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最近お香に興味があります。

質問

最近お香に興味があります。伽羅といっても黒や緑など様々な種類がありそうです。沈香との違いや伽羅の種類によって違いってわかるものですか?(初心者が楽しんでということです) ワインはいいワインはあまり詳しくない人がのんでも、違いがわかるイメージがあるので、どんなものかなとお聞きしたいです。

回答

伽羅って本来は「ベトナムのごく一部の地域で取れる特別な沈香(奇南沈香)」のことであると、僕は理解しています。

正確に言えば、ベトナムのダクラク省、カインホア省、ラムダン省の3省の山間部の中腹にある森林地帯で最高品質の伽羅木が採取されます。なぜこの地域の伽羅木だけ特別な良い香りがするのかは、いまだ謎です。高価なので乱獲され、新しい良い伽羅木はほとんど採取できなくなって、とっても高価です。

この伽羅木は木質がとても柔らかく、爪で引っ掻くだけで傷が付くほどです。独特のテカリや緑っぽい色合いがあり、置いておくだけで常温でもかなり香りがします。とても甘い香りです。

黒油とか緑油という日本の分類で言えば、緑油伽羅が、この伽羅の定義にもっとも当てはまります。ただ世界的に見れば、緑油とか紫油と言った分け方ではなく、SXとかSSと言った等級で区分する方が一般的だと思います。

ここで暴論をちょっと言ってしまいます。本物の伽羅って、本当にもうそうそう採取できないんです。1gで8万円以上、好事家が求めるような良質の伽羅だと1g10万円以上はします。金の価格が1g 1万2000円を超えて騒いでいるわけですから、いかに高いのか分かります。しかも金と異なり、焚いたら香木は灰になる消耗品です。伽羅を始めとする香木が消耗品なのにバカ高い。これが香道はお金がかかると言われる最大の所以だと僕は思います。

僕は伽羅を原木の状態(伽羅木)で入手しているんですが、1g8-10万円と言うことは、10gの伽羅木は80万-100万円です。大きな塊の伽羅木は貴重なので、1g15万円することもあります。この高価な伽羅木を香道具で切り出して、何十万、何百万円するものを火に焚べて、その香りを楽しんで、ぜんぶ灰にしていくんですから、まことに酔狂な遊びだと、やっていて自分でも思います。

でもこの本来の意味での伽羅、日本で言う緑油伽羅はほんとお高いですから、それを灰にして遊ぼうという人はそうそういません。またこの品質の伽羅が日本ではそうそう入手できません。でもそれでは香木店もやっていけません。このため、まだ未成熟の価格のまだお安い伽羅を黒油だ、紫油だ、黄油だと木の色合いからそう名付けてそれらしく売っているんだと、僕は理解しています。

こうした伽羅は木質が硬いですし、常温ではわずかにしか香りません。焚いた香りは、伽羅独特の甘い香りではなく、沈香みたいな清々しい香りだったり、スパイシーだったりします。これは聞香すれば直ぐに分かります。香りが浅く、長持ちしないことも多いです。

香の香りなんて、好き好きです。伽羅の香りは甘ったる過ぎる、清々しい香りの方が好きという人がいてもぜんぜんおかしくはないです。伽羅を含めて貴重な沈香系の香木を「六国」と呼びます。香道と言うのは、この香木の出どころ、品質の「六国」の微妙な違いを嗅ぎ分けて、「五味」と言う「甘い」「辛い」などという評価をするのが基本です。伽羅はこの六国の筆頭で「五味」が揃っているので、尊ばれて来たわけです。

この「六国」のうちのタイ産の「羅国」と言われるような高級な沈香の方が好きな人もたくさんいます。羅国も昨今価格が急騰しており、高品質のものは1g6万円ぐらい平気でするようになってしまいました😅。

日本最高の香木で足利義政や織田信長、明治天皇が切り取ったことで有名な正倉院の「蘭奢待」や、それよりは知名度が劣りますが、品質は「蘭奢待」以上だったとも言われ、織田信長が切り取ろうと所望したら前例がないと断られた、同じく正倉院の「紅塵(全浅香)」も、おそらく伽羅ではなく沈香です。香りを聞いたことがないので、断定は出来ませんが😅。

だけど伽羅の香りは甘く香木は柔らかいものであって、沈香みたいな香りやスパイシーな香りがして木質がまだ硬い未成熟の伽羅は、伽羅ではないとは言いませんが、本来の珍重された伽羅ではないと、僕なんかは思ってしまうわけです。

もちろん歴史を振り返れば、清々しい香りであっても、見た目が沈香のようであっても、高評価を受けた伽羅木はありました。また木質が硬かろうが、香りが沈香に近かろうが、伽羅は伽羅です。ただ少なくとも、現代の香木の蒐集家が珍重しているのは、ベトナム産のやや緑っぽい色をした、軟質の常温でもよく香る甘い香りの伽羅木です。

伽羅と言ってもさまざまで、状態も原木(伽羅木)もあれば、角割・細割・小割も、刻みも末とも言われる粉末状のものもあります。一般論で言えば、高価な伽羅の原木をわざわざ刻みや末にしてお安く売る理由がないので、伽羅木ないしせいぜい細割や小割など板になっているものまでが高品質です。特に末は主にお焼香用で聞香には適さないでしょう。

ベトナム産の本