質問
2024年03月06日 回答
コネクテッドカーも中国用品を排除するって言ってたけど、アメリカで流通してる車に言うほど中国の部品ってありますっけ?
回答
それはさすがに勉強不足ですよ。TeslaのModel3が搭載している肝心要の「バッテリー」は中国製です。確かにガソリン車の部品ということに関しては、中国企業のプレゼンスはそこまでは大きくありません。しかし電気自動車(EV)では状況が一変します。中国が国策として手厚い補助金のもとで育成を図ってきたからです。
EV車で必要なリチウムがまずポイントです。中国は有力な生産国の一つですが、猛烈な輸入国でもあります。「白いダイヤモンド」と言われるようになったリチウムの主な生産国はオーストラリアで、次いでチリ、中国ですが、「埋蔵国」はボリビア、チリ、アルゼンチンの3国で、俗に「リチウムトライアングル」とも呼ばれています。およそ地球の埋蔵量の6割がこの3国の地下に眠っているそうです、
実はこの南米でのリチウム採掘の利権で先行したのは豊田通商です。アルゼンチンに利権があります。さすがトヨタ系の商社といったところでしょうか。しかし現在、このリチウムトライアングルで利権獲得の大攻勢をかけているのが中国なんです。中国最大のリチウム会社、Ganfeng Lithium なんかが開発権を買い漁っているからです。これを中国政府の一帯一路戦略が後押ししている格好です。その結果、アルゼンチンやチリが生産する炭酸リチウムの半分程度が中国に輸出されるようになったと言われています。ボリビアは統計が手元にありません。
とりあえずSQMというチリの企業とGanfeng、Thianqi Lithiumの中国2社、それに米国のLivent、Albemarleの合計5社で世界のリチウム生産の7割以上を占めているとされています。石油におけるオイルメジャーみたいなものです。このうち2018年には中国のThianqiがSQMの株式の24%を取得し、そのSQMがオーストラリアのAzureを買収するといった大掛かりな再編が続いています。最近ではチリのボリッジ大統領がチリのリチウム鉱山の国有化策を打ち出したので、チリに利権を持つSQMとAlbemarleの株価が急落するなんていうこともありました。
こうした動きはまあ言ってみれば中国が世界戦略として「リチウムを抑えにかかっている」と言っていいでしょう。昔は「鉄が国家」で現在は「半導体は産業の米」と言われますが、その次に来るのがリチウムだっていう可能性があるわけです。この辺の状況は南米3国のナショナリズムもあって複雑なんですが、現時点で中国が欧米諸国を先行しているのは間違いないと思います。最近はEV時代が来るからリチウム価格が上がるぞっていうことでリチウム鉱山をどんどん開発した結果、リチウム価格が下落していますが、こうなると純粋な企業原理でやっているLiventやAlbemarleが競争で厳しくなっていくんじゃないかと僕は予想しています。
さてそれではこのリチウムをベースに作られる「リチウムイオン電池」の原理を世界で最初に確立したのは誰でしょう?はい、そこのキミ。
そうです。旭化成の吉野彰さんです。1985年のことでした。吉野さんが世界で初めてリチウムイオン2次電池の基本概念を確立、その功績によって吉野さんは2019年にノーベル賞を受賞しています。ただ旭化成と東芝が合弁で進めたエイティーバッテリーは実用化で出遅れたので、世界で最初にリチウムイオン二次電池を商品化できたのは西美緒さんが率いたソニーエナジーテックという会社です。皆さんも大昔ソニーリチウムイオン電池にお世話になった記憶があるんじゃないでしょうか。
ここまで読めばわかるように、リチウムイオン電池で先行したのは圧倒的に日本でした。でもまあ相変わらずなんというか、この技術に目を付けたのは米国などで、日本政府ではなかったんですが。それでも10年ぐらい前までは、「リチウム電池と言えば日本」という時代がありました。EVに使えるようなレベルのリチウムイオン二次電池の世界シェアの約5割以上を日本が占めていました。残念ながらこれは過去形です。当時は日本に続く韓国、中国の3国で9割以上占めていたと言われます。
このうち日本のシェアがズルズルと下がって2020年ぐらいには20%を切るレベルになり、最近はもっと下がっています。代わって中国と韓国がリチウムイオン電池大国になりました。現在では中国が世界シェアの5割以上を占めていると言われます。最近になって経産省が慌てて「蓄電池産業戦略」というものを取りまとめて2022年8月に発表しています。ここでは日本のリチウム電池製造能力の向上や技術者の育成、それに海外でのリチウム利権の確保なんかが盛り込まれていましたが、これを読んだ僕の感想は「ばーか、10年おせ〜よ」です。この辺の話になるとつい言葉が汚くなります。
