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もしも購入した美術品が贋作だった時、それらをどういう風に扱いますか?

質問

もしも購入した美術品が贋作だった時、りおぽんさんはそれらをどういう風に扱いますか?りおぽんさんは気に入らない美術品は買わない主義だと思うので、贋作といえど一応は審査基準を突破している作品になると思うのですが、、、贋作と分かった上で飾りますか?それとも、骨董箱に入れますか🤣

回答

さすがに僕は出来の悪い贋作を掴むことはありません。僕にも得意分野と不得意分野があり、得意分野であれば相当の鑑定するための勉強をして来ています。旅先でふと飛び込んだ画廊や古美術商となるとわかりませんが、通常お取り引きしているのは、その道で知られた画商や古美術商です。

ですから僕が掴むのは、僕や専門家がみんな「真作」だと判定した作品が、例えば最新の科学鑑定によって覆される場合となります。僕が所蔵している絵画で「最高額の贋作」は19世紀末のとある画家のものですが、これは世界的に有名な画廊から鑑定書付きで購入したもので、美術館での展示歴もありました。

これが最新の科学鑑定で、絵の具や接着剤の中のタンパク質の元素分析をやった結果、微量のストロンチウム90やセシウム137という、核実験が行われるようになるまで、自然界には存在していなかった放射性同位元素が見つかったため、「19世紀末に描かれたものではありえない」と鑑定結果が覆ったわけです。「あー、やられたわ」という感じでした。

まず述べたいのは、この世界はややこしいことに贋作には贋作として評価されてしまう場合もあるということです。先の回答で触れたメーヘレンのフェルメールの贋作なんて美術館が出来てしまったぐらいですし、有名な贋作事件になってしまったため、メーヘレン自体の描いた絵の価値が上がってしまいました。「メーヘレンの絵」とあればフェルメールの絵でなくても欲しいコレクターはたくさんいるでしょう。まことにややこしい世界です。

日本の贋作事件では、「ルグロ事件」というのがあります。フランス人画商フェルナン・ルグロが1965年に来日して、日本人にモディリアーニなどの贋作を売り付けたという事件です。

騙された方で最も有名なのは国立西洋美術館で、アンドレ・ドランの「ロンドン橋」、ラウル・デュフィの「アンジュ湾」の2作をルグロから、おそらく今のお金に換算でして4億円ぐらいを投じて購入しています。

あたり前ですが、国立西洋美術館は学芸員など専門家が絵を観て買っています。もちろん鑑定書付きでした。ドランの未亡人もドランの作品であると太鼓判を押しました。さらには当時来日していたフランスの文化大臣アンドレ・マルローまでが「素晴らしい作品ですね。国外流出するのはもったいない」なんて、この2枚の作品を観てコメントしました。

ルグロが売る絵には贋作が混ざっているとかねてより評判ではあったそうですが、ここまで条件が揃ってしまいました。

そして国立西洋美術館はルグロに騙され、もちろん購入後はドラン、デュフィの絵として展示していました。

贋作と発覚したのは国立西洋美術館の手によるものではなく、画商ルグロが別の贋作事件で国際指名手配になった上、その贋作を請け負っていた絵師のエルミア・ド・ホーリィが仲違いして、ホーリィが作家クリフォード・アーヴィングの手によって「贋作」という暴露本を出版したためでした。

国立西洋美術館が購入したお金の元は税金ですから、この事件は国会でも取り上げれて追及されています。そして国立西洋美術館は「今後この2枚の絵は展示しない」と表明することになりました。

ただ国立西洋美術館は「破棄処分にする」とは言っていません。「展示しない」と言ったんです。聞くところでは「研究史料」として倉庫で保管されているんだそうです。

もしこの絵を国立西洋美術館が「ドランやデュフィの真作」として売れば犯罪です。しかし「贋作」として売るのは犯罪ではありません。さすがに国立西洋美術館にとっては歴史に残る恥ですから、売ることはないと思いますが、「独立行政法人国立美術館」が万が一売りに出せばどうなるでしょう。

「ドランやデュフィの絵」という評価は出来ません。しかし「ルグロ事件」という世界的な問題になった贋作事件の1枚です。そして「あの国立西洋美術館が騙された絵」というめちゃくちゃいわくありの2枚になってしまいました。

僕はドランもデュフィも趣味ではないので、真作であったら買いません。しかし国立西洋美術館が今も隠し持っている2枚なら興味が湧いてしまいます。まあそういうコレクターはいっぱいいそうですが。「今は国立西洋美術館の学芸員さん以外は観られない2枚を自分の目で見て見たい、国立西洋美術館が騙される絵ってどれほど出来が良かったんだろう」と思ってしまうのが、コレクターのさがというものです。

もちろんちゃんとした美術商の人たちは眉をひそめるでしょうが、この2枚の贋作にはそういう意味での「価値」が出てしまいました。なお、この2枚は「限りなく贋作として疑わしい」というのであって「100%贋作」と決まったわけでもありません。

同様の事件では戦前に大名華族という触れ込みの春峯庵という人物が起こした「春峯庵事件」があります。なんと「東洲斎写楽の肉筆画」が見つかったというものでした。これを今の朝日新聞である東京朝日新聞が「写楽の肉筆画あらわる」と大々的に報じます。他にも「喜多川歌麿の肉筆画」などの珍しい作品があり、当時、美術史研究で権威だった東洋大学教授の笹川臨風が「いずれも得難い珍品」と太鼓判を押しました。

そして臨風が序文を書いた図録が作成され、下谷にあった「伊香保」という料亭で入札会が行われました。結局、現在の価格で10億円ほどの入札がありました。しかしこれも関係者からの告発があって、読売新聞などが「春峯庵は真っ赤なニセモノ」と報じたため、司直の捜査が入り、結果として浮世絵古美術商や出版業者、神官などが仕組んだ大掛かりな贋作事件であって、図録に収録されてのはすべて贋作であることが判明しました。そして矢田一家という贋作一家が描いたものであることも分かり、たくさんの逮捕者を出しています。

ただ鑑定し、序文を寄せた笹川臨風だけは「贋作を見抜けなかっただけ」ということで逮捕を免れていますが、法外な金額を受け取って、甘い鑑定をしていたことで、専門家としての評価を失墜、すべての公職を退いています。他にも2人の美術評価家が贋作を下手褒めしていた文章を寄せていたため面目を失っています。

また「浮世絵の肉筆画」というもの自体が美術品コレクターの間で信用されなくなったため、本来なら希少価値がある肉筆画が版画よりお安いという異常事態になり、浮世絵研究者も画商も浮世絵肉筆画を扱うのに躊躇するという影響も出ています。

さてこの「春峯庵事件」で出品された作品の数々ですが、警察に押収された後、テント商の近藤吉助という人物に下げ渡されたことまでは判明しているんですが、その後の行方がよく分かっていません。しかし浮世絵専門画商に聞けば口を濁すでしょうが、これらは好事家の間で「春峯庵もの」として興味関心を持たれています。つまり「春峯庵もの」には価値が出てしまいました。おかげで「春峯庵ものの贋作」まで出回る始末です。

15年ほど前にはその一部が発見されたため、好事家を対象にした展示会が開催されたほどです。僕もこの事件で使われた豪華な図録「春峯庵華宝集」を「資料」として所蔵しています。

この春峯庵ものを描いた矢田一家の描いた贋作も、写楽だ歌麿だ清長だ岩佐又兵衛だと、「真作」として売買すれば売った人は犯罪として捕まります。しかし有名な「矢田一家の描いた贋作」として売る分には犯罪ではありません。だから珍重されます。僕も矢田一家の中で、わずか16歳でこんな高名な浮世絵絵師たちの精巧な模写を、専門家を騙せるレベルで出来た、矢田一家の末息子の天才少年ぶりには関心があります。

