって脱中国も本格化して来たなぁと言う印象を受けました。米中関係はプロレスだと思いつつ、ジャブの練習してませんか?考え過ぎでしょうか?
回答
考え過ぎだとはまったく思いませんよ。鉱物資源で中国にフルに依存して、中国に首根っこを押さえられるのは、米国にもEUにも受け入れられ難い経済安全保障上のリスクですから、「なんとかしなくちゃ」と知恵を絞るのが当たり前です。
EUバッテリー規制も、RMIのCMRTやEMRTの新バージョンも、念頭にあるのは明らかに中国です。中国と言っても広いですが、レアメタルなどが採掘されているのは、新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区で、まさに紛争を抱えていたり、深刻な労働問題や環境問題を抱えていたりします。
米国は他にもIRA(インフレ削減法)の運用の厳格化、特にクリーンビークルに対するFEOC(懸念される外国事業体)の要件をこのほど厳格化しています。対象になったのは中国、ロシア、北朝鮮、それにイランの事業体が関わるEV用駆動バッテリーです。見れば一目瞭然で、中国以外ほとんどEVのバッテリー製造には無縁な国ですから、念頭にあるのは明らかに中国です。先ごろ可決された法案では「End Chinese Dominance of Electric Vehicles in America Act of 2024」(米国のEVにおける中国優位を終わらせる法律)と、明確に中国を名指ししています。
でも以前も回答しましたが、EV用バッテリーでは中国勢がどんどんシェアを増やしていて、今やCATLとBYDの2社で世界シェアの5割を超えます。米国のEV車メーカーと言ったって、Teslaがモデル3で搭載しているバッテリーはメイドインチャイナです。
これではヤバいと、米国ネヴァダ州にあるギガファクトリーでのバッテリーセルの生産設備拡充に設備投資を一生懸命にしているところですが、現状でこのバッテリーセルを搭載しているのはトラックなどで、ようやくパナソニックの協力で4680セルをテキサス産のモデルYで搭載出来たところです。Teslaが一度縁を切ったパナソニックと復縁したのは、脱中国の狙いがあると見ています。
EVにとってはガソリン車のエンジンに該当するバッテリーが命ですが、Teslaはそこまで高密度高出力のEV車用バッテリーを自社独自で生産できる技術を現状では確立できていない、技術開発はこれからになると見ています。そしてTeslaのバッテリー技術開発は当面は外部のバッテリーメーカーの協力なしではできないと思います。
中国はレアメタルの生産大国であると同時に、EV車用バッテリー製造では世界の先進国で大国です。またコバルト、銅、ニッケルなどの重要鉱物では埋蔵量でも生産量でもたいしたことはありませんが、精錬・製造部分をガッチリと握っています。EV用バッテリーに使えるような高品位のコバルトの供給はほぼ中国が独占していますし、銅生産では中国は世界3位ですが銅精錬では世界首位です。ニッケルでも生産国としては世界ベスト10にも入りませんが、プライマリーニッケル生産では世界シェアの約半分を占めます。これらは中国の周到な資源外交の結果です。
しかし銅では、南米諸国に資源ナショナリズムの動きがあり、ニッケル生産大国のインドネシアも付加価値の低い鉱石での輸出を禁止しました。このためプライマリーニッケルの生産国として、インドネシアが急発展中です。中国はその代替として世界2位のフィリピンから鉱石を輸入している模様です。
このようにEV用バッテリーに絡む重要鉱石では、サプライチェーンのどこかで中国が絡んでいて、米国の思惑通りにそこから抜け出すのは容易なことではありません。これが僕が常々、「EVに一気にシフトすることなんてとうていできない」「いずれEV市場は減速する」と言ってきた最大の理由です。環境問題と安全保障のどちらか一方選べと選択を迫られたら、米国を始め安全保障を選ぶ国が多いと思います。環境問題はエビデンスをいじれば、なんとでも理屈が付けられますから。
現状ではEV車の販売台数が伸びているのは、当たり前ですが材料調達不安がない中国で、世界のEV車の販売台数の50%以上が中国です。ある意味で車のEV化を進めるのは、中国にとっては国益に大きく寄与することなんです。EV車の世界販売台数自体は伸びているんですが、伸びている中身の多くは中国によるものです。中国依存度が高いのはヤバいと気が付き始めた欧米ではEV車の伸びが減速し始めています。
米国の場合、環境意識が高いカリフォルニア州での普及率は20%を超えますが、米国全体のEVの販売台数はまだまだ103万台(2023年)でHVの124万台より少ないです。EV車の販売台数ではインド(153万台)より少ないというのが米国の実情ですが、この裏には「これ以上のEV化はヤバい」と気付いた米政府や議会の政策転換が陰に陽に影響していると思います。
欧州でもノルウェーやスェーデンなどのEV普及率が高いですが、ドイツのVWがEV車の減産やEV車関連の工場建設延期を決めるなど、風向きは確実に変わりつつあります。EU各国がEV車購入に対するインセンティブを控えるようになったので、消費者から見ると実質的な値上げになったインパクトも大きいと思います。
でも考えてみれば理屈は簡単です。ドイツやフランス、イタリアなどは自国に大きな自動車メーカーがあって、たくさんの雇用を抱えています。しかし価格競争をすれば、自国で部材が購入できて、BYDのようにEVバッテリーの製造から垂直統合でやっているメーカーには太刀打ちが出来ません。