とにかく電池では日本以上に米国やEUが出遅れていて、影も形もありません。ほぼ中国と韓国、そして日本に依存しています。このうち車載用のリチウムイオン電池では韓国のLGエナジーソリューションズ、中国のCATL、BYD、そして日本のパナソニックで、この4社でEV用のリチウムイオン電池の世界シェアの7割以上を占めると言われています。このうち日本のシェアがニアリーイコールでパナソニックなのに対して、中国はCATLに続く企業が次々と誕生しています。また、中国政府の手厚い補助金政策によって研究開発もベンチャー企業の育成も盛んに進められています。
さらに頭が痛いのが、リチウムイオン電池で使われるその他の材料の状況です。
まず負極で使われる「黒鉛」ですが、世界の生産の6割が中国です。こうなると価格でとうてい太刀打ちできないので、黒鉛生産ではBTRや上海杉杉などの中国企業のシェアが6-7割と言われています。日本はせいぜい昭和電工マテリアルズの7%です。これはもう勝ち目がないので黒鉛に代わる次世代負極材の開発が急務と言われています。
セパレータは上海エナジーが世界首位で星源材質が2位、3位にようやく旭化成が顔を出します。日本では他に東レが有力プレーヤーで安全性では日本製が上回っていると言われますが、価格ではもう勝てません。
正極材で使われる物質のうちNCA(ニッケル炭酸リチウム)で世界シェアの4割を占めるのが住友金属鉱山で、同社が生産したNCAをもとにパナソニックが電池を作ってTeslaに納品してきました。しかし中国のBTRや韓国のECOPROが最近のしてきました。NCAではコバルトを使うんですが、世界最大のシェアを誇るコンゴに対して、世界最大の精錬国は中国で約6割です。だからこれからもBTRがのしてくるでしょう。もう一つ有力な正極材であるNCM(三元系)ではLGケミカルの他は湖南長遠やB&M、北京当昇なんかが続いていて、日本では日亜化学の世界シェアが7-8%です。
正極材ではニッケルやコバルトなどを使わないLFP(リン酸鉄リチウム)が急速にシェアを拡大しています。LFP電池については日本では住友金属鉱山が参入を表明しましたが、有力企業には中国のCATL、BYDや国軒高科といった電池メーカーが名を連ねます。中国のEVではこのLFP系リチウム電池を搭載したEVがEVの新車の7割を占めるようになったとも言われています。TeslaがModel3やModel Yで搭載しているのもCATLのLFP電池です。パナソニックのパートナーだったTeslaが中国製に切り替えたわけです。
この結果、僕の手元にある韓国のSNEリサーチという市場調査会社のレポートでは、2023年1-8月の「EV用バッテリー市場」のシェアをCATLが37%まで拡大、2位のBYDを足すと中国2社のシェアが5割を超えてきました。3位はLGの14%で、パナソニックは4位に転落、約7%だそうです。
CATLなんて2011年創業のベンチャー企業なんですが、2023年の上半期の売上高が4兆円近かったので、もう笑ってしまいました。中国のEV車メーカーやTeslaのほか、VW、BMW、ダイムラー、トヨタ、日産、ホンダ、現代自動車と取り引きがあるそうです。
でもこのCATLでさえ追い上げられているというのが、中国のEV向け電池市場の恐ろしいところです。LFP電池はレアメタルを使わないので環境に優しく価格が安価で製造しやすいというのが利点なんですが、エネルギー密度が低いという大きな欠点があります。つまり1回の充電による航続距離が短く、これを解消するにはバッテリーを大きくするしかありません。つまり小型車ではLFP電池は使いにくいわけです。
これに対する技術革新が進んでいるんですが、大手メーカーの国軒高科がLFMP電池(リン酸マンガン鉄リチウム電池)を開発したと発表して昨年話題になりました。これはニッケルの代わりにマンガンを使い、従来のLFP電池より安い上にエネルギー密度が高いのが特徴で、画期的な技術と言われます。この発表がされた時には国軒高科の株価が2倍に跳ね上がったものです。
もちろんCATLも負けているわけではなく、リチウムさえ使わない「ナトリウムイオン電池(NIB)」という技術を用いた車載用バッテリーを昨年発表しています。NIB電池そのものは昔からあったんですが、エネルギー密度がリチウムイオン電池より低く、その割に重いとされてきました。CATLはそれを技術革新で乗り越えようとしたわけです。今やバッテリー技術の世界の最先端を行っているのは中国と言っていいと思います。
