質問
ナスダックとニューヨーク証券取引所の違いって何なのでしょうか?何となく大企業はニューヨーク証券取引所、IT系はナスダックというイメージはありますが、明確な違いはないような気もしています。
例えば自分が会社を経営していて、上場しよう!となった場合に、どちらに上場するのかはどうやって決めるのでしょう?片方の上場基準しか満たしていなければ迷う余地はありませんが、両方とも基準を満たしている場合は経営者が好きな方に上場するのでしょうか?
回答
昔はニューヨーク証券取引所(NYSE)とナスダック証券取引所(Nasdaq)の間には大きな違いがあったんですが、今はその違いがあまりなくなっているだけなんです。
もともとはみんながイメージするような、立ち合い場があって証券マンが身振りと声で売り買いするような米国の証券所はNYSEでした。東証=NYSEと思ってもらうとイメージしやすいです。ただNYSEは上場基準が厳しかったので、一流企業しか上場できませんでした。だからNYSEやその上場企業を俗に「ビッグボード」とか「メインボード」と呼びます。東証プライムみたいなイメージです。
昔はこれにアメリカン証券取引所(AMEX)や、地方証券取引所のボストン証券取引所やフィラデルフィア証券取引所、ロスアンジェルス証券取引所、サンフランシスコのパシフィック証券取引所などがあるという構成でした。ずっと全米第2位の証券取引所はアメリカン証券取引所だったんですが、これはもともとはニューヨークの証券場外取引ブローカーが、NYSEには上場できないクラスの銘柄をニューヨーク証券取引所の外で取り引きしていたものを、場所を借りて屋内で取り引きし始めたのが発祥です。当初はニューヨーク場外証券取引所と言っていたものを、1953年にアメリカン証券取引所に改称しました。
この成り立ちからずっと、このAMEXが事実上、NYSEを補完する市場として機能してきたので、中小型株はAMEXで取り引きされました。これにさらに店頭市場(OTC=Over The Counter市場)というものもあります。これは現在、OTC Markets Groupというところが運営していて、これまで挙げたようなところには上場できないような銘柄が幅広く取引されます。SECの規制も極めて緩やかです。
このOTCにも階層があるんですが、最も規制が緩いOTC Pinkは監査すら不要でSECには簡易的な届け出をするだけで登録できます。実は現在でもこのOTC Pinkに登録されているピンクシート銘柄は3000-4000社あるとされています。この中には時価総額がそこそこある銘柄もありますが、万年赤字で潰れそうな企業も、株価が数セントという銘柄やぜんぜん取り引きがない銘柄もあります。
こうした構成だった米国の証券市場に大きな変革をもたらしたのが、今回のテーマであるNasdaqです。これにはもともとNASD(
全米証券業協会)という組織がありました。これは本来は米国の証券業者による証券市場自主規制機関でした。このNASDは1938年に成立した改正証券取引所法(マロニー法)に基づいて作られたもので、今日に至るまで全米で組成された唯一の登録証券業協会です。このNASDに参加している証券会社が、先に挙げた店頭取引市場を主導してきたという経緯があります。こうした証券会社が「NQB(National Quotation Bureau)というところが発行する日刊の気配表を元に取り引きしたんですが、これがピンクシートだったので、先のピンクシート銘柄というものが誕生しました。ちなみにNQBが現在のOTC Market Groupのご先祖さまです。
ところがAMEXで大掛かりな不正が発覚するという事件があって、ケネディ大統領以降、数回に渡って規制が緩く信用が低い証券市場に対する規制や締め付けが行われました。ここでいろいろ紆余曲折があったんですが、その結果、NASDが新たに立ち会い場を持たない電子証券取引所を運営することになりました。
これがNasdaqというわけです。Nasdaqは世界最初の電子証券取引所で、スタートしたのは1971年2月8日です。
ですからNasdaqは発足当初は登録するための規制が比較的緩い実質的な店頭市場でした。Nasdaqのフルネームを記載している資料をあまり見かけませんが、National Association of Securities Dealers Automated Quotation で正しかったはずです。