EV化を進めればたくさんの低価格中国車が入ってきて、自国の主要産業と雇用を失うんですから、そんな政策は出来ません。EUバッテリー規制なんて持ち出したのも、その一環でしょう。自国に自動車産業がほとんどない北欧だから、中国のEV車をたくさん受け入れられたわけです。
この「脱中国」は今後の大きなキーワードになると見ています。中国からEVバッテリーや重要鉱物を買わないで経済を回していこうと考えた時、いろんな形でビジネスチャンスが生まれるからです。プライマリーニッケルの生産量はまもなくインドネシアが世界首位になるでしょうし、中国に押されて途絶えていたオーストラリアやカナダにおける重要鉱物やクリティカルミネラルの開発投資も最近では急増しています。
アフリカ大陸が中国とアンチ中国の今後の主戦場になりそうですが、コンゴなどで数多く生産されるコバルトこそ、CMRTが指定する著名な紛争鉱物であることが頭の痛いところです。タングステンやタンタル、スズ、そして金が、このあたりを主たる産地とする従来からの紛争鉱物でしたから。
日本では住友金属鉱山と三菱商事のペアがオーストラリアでのニッケル鉱山の調査を開始し、住友商事がマダガスカルで世界最大規模のニッケル生産プロジェクトを進めています。先ごろ1000億円近い減損を発表するなど苦労しているようですが、この手のプロジェクトにそんなものは付き物です。何しろ「山師」という言葉があるぐらいです。
そしてEVバッテリーでは中国メーカーの得意なブレード技術ではもう争い難いので、「出来るだけ中国のレアメタルに依存しないEVバッテリー」の開発が焦点になって来ています。この辺でようやく本気を出してきたのがトヨタ自動車で、EVバッテリーでパナソニックと合弁で作っていた合弁会社への出資を増やして、子会社化しています。
トヨタはこの会社でいろいろのEVバッテリーを生産したり開発したりしているんですが、一番注目されるのが、豊田自動織機と共同でやっているバイポーラ型LFP電池の開発です。このバイポーラ型LFP電池の特徴は、LFP電池の弱点である低密度低出力をバイポーラ型にすることで、十分な蓄電量と出力を持っていながら安価なEV用バッテリーを製造することです。
しかし最大のポイントは従来の三元系リチウムイオン電池が正極にマンガン、コバルト、ニッケルという希少金属を使用しているのに対して、LFPリチウムイオン電池では、正極にリン酸鉄を使っているので中国依存が非常に低いということです。LFP系は安全性が高くて安価などの利点があるんですが、重量が重く、出力が低いため、一度は三元系に取って代わられた技術です。しかしこれをバイポーラ型にすることで、安くて高出力で安全性が高く、しかも中国依存度が低いEVバッテリーにしようと言うわけです。現在、量産試作に入っていて、量産が開始されて搭載車が登場するのは2026-27年ごろの見込みです。
三元系リチウムイオン電池が現在のEV用バッテリーでは主流ですが、バッテリーが火を吹いて爆発したという事例が聞かれるように、安全性が完璧とは言えません。充電を繰り返すとバッテリーの劣化も早いので、早くにEV車をたくさん導入した北欧では、最近では十分な充電が出来ないEV車が増えてきたこともニュースになっています。
このため中国のEVバッテリーメーカーでも開発の力点をLFP系に移しているんですが、トヨタはFCV開発で培ったバイポーラ技術で中国メーカーに対抗する気のようです。
ということでトヨタはFCV(燃料電池車)、普及車用のバイポーラ型LFP電池車、それにさらに次世代向けのニッケル系リチウムイオン電池車、という3本建で当面のクリーンビークル戦略を描いているようです。さらには出光興産などと共同開発している次世代全固体電池の開発も進められています。この全固体電池は日産やホンダも開発を急いでいます。このあたりの特徴はすべて「原料の調達リスクが低いこと」です。
Teslaは4680バッテリーセルなどでEV用バッテリーの内製化、米国生産化を進めるので必死で、古いリチウムイオン電池技術にしがみついています。全固体電池に関してTeslaが取得した特許は現在まだないようですし、EV用バッテリーの技術開発も、CATLやパナソニックなどの協力なしでは出来ません。このため自社でバッテリー開発からやっている中国BYDに、すでにEV車生産台数世界1位の座を明け渡して、現在ではマークラインズの調査で月次で見れば、販売台数でダブルスコアの差になっている月もあります。
米国でのEV普及率が伸び悩み始めて、米政府や米議会から脱中国のプレッシャーがかかっている以上、Teslaは米国EVメーカーとして、米国での生産と開発を進めざるを得ません。しかしEV市場の成長が著しい中国から手を引くことも出来ません。しかし中国では外車のTeslaは高級車で、普及車では国産の中国車にはもう太刀打ちが出来ません。バッテリー技術ではEVバッテリーの一本足打法ですし、自動運転の技術でもすでに中国メーカーにはかなり遅れを取っています。
ですから、世界の脱中国の流れの中で、一番困っているのはTeslaなんじゃないかと僕は思っています。既存の日米欧の自動車メーカーは、どっちに転んでもいいようにしてきましたから。
Teslaの生き残り戦術をイーロン・マスクがどう考えているのか、Teslaが2030年代もまだ生き残っているのか、僕には非常に興味深いテーマなんです。
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