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海外では、民間の軍事会社というものがあるそうなのですが、それの存在意義について意見をお聞きしたいです。

質問

海外では、民間の軍事会社というものがあるそうなのですが、それの存在意義について意見をお聞きしたいです。(ロシアのワグネルなど)
海外の映画などでは、マシンガンを持った警備兵が屋敷の入り口に立っていたり、というシーンをよく見るのですが、海外には実際にそういう例があるのでしょうか?警備などで抑止力にはなりそうですが、実際に侵入者を射殺したりすることは難しいと思うのですが、、、

回答

民間軍事会社(PMC=Private Military Company)というものが出来た背景について、まず理解が必要です。

軍事力には大きく分けて、核軍事力やそれに準ずる「貧者の核兵器」毒ガスなどの化学兵器や生物兵器などの大量破壊兵器と、それ以外の「通常軍事力」というものがあります。前者は極めて低コストなんですが、民間人を巻き込むため容易には使用できず、使用すれば国際的な非難を浴びるため、抑止力以上には使いにくいという致命的な弱点があります。

このため世界の軍事大国は核軍事力やそれに類するものを持ちながら、実際の戦闘は通常軍事力をもってすることになるんですが、通常軍事力の最大の欠点は「膨大なお金がかかる」ということです。戦車や戦闘機を買ってそれで終わりではありません。それを動かす人を抱えて訓練し、この人たちを食べさせて住む場所を用意し、お給料を払わなければなりません。兵器を管理して整備しなくてはならないし、実際の戦闘要員以外にも兵站を維持するための要員など、いろんな人間を抱える必要があります。その上、作ったら持ってれば済む核軍事力と異なり、陸海空のさまざまな分野で、最新の兵器や装備品を開発し続ける必要まであります。

軍事力というのは、軍需産業を潤し、軍人たちが消費するだけで、兵器は何も生産しませんから、経済的な乗数効果が極めて低いという特徴があります。つまり莫大な通常軍事力を抱え続けると、国家経済の足枷になってしまうんです。この結果、当面の大きな戦争がないと見込まれると、経済原理が働いて、兵員を中心に通常軍事力を落とす方向になります。

米国で言えば第二次世界大戦中は国民の約20%が従軍していたと言われます。ベトナム戦争では5-6%でした。当時は男子だけでしたから、男性に限ればそれぞれ2倍です。それが冷戦が終わった現在では1%行くか行かないかまで引き下がっています。この結果、米国の徴兵制度は事実上「登録する」だけで従軍することはなくなり、志願者のみが採用されています。そして兵隊が減れば、高度に訓練された職業軍人も退役させられて、予備役にまわされたりしました。

空軍のパイロットなんかであれば、民間航空機のパイロットという就職口があります。実際、米国の民間機のパイロットの多くは退役した空軍のパイロットだと言われています。しかし海軍や陸軍となると、そうそうお給料の良い再就職口があるわけではありません。

平和になると優秀な職業軍人が予備役にまわったり、除隊させられて、ウヨウヨ余るという構造がまずあります。

もう一つ忘れてはいけないのが、冷戦終結後の「戦争の在り方」です。大国同士ががっぷり四つで組み合う戦争は、せいぜい1980年代のイランイラク戦争ぐらいです。

それより増えているのは、テロとの戦いであったり、小国の揉め事に大国に介入したり、大国と軍事小国が戦う戦争です。「非対称戦争」と呼ばれます。例えば米国などとのイラク戦争、アフガニスタン紛争、ロシアとのウクライナ戦争、そしてイスラエルとハマスの紛争はすべて非対称戦争です。

この非対称戦争において、軍事大国が保有している高レベルの機械化戦力は案外役に立たないことが分かっています。核軍事力を使えばいっぺんにかたがつきますが、これは民間人を巻き込む大量殺戮になるので世界中の非難を浴びますし、相手国を焦土にしてしまいます。ジュネーブ諸条約などの交戦法規(law of war)でも戦争は軍人だけでやって、可能な限り文民を巻き込まないことが決まっているので、正規軍には縛りも多いです。

しかしテロやゲリラ軍はこの交戦法規を逆手にとって、女子どもまで戦力としてきます。正規軍では極めて戦いにくいんです。先述のいくつかの戦争をみれば分かる通り、軍事大国が大勝を収めたのは、イラクに大きな被害を出すことを承知で過剰な攻撃を仕掛けた湾岸戦争だけです。あとはいろんな手を使ってくる相手に手を焼いています。イスラムテロ組織も長年かけて駆逐出来ていませんし、トルコとクルド人との紛争も然りです。

こういう非対称戦争に備えて、正規軍の軍事力を維持しておくのは金ばっかりかかって極めて経済効率が悪い。そこに民間軍事会社が成立し得る下地があり、今も存続し続けている理由があります。

民間軍事会社と言ってもいろいろあり、例えば兵站の維持をサービスする要員を提供する民間軍事会社があります。兵站要員は直接的な交戦要員ではないですから、多くの場合、練度が低い徴兵を当てて来ましたが、それはもういません。また戦後に正規軍がいても金ばっかりかかってあんまり役に立ちませんから、まだどんなテロが起こるのか分からないイラクやアフガニスタンに留まって、戦後統治を行う際にも民間軍事会社が大活躍しました。

空軍の場合、パイロット以上に整備要員などが必要とされるんですが、これを担うDyconCorpなんて民間軍事会社もあります。同社は第二次世界大戦終結後、退役したパイロットが設立した古い民間軍事会社で、米空軍などを退役したパイロットや整備要員をリクルートして、朝鮮戦争以降の米空軍の近接航空支援や航空支援まで担ってきたとも言われています。