このNasdaq は当初はさほど大きな市場ではありませんでしたが、NASDが上手く運営したこともあって順調に取引量を拡大していきます。しかしこれを大きく変えたのが、1990年代に発生したIT革命とそれに続くドットコムバブルです。1970年代以降に登場したIT企業の多くがNYSEの厳しい上場基準を満たせなかったので、Nasdaqで株式を公開して資金を調達しようとしたからです。Apple がNasdaq に上場したのが会社設立4年後の1980年、Microsoftが上場したのは会社設立11年後の1986年のことです。
今のAppleやMicrosoft しかご存知ない方は、さぞや大型のIPOで購入者が殺到したと思うでしょうが、当時はまったくそんなことはありませんでした。MSFTの当時の上場目論見書を確認すると、IPOに際しての新規発行株数が200万株、既存株主による売り出し株数が79.5万株とありますから、昨今の東証グロース市場でIPOする企業と大して変わりません。でもNasdaq上場申請時のMSFTの年間売上高はわずか8500万ドル(1985年)でしたから、まあそんなもんでしょう。当時MSFTはIPOするまで、日本では今はなきアスキーと代理店契約を結んでいましたが、アスキーが当時その気になれば、ひょっとするとMSFTを買収できたかもしれません。IPO をきっかけに提携を解消するんですが、惜しいことをしました。当然、AAPLもMSFTもIPO時点で当時のNYSEの上場基準は満たしていません。
ところがこうしたIT企業が1990年代のIT革命で次々に化けてしまいます。当時の証券市場のヒエラルキーから言えば、そうした企業はより信用と格式があるNYSEに市場を鞍替えするものだったんですが、こうした企業は鞍替えしませんでした。これは育ててもらったNasdaqに恩義を感じていたとも、立ち会い取引所ではなく電子証券取引所であるということに彼らが親和性を感じていたからだとも、またNYSEの高い上場コストに鞍替えの意味を感じなかったからだとも言われています。こうして1990年代、これらの企業が急成長し、資金が集まって株価が上昇、時価総額が増えることでNasdaq市場そのものの時価総額や取引量がどんどん増えていきました。
この結果、Nasdaq市場には有望なIT企業が集まっているという印象が強くなり、新しい有望なIT企業がNasdaqで株式を公開するというNasdaqにとっての好循環が発生しました。ドットコムバブルではまだ事業計画しかないようなレベルの企業までIPOして多額の資金を調達したわけですが、NYSEは上場基準が厳しかったですから、これらの企業もIPOするのにNasdaqを選んだので、Nasdaqの時価総額は急速に膨れ上がりました。
そして当時、NASDとNasdaqの会長兼CEOを務めたフランク・ザーブ氏がかなり事業意欲旺盛な人物でした。投資銀行勤務のあと、米エネルギー庁長官になったり、名門投資銀行のSmith Barneyの会長兼CEOを務めたりしたやり手で、米Nasdaqを急拡大させるとともに、Nasdaqの世界戦略を打ち出しました。北米以外に日本と欧州で同様の電子証券取引所システムを稼働させ、世界で24時間常に開いている市場を作るという壮大な構想でした。日本では孫正義さんと意気投合して、NASDとソフトバンクが共同でナスダックジャパンという会社を設立しています。このナスダックジャパンでは当初、AAPLやMSFTも円建てで取引できるという計画でした。僕はその頃、何度かザーブ氏にインタビューしていますが、よく言えば精力的、悪く言えば大風呂敷だったので、これは孫さんと意気があうよなと思ったものです。
ただナスダックジャパンは既存の日本の証券会社の賛同をあまり得られなかったり、規制当局とのやり取りに手間取るなど、市場の開設でドタバタしました。その結果、ナスダックジャパンは自前の電子証券取引所を立ち上げることが出来ず、当時の大阪証券取引所で組んで2000年6月、ナスダックジャパン市場としてひっそりと開設されました。
ただ、このナスダックジャパンの動きに慌てたのが、東京証券取引所です。これに負けてはならじと大慌てで、ドタバタしているナスダックジャパンより一足早く1999年11月に開設したのが東証マザーズ市場です。上場基準も当時の東証2部などよりはるかに緩めてありました。僕はこの東証マザーズの開設発表の記者会見にも行っていますが、旧知の東証関係者がかなりナスダックジャパンに対して対抗意識を持っていたことを記憶しています。11月の市場開設なのに翌月の12月22日にインターネット総合研究所を1号上場させるなんて、当時の東証ではありえないスピード感覚でした。
