質問
2024年10月19日 回答
昔ドイツで行われたシュレーダー改革ってどう思われますか?
回答
まず最初に言っておくと、自民党の有力政治家や財界人など日本の意思決定者層でも、今後の日本復活の落としどころとして、「日本でもこのシュレーダー改革をやること」だと考えている方は少なからずいらっしゃいます。
シュレーダー改革は、「社会保障改革(公的年金の削減や医療費の自己負担割合の引き上げ)」、「企業制度改革(法人税率の引き下げ、企業再建型の法的整理推進による企業の新陳代謝促進、これらによるドイツの立地競争力強化)」、そして「労働市場改革(失業給付期間の短縮、解雇規制の緩和、派遣労働規制の緩和、高齢者の就労推進、公共の職業安定所の職業紹介機能の強化による労働市場の流動性向上」を骨子とする、ツイッター民が怒りで悶え死にしそうな政策パッケージでした。
もちろん当時のドイツでも極めて不人気で、これによってシュレーダー首相の社会民主党(SPD)は政権の座から滑り落ち、メルケルさんのキリスト教民主同盟(CDU)に政権を譲ることになります。メルケル首相は当然、手厚い社会保障を復活させる方向に2年ほど動くんですが、それで逆に状況が悪くなったため、最終的には針を元に戻して「アジェンダ2010」を断行、シュレーダー改革を継続することにします。
この結果、1990年代後半は「低成長、高失業率、少子高齢化、経常収支の赤字」に苦しみ、「欧州の病人」とまで言われたドイツが、21世紀には「奇跡の回復」を遂げます。最近ではGDPで日本を抜いて世界第3位になったのが記憶に新しいです。
特にフォルクスワーゲンの労務担当役員だったペーター・ハルツさんが委員長として取りまとめた「ハルツ改革」という労働市場改革は、日本の政治家や官僚、財界が着目していると思います。
このハルツ改革では、それまで半永久的にもらえていた失業時の社会扶助を廃止し、失業給付期間を短縮します。一方、ハローワークのマッチング機能を強化し、失業者を派遣労働者として登録しました。そして所得税や社会保険料が部分的に免除される「低賃金制度(ミニジョブ)」というものを導入しました。
「自助努力を引き出すとともに、保障もする」というのが、ハルツ改革の基本理念だったと言われます。これらの政策を行った結果、①企業が人を雇いやすくなった、②手厚い社会保障に甘えていた失業者が積極的に就労活動をせざるを得なくなった、③高齢者の再就労も進んだ、④社会保障給付が減少して財政再建が進んだーーという効果がもたらされました。以前読んだドイツの労働経済学者の研究では、このハルツ改革だけで失業率を2.8%押し下げる効果があったそうです。
以上の理解を元に日本におけるハルツ改革の是非について言及すると、現状では日本の完全失業率は2.6%前後で推移しており、決して高くはありません。これは日本企業が「終身雇用」で雇用を抱え込んでいて、がんばって雇用を続けているためだと思います。日本より経済成長している米国の失業率は、ご存知の通り、このところ4%台で推移しています。
ですから日本では中途雇用市場が非常に小さく、ハルツ改革を導入すれば、失業率はむしろ上昇すると思います。ただ日本の完全失業率には①雇用の固定化によって事実上の社内失業がある、②日本は女性の非労働力人口が非常に多い(男性より約1000万人多い)、③失業者にカウントされない「就業希望者」が非常に多い(就労を希望しているけれど、求職活動には至っていない「就業希望者」が、女性を中心に失業者のだいたい2倍近くはいる)ーーと言った要素があるため、ハルツ改革でこれらの潜在的な失業者が炙り出されるためです。ですから、僕の試算では、日本の完全失業率は、一時的に5.8%ぐらいまで上昇します。
ただ現在の日本の就業人口はおおむね6700万人前後で推移していますが、ハルツ改革が機能し出せば、これが7100万人程度まで増えるというのが、僕の試算結果です。少子高齢化で労働力不足に苦しむ日本にあって、この約400万人のインパクトは大きいでしょう。将来的には約4000万人いる「非労働力人口」の中からも、女性を中心に就業希望者が出てくると思います。
ですから日本企業に中途雇用の文化を根付かせて、雇用の流動性を促し、中途雇用市場というものを醸成できるまで、労働者と企業、そして政治が耐えられるのかが勝負になります。「痛みを伴う改革」ですから、ドイツと同じく政権は間違いなくひっくり返ると思います。ドイツではメルケル首相に見識があって、この不人気な政策を継続したので効果が得られました。日本の野党にメルケル首相がいるかどうかが、シュレーダー改革の成否の鍵を握ります。
シュレーダー改革の成果として挙げられているのが、①失業率の低下(就労者の増加)、②ドイツ企業の競争力強化、ドイツ経済の成長の再加速、③ドイツの立地的優位が進んで海外企業の拠点化が進んだ、④経常収支の好転、政府の財政再建の促進ーーです。冷戦終結による東西ドイツの統合後、その代償として低迷していたドイツは、EUやEURO経済圏の成立と合間って、完全復活を遂げました。特に2005年頃には11%台だった失業率が、現在では3%ぐらいまで低下したのは劇的でした。
しかしここまでの回答を読んでいただければ分かるように、日本でシュレーダー改革をやろうとすれば、抵抗する人たちがたくさん出ます。ツイッター民なんかもう大騒ぎになるでしょう。これはまあどっちでもいいとして、労働組合サイドを含む国民の理解が得られるかどうか。途中で辞めれば却って弊害が大きい政策です。
ほんと政権がひっくり返ることを覚悟でやる日本復活策ですから、与野党で握れないとやり難いです。そこまでの見識が日本の野党にあるかどうか。この衆院選の選挙公約を熟読してみた結果、僕はさらに不安になったんですよねぇ😅。何しろ各党が相変わらず良いことてんこ盛りでしたから。
日本が現在抱える諸問題や日本復活にとって、シュレーダー改革が大きな効果がある対策でありうることは、自民党の有力政治家も、経済・労働関係の官僚、そして財界人も承知している方はけっこういらっしゃるんです。そういう政策提言をしている学者もいます。しかし現時点では政権交代が起こって、その場合、政策の継続が見込めないという点で、踏み込めないでいるというのが、現状です。
この「政治の継続」「政策の継続」が担保できた状態で、終身雇用制がまだまだ健在な日本では、ドイツとは異なる準備もいろいろする必要があります。
企業サイドは「新卒をたくさん雇用して、それでは足りない人を中途採用で補う」という現在の認識を改めて、潤沢な中途採用市場があることを前提に、通年採用型に改める必要があります。人事部などの採用システムが、年間のある時期に集中的に採用活動を行うというやり方で硬直化しているので、ここから変えないとなりません。入社後のキャリアパス設計の考え方もまったく変わります。
現在、日本企業の人事部はイレギュラーな採用には弱く、このため「日本の4大を新卒で就職するのが経済的に一番有利」な状況で、院卒や海外の大学を秋に卒業した学生にですら、上手く対応出来ていません。これではハルツ改革はムリですから、人事部の組織変革と意識改革が求められます。
就労者サイドも、現在は「新卒で就職して定年まで勤める」ということを前提にライフプランを設計している方が多いですが、これも変えなくてはなりません。また、「首を切られること」に日本人労働者は慣れていません。ですから、その心のケアも必要になるかもしれません。
「終身雇用がカルチャー」ですから、実際にハルツ改革をした場合、国民の意識改革を、周到な広報・宣伝戦略でやっていく必要もあります。メディアを巻き込むメディア戦略も立案するべきです。国民の潜在意識から変える必要があるんですが、過去を振り返るとこれはテレビ局に人気ドラマを作らせたりしてやってきたわけです。しかし今後であれば、インターネットを活用する方が有効かもしれません。
終身雇用というのはまことに根強く日本に染み付いています。例えば大きなライフイベントである住宅購入で必要な住宅ローンの審査でも、銀行側が雇用が安定している人かどうか重要視します。雇用が流動化すれば、これは改めなくてはなりません。それどころか、住宅ローンは職を失うことを前提に制度設計されてはいないので、一時的に雇用が中断されて返済が滞る人を救う制度も必要です。こうした問題が多岐に渡ってあります。
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