悪名高い民間軍事会社にBlack Water USAという会社がありましたが、創業者で長年CEOを務めたエリック・プリンスは、元米海軍の特殊部隊SEALsの出身です。ノースカロライナに広大な訓練施設を持っており、SEALs流の厳しい訓練を社員に課しているとも言われています。役員層にはSEALs出身者のほか、CIAの対テロ作戦指揮者などの「プロ」が名を連ねていました。元米司法長官が取締役を務めていたこともあります。同社はイラク戦争では米軍の最大のコントラクターになり、後方支援から連合国暫定当局代表を務めたポール・ブレマーなどの要人警備を請け負っています。同社発表ではイラク戦争時、4万人規模の「社員」を活躍させたとしています。

この他、Drakenのように米空軍と契約して仮想敵機になって米空軍パイロットの訓練を支援したり、戦時にあっては難易度の高い空中給油を請け負ったりする会社、要人警備を得意として世界最大の警備会社になり、日本にも支社がある英国のG4Sなんかがあります。G4Sは全世界の従業員が65万名超、売上高1兆円と言われる巨大企業で、イラク戦争では戦後の警備サービスを請け負い、今もイスラエルとパレスチナの紛争で、イスラエルが占領した地域の警備を請け負っていることで知られています。

軍事作戦におけるリスク評価を得意にする英Erinys、現代的な民間軍事会社の元祖とも言われ、強力な軍事力を有してアフリカ大陸の紛争が起きると名前が取り沙汰されたExecutive Outcomes社(EO社)まで本当にさまざまです。EO社を設立したイーベン・バーロウは南アフリカ国防軍の特殊部隊「第32大隊」の元副司令官です。

この第32大隊はアパルトヘイトに起因する問題や、ナミビア、モザンビーク、アンゴラとの国境紛争で目覚ましい活躍をするんですが、アパルトヘイトがなくなり、南アフリカが平和になった結果、ネルソン・マンデラの手で解体されました。これで職にあぶれた第32大隊の元職業軍人を中心に、警察の非正規軍戦闘部隊出身者なども雇って急速に膨らみました。20年以上続いていたアンゴラ内戦を、政府側と契約を結んでわずか1年で終結させたり、シエラレオネ内戦ではわずか300人の兵員を投入すると戦況をひっくり返すなど、極めて練度の高いプロの集団でした。このEO社は南アフリカの鉱山開発コングロマリット、SRCの傘下に入ったので、鉱山の警備や鉱山の利権に絡む紛争になると、名前が取り沙汰されます。

以上のような民間軍事会社の「ファクト」を踏まえると、民間軍事会社の存在意義は、政府にとっては、経済的に負担が大きい通常軍事力の正規軍を高いコストを払って維持しなくても済むことです。練度が高くて小回りも融通も効く軍事力がお金を出しさえすれば、いつでも手に入れられます。自国の特殊部隊で訓練したベテランたちを失わずに活用できるので、費用対効果が高いです。

一般的な国民にとっては、自分たちが徴兵されず、戦争に行かなくて済むことです。自ら戦争に行きたい人はそう多くはありません。しかし兵站の維持や後方支援、あるいは戦後警備となると、戦車や戦闘機ではなく、兵員を大量に投入する必要があります。こんなもん、自分たちが平和な国にいれば行きたくはありません。この「誰もやりたがらない、命を賭けた仕事」をお金で引き受けてくれるのが、民間軍事会社です。

デメリットは、民間軍事会社は国家の正規軍ではありませんから、ジュネーブ諸条約の適用外になることです。何か問題を起こせば、その責任は雇い主の国家にあるとされているんですが、その分、統制がゆるゆるになり、これまでしばしば残虐行為をやってきました。

先ほどBlack WaterUSA社を「悪名高い」と表記しました。同社はイラク戦争で警備サービスを請け負った人に1人の死者も出さなかったんですが、その代わりイラク人に対してしばしば残虐行為を起こし、2007年には「ニソール広場の虐殺」と呼ばれる事件を引き起こしています。それで国際的な非難を浴びて、社名をXeに変えたり、Academiに変えたりして、最終的に米陸軍の特殊部隊グリーンベレーや対テロ特殊作戦を担当する特殊部隊「Delta Force」の出身者たちが設立した競合の民間軍事会社「Triple Canopy」に吸収合併されました。

お金で雇われて、経済利益を目的に自分たちとは無関係な戦争で戦う非正規軍従軍者を「傭兵」と呼びます。1977年のジュネーブ条約第一追加議定書で定めた「戦闘員」の資格は受けられないと定められました。戦闘員は戦闘時には殺害しても罪にはなりませんが、敵の支配下に置かれれば、「捕虜」として処遇される権利を有します。会社組織になった現代の傭兵である民間軍事会社は、この点で極めてグレーな存在です。

民間軍事会社も問題行為を起こさないよう、IPOAなどの業界団体を作って内部規制を行っています。Black WaterUSAはIPOAを除名されたため、米国防総省などの大口クライアントを失いました。

国際社会も2008年に民間軍事会社の行動について、雇い主の国家や民間軍事会社の関係者が参加して、「モントルー文書」という活動指針を取りまとめています。現在50ヵ国以上がこの「モントルー文書」に参加していますが、「条約」ではなく「指針」なので、批准国に法的な拘束力はありません。また鉱山会社などが権益維持のために雇う場合はグレーのままで、今後も残虐行為や過剰な防衛行為は起こり得ます。

しかし国家と国民に先述のようなメリットがある限り、現代の傭兵「民間軍事会社」には存在価値があり、なくなりにくいでしょう。南アフリカのEO社はあまりに強力な軍事力を保有したため、おそれをなした南アフリカ政府の手で1998年に解体されました。しかし20年以上経た2021年に再設立されています。それだけ需要があるということです。

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