EVになればガソリン車と違ってバッテリーがすべてのキモになります。以前、安全保障政策上、欧米諸国、そして日本はEV化なんて本当に進められるのか、あるいは進めてもいいのかという回答をポストしたことがあります。このEVで使うバッテリーが中国に抑えられているんですから、バイデン政権や米国の自動車業界が慌てるのが「当たり前」です。
EV車の「バッテリー」のサプライチェーンをおさらいすると、
①電池資源。リチウムを含めた「鉱物資源」はどうやら中国が抑えそう。世界のリチウムの半分は中国で精錬されており、チリとの2カ国で約8割です。中国が出荷を止めたらリチウムイオン電池なんて生産できません、コバルトも中国で半分以上精錬されています、黒鉛も中国です。つまりEV車なんて中国次第なんです。
②電池材料。これはこれまで正極材で住友金属鉱山が頑張ってきましたが、LFP電池への移行で中国勢がのしてきました。負極材は圧倒的に中国で、セパレータも中国勢が5割ぐらい、電解液も広州天賜とか新宙邦なんかの中国勢が4割ぐらいだと推定しています。電池材料でも覇権を握るのはおそらく中国です。
③電池セル。設備投資が必要で量産効果が効く部分です。かつては日本優位でしたが、現在では中国と韓国の企業のウェイトが急速に増しています。かつてのメモリ半導体の日本企業凋落の再現です。
④電池管理システム。BMSと呼ばれるものです。ここにきてようやくTeslaが顔を出します。電池の過電圧や過剰な昇温、それに漏電などを制御するのでEV車の安全性やパフォーマンスに直接結び付きます。現状は確かに経験で勝るTesla優位だと思いますが、どんどんEV化を進めている中国企業がこれからは主流になってくると予想します。
とりわけ勢いがあるのがBYDです。この会社はリチウムイオン電池の製造メーカーとしてもCATLに続いて世界2位なんですよね。ガソリン車がエンジン性能勝負であるように、EV車はバッテリー勝負になります。となると、そのバッテリーの製造技術から研究しちゃっているBYDとCATLのバッテリー供給を受けてBMSを載せているTeslaのどちらに勝ち目がありそうでしょうか?
中国市場ではすでに大きな差がついていて、手元にある昨年1-10月の中国市場のEV出荷台数は1位のBYDが214万台と2位のTesla中国の46万台を圧倒しています。微差なのでなんとも言えませんが2023年通期の世界最大のEV車メーカーはTeslaではなくBYDになった可能性もあります。
このBYDの躍進を支えているのが、「ブレードバッテリー」という技術です。CATLに切り替えることでLFP電池を採用したTeslaですが、BYDはすでにこのLFP電池をずっと使ってきており、薄く長い形状のバッテリーを製造することでバッテリーパックへの装填密度を上げています。つまり単位容積あたりの蓄電量で優れているわけです。エネルギー密度が低いLFP電池にとってはこれは大きなポイントです。TeslaはCATLと同レベルのバッテリー開発を進めないと、いずれは勝てなくなると思います。
BYDはこの躍進の結果、出荷台数で2023年7-9月期にはメルセデスベンツなどを抜いて世界9位にまで上がりました。伸びが違うのですでに日産自動車を抜いている可能性が高いです。なんだ中国市場で売っているからじゃんと思われた方もいるでしょうが、2023年の中国の自動車輸出台数は500万台を超えて、日本を抜いて世界首位の自動車輸出大国に躍り出ています。
中国政府の馬鹿みたいに手厚いEV車保護策が2022年末で終了したので、中国のEV車市場は曲がり角に来たとも言われています。2022年に1万台以上の車を出荷した企業が中国では41社あったそうですから、これからその淘汰が進むと思いますが、勝ち組は輸出を強化すると思います。
以上のような状況ですから、中国のEV自動車メーカーやバッテリーなどのEV部品メーカーが、メキシコなんかを迂回してどんどん米国市場に進出したら、米国の自動車産業が吹っ飛ぶと米政府や米産業界が警戒するのは「当たり前」です。それよりサプライチェーンを断ち切ったら、米国の自動車メーカーはもうEV車を作れなくなるじゃんと、そっちの方を僕は心配したんですが。
TeslaがCATLの要らなくなった設備を購入して、ネバダ州にバッテリーセルの製造工場を作るというニュースが先月Bloombergで報道されていましたが、事実であるとすれば、この規制逃れだと思います。でもCATLの支援なしにまともなバッテリーセルの製造工場が作れるか疑わしいし、CATLのお下がりでBYDと戦っていけるんでしょうか?
これに「コネクテッドカー」となると、車は「スマホ化する」とも言われています。Software Defined Vehicle(SDV)なんて呼ばれます。さて世界のスマホの「中身」を生産しているのはどこでしょうか?
Appleは車を断念したようですが、Xiaomi(シャオミ)やBaidu(バイドゥ)はやると言っています。このうちBaiduは大手自動車メーカーの吉利汽車と業務提携して、BaiduのAI技術と吉利の自動車生産技術を組み合わせてレベル4の自動運転ができるコネクテッドカーを量産すると言っています。XiaomiブランドのEVは早ければ今年登場する予定です。
そしてスマホではもはやiPhoneを蹴っ飛ばしたHuaweiの出番です。Huawei は今のところ「自社製の車はやらない」と言っていますが、すでにカーナビやドラレコにもなる「スマートディスプレイ」なるものを発表済みです。これをスマホと融合させる独自規格「HiCar」も発表して市場支配を狙っています。この他にもHuaweiはEVの電気を統合的に管理する「DriveOne」だとか、対象物にレーザー光を照射して距離を測る自動運転には欠かせない高性能センサー「LiDER」、拡張現実ヘッドアップディスプレイ「AR HUD」、そして自動運転用OS「ADS2.0 」なんかを次々と投入しています。そろそろ成長も鈍化しそうな携帯端末市場に代わるメシの種ってことでしょう。
Huaweiはこの自動車関連事業を「Harmony Intelligent Mobility Alliance」、略してHIMAというブランドのもとで統合しました。昨年11月に開かれた広州モーターショウではすでにHuawei のHIMAと提携した奇瑞汽車などの4車種を展示したそうです。自分で車体を作らないだけで、自動車事業にむちゃくちゃ本気ですやん。
そうそう台湾のホンハイだって今後3ヵ年で世界のEV車300万台の部品サプライヤーになることを目指すほか、自らも5%程度の世界シェアを獲得したいと言っています。AppleのiPhoneを作って儲けたのと同じ手口でEV車でもう1回儲けようというんでしょう。やるなぁ、テリー・ゴウ。このホンハイのEV自動車設計部門「鴻華先進科技」という会社は早速去年11月に台湾のグロース市場「台湾創新板」に上場しています。前途は厳しいと見てか初値は冴えませんでしたが、それでも初日の終値ベースの時価総額は4000億円に達しています。
とまあEVだ、コネクテッドカーだ、スマートカーだっていう話になると、俄然中華圏が元気になるんです。これは米国もドイツも日本も警戒せざるを得ません。
そうだ、経産省の「蓄電池産業戦略」には反省文が載っていて、それによれば「(中韓は)政府の強力な支援を背景に、液体系リチウムイオン電池の技術で日本に追いつき、コスト面を含めて国際競争力で逆転され」「日本の産業界は国内志向のため、グローバル市場の成長を十分に取り込めていなかった」と分析、「このままでは(日本企業が研究開発で進んでいる)全固体電池が実用される前に、日本企業は疲弊して撤退する可能性」があると言っています。「車載用のみならず、定置用蓄電池も海外に頼らざる得ない状況になる流れ」って、情勢分析は僕も同じなんですが、あんた責任者みたいなもんやん、しっかりしなはれ😅。
この経産省の資料では、政策パッケージの必要性とかグローバルアライアンスの必要性とか資源確保の必要性とか蓄電池に関わる人材3万人の育成の必要性とか、いろいろ書かれているんですが、どうもそれで中国に追いつける気が僕にはしません。もうリチウムイオン電池で中国を再逆転するのは無理と割り切って、水素を使った燃料電池などの新技術に注力、EV車ではなく無理矢理FCV(燃料電池車)の時代にしてしまって、ゲームチェンジを狙った方が、長期的な視野では得策だっていう気もします。
いやはや長くなっちまったぜ😅。
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