「贋作」というのは実は厄介なんです。もともと絵には「模写」があり、日本の古美術品には「写し」というものがあります。芸術家の基本は過去の良い作品を真似ることですから、有名な画家も若い時にはたくさんの模写を描いています。とっても精巧な模写もあり、中には模写した少年の方が高名になったため、模写された絵より価値が高くなった模写だって珍しくはありません。

「贋作」についてお綺麗なことばっか言っている美術評論家や美術商もいて、「贋作には人を騙さそうという悪意がこもっていて、模写とは違う」なんてアホを言っていますが、いやいや彼らだっていろいろ贋作を見逃していると思います。そもそも「美術館を手玉にとった男」という映画で有名になったマーク・ランディスみたいな愉快犯だっているではないですか。

そして「真作」と「贋作」の間がまずグレーです。有名な美術館だって「真作と判定し難いもの」を「伝・◯◯」と展示しています。また「模写」と「贋作」の間も実はグレーで、描いた画家は「習作」として「模写」したのに画商などが後でサインを書き加えてしまったものもあります。こういう場合、画家は罪には問われません。この場合、絵に罪もありません。

アムステルダムにある「ゴッホ美術館」が1998年からゴッホの絵の鑑定をしているんですが、だいたい年間2000点の鑑定依頼が来るんだそうです。ですから25年ほどで5万点の鑑定依頼が寄せられたわけです。それで確か真作と判定されたのが20点も行っていなかったと記憶しています。それぐらい美術品には贋作が多いんです。

だいたい美術品が鑑定に持ち込まれる時、半分はど素人が「複製画」を思い込みで持ち込んだもので、これは限りなく「ゴミ」に近いです。僕も「価値がありそうな版画があったから見てくれ」と言われて、見たら印刷されたものだったということがよくあります。これに価値が生まれることはほぼありません。

「悪意のある贋作」が3-4割で、これにはチープな贋作から出来の良い贋作まであります。大量に出回っている「チープな贋作」も、見つけ次第、破棄処分するしかありません。チープな贋作は、人を騙す意図しか感じられず、はっきり言って醜いです。

ということで「真作」はだいたい1割もあれば十分なんですが、その真贋だって分かったものではありません。真作と贋作の間は限りなくグレーです。マーク・ランディスの絵は昨日まで美術館に展示されていて、観た人は贋作だなんて思わず、絵画鑑賞していたわけです。これが次の日に「ゴミ」になるんでしょうか。出来の良い贋作にはそれなりの「美術品としての力」が備わっているんです。

所有しているものが「贋作」と鑑定されたのに、それを「真作」として誰かに売れば、これは犯罪です。しかし「出来の良い贋作」あるいは「模写」として鑑賞しているのはなんら問題ありません。

問題は「その気分になるかどうか」です。

ご質問の答えを言います。所蔵している美術品が贋作だと鑑定されたらどうするのか。これは気持ち次第です。

「騙された」と思った時、「いやぁ、よく騙してくれたよね」と感嘆できれば、僕は気にせず飾ったり、使ったりします。チープな贋作ではないので、「あまりに悔しくて」心穏やかに飾ったり、使ったりできない場合でも、少なくとも保管はして、今後は騙されないための「史料」として勉強の材料にします。騙された自分が悪いと思うほど、よほどレベルの低い贋作だった場合だけ、これを廃棄処分にします。慎重に購入しているので、まずこれはあんまりないと思いますが。

先の回答でも触れましたが、美術品コレクターにとって贋作を掴むことは避けられず、それを掴んで勉強しながら出来るだけ掴まないようにするしかないんです。世界の美術品市場の規模は現在年間約650億ドルですが、一説では約半分が偽物・贋作と言われています。あのサザビーズでさえ、ジャコメッティなんていう大物で鑑定を見誤り、落札者に返金することがあるんですから。

だからまず捨てることはしません。「贋作」として所蔵し楽しみます。でもExcelで管理している収蔵品データ記録に「贋作」と書き込む時、ちょっとだけ涙はこぼしますけど。

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