一連のNasdaqの世界戦略にストップをかけたのが、ドットコムバブルの終焉です。Nasdaqの時価総額は一気にシュリンクしたし、ナスダックジャパンなども不発に終わりました。ナスダックジャパンは上場企業があまりいなく、東証マザーズとの競争に敗れたので、2年後の2002年10月にNasdaqは日本市場から撤退しています。この業務を大証が直接受け継いで開設したのが、大証ヘラクレス市場です。米国でもフランク・ザーブ氏が2001年にNASDとNasdaqの会長をいずれも退いています。
こうしていったんは頓挫したNasdaqの膨張ですが、上場しているIT企業は、ドットコムバブル期のミソもク◯という状態は終わりましたが、優良企業は成長を続けたので拡大は続きました。一方、NYSEにも大きな変化がありました。NYSEは長い間、立ち会い場の立会人による「オープン・アウト・クライ」、つまり手振りと声で注文を出し、それでオークション(競争)するという手法をメインにしてきましたが、2004年8月に200年以上続いたこの仕組みを改めて、従来のオークション取引と電子取引システムを並立させる「ハイブリッド市場構想」を打ち出したからです。翌2005年には電子証券取引システム(ECN)を運営するArchipelago Holdings 社を買収して、これが一気に加速しました。現在では取引のほとんどが電子証券取引システムを介して行われるようになっています。
これ以降はNYSEとNasdaqのM&A、そして上場企業争奪競争の歴史になります。NYSEはArchlapego社買収に要した巨額の資金を賄うため、従来は非営利の会員組織だったNYSEの上に持株会社のNYSE Groupを設立、これをNYSEに上場させました。2007年にはパリやアムステルダムなど欧州の市場を運営するEuronextと合併して世界最大の証券取引所運営会社、NYSE Euronext 社が誕生しています。
ところが2013年には、2000年に設立されて以降、ロンドン国際石油取引所やニューヨーク商品取引所を精力的に買収してきたインターコンチネンタル取引所(ICE)に逆に買収されて、NYSE Euronext はその傘下になっています。この間にNasdaqに地位を奪われて出来高が減少していたAMEXを買収したりしています。一方、Nasdaqはボストンやフィラデルフィアなどの地方証券取引所を買収しています。また欧州の雄、OMXと経営統合しています。
このような経過を経て、NYSEとNasdaq の垣根はどんどん低くなってきました。かつてはティッカーシンボルという証券コードが1文字から3文字であればNYSE、4文字以上ならNasdaqだったんですが、この例外も増えてきました。
両者の大きな違いはもはや、①市場区分、②上場基準、ぐらいなのかもしれません。市場区分に関しては、NYSEが今なお2000社を超える上場企業がすべて単一区分なのに対して、Nasdaqには大型株が所属するGS(Global Select Market)、中型株のGM(Global Market)、そして小型株のCM(Capital Market)という3区分が存在します。
この結果、NYSEの上場基準は今なお世界一厳しいとされていて、例えば利益基準では、僕の記憶に間違いなければ、「過去3年の税引き前利益が1000万ドル以上」だとか流通条件や財務条件がいろいろあって、浮動株の時価総額も1億ドル以上なければなりません。内部統制などへのチェックも極めて厳格です。もちろん上場維持基準も厳しいです。
一方、Nasdaqの場合、小型株向けのNasdaq CMが存在する分、上場基準は緩やかです。利益基準だとCMなら「直近年度、ないし過去3年のうち2年の事業利益が75万ドル以上」です。単純な比較はできないものの、桁がかなり違うと思っていいでしょう。浮動株の時価総額も500万ドルあれば上場できます。上場維持基準もNYSEに比べると緩やかです。
そのためIPO企業の争奪戦ではこのところNasdaqが優位に立っていて、例えばこの間の大型上場だったARMもNasdaqを選んでいます。ただ一昨年のBLCOみたいな一流企業には、まだまだNYSEのブランド力があるようです。
これは米国の市場で株式を公開している日本企業を見てもよくわかります。例えば三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクや野村證券、トヨタ、ホンダ、ソニーといった気位が高そうな企業は、多額の上場費用や上場維持費用をかけてNYSEにADR(米国預託証券)というものを上場しています。コストとハードルが高過ぎるので、現在NYSEに上場している日本企業はわずか10社程度です。それ以外のほとんどの日本企業、例えばソフトバンクグループやイオン、味の素、キリン、日本郵船といった名だたる企業は、NYSEではなくOTCに銘柄を登録する道を選んでいます。昔の話ですが、とあるメガバンクの頭取と話をしていてNYSEへの上場費用や維持コストを聞き、あんまり高かったので、びっくりしたことがあります。
ただ今後の僕の予想を言えば、NYSEも何らかの形で上場基準を緩めていかざるえないでしょう。そのためには新たな市場区分を設ける必要もあるかと。現在、NYSEは買収によって、傘下に旧AMEXのNYSE Americanと旧ArchipelagoのNYSE Arcaを抱えるようになりましたが、今のところ独立して運用させているこれらの市場をNYSEと本格的に一体運用する日が来るんじゃないかというわけです。
これはNYSEやNasdaqには新たなライバルがいくつか登場しているからです。度重なるM&Aの結果、米国の証券取引所はほぼNYSEを傘下に置くICEグループとNasdaq OMXグループ、それにCboe(シカゴオプション取引所など)の3グループに再編されたわけですが、まず、この寡占を嫌って新しい市場を開設する動きが出ています。
2019年に設立が発表されて2020年9月4日に取り引きを開始したMEMX(Members Exchange)もそうした取引所の一つで、モルガン・スタンレー、チャールズシュワブ、ゴールドマンサックス、Eトレード、フィディリティ、UBS、JPモルガンチェース、バンカメといった非常に強力な証券会社や投資銀行がメンバーになって作られた会員制の証券取引所です。現時点で直ちに個人投資家に直接関係するものではないですが、既存取引所の寡占に対抗して、取引コストの高止まりを防ぐのが狙いとされています。
こうした動きには他にも「リーン・スタートアップ」で知られるエリック・リース氏が自らの主張を実現させるために開設したLTSE(Long-Term Stock Exchange)があり、2019年にSECに承認・登録されています。2021年にAsanaが1号上場して現在2社が上場しています。
電子証券取引システムの普及やネット証券会社の一般化によって、こうした取引所を開設するハードルは低くなってきました。特にECN と呼ばれる電子証券取引ネットワークの出来高が急拡大していることは、見逃せない現象です。NYSEが買収したArchipelago社はその後、NYSE Arcaとして独立して運営され、新興企業などが上場しています。これは今やNYSEへの上場を目指す新興企業の予備軍が株式を公開する場にもなりつつあります。先に言ったように、将来的にこのNYSE ArcaがNYSEの公のグロース市場区分になる可能性もあると思います。
また、日本ではPTSと呼ばれる私設の電子証券取引ネットワーク、ATS(Alternative Trading System)の出来高も増えてきました。
例えば最大級の私設ECNであるBetter Alternative Trading System Global Markets(BATS)は、高速取引システムで知られたDirect Edge 社を買収した結果、米国株式の取引量では一時、Nasdaq OMXグループを上回って、NYSEグループに匹敵するとも言われました。このBATSは2017年、Cboe グループに32億ドルで買収されていますが、現在もCboe 傘下の証券取引市場として機能しています。
例えば日本のマネックス証券が米国株取引にあたってリアルタイム株価情報の提供を受けているのは、BATS Exchangeであることが、同社サイトで表記されています。取引量だけであれば実は米国はもはやNYSEとNasdaqの2大証券取引所ではなく、Cboeグループを含む3大なんですね。Cboeグループは現在、積極的な世界戦略を勧めているところで、Cboe Europe に加えて、2021年に日本でPTSを運営していたチャイエックス社を買収、これをCboe Japanに改称し、日本進出を果たしています。
1971年にスタートしたNasdaqが急成長を遂げた結果、一般的な個人投資家から見て「NYSEとNasdaqの違いがわからなくなった」というのが現時点での状況ですが、10年先、20年先を考えると、このように、これからどうなるのかはぜんぜんわかりません。
(調子に乗って、なんかえらく長い回答をした気がする💦。これはもうnoteの世界かな🤣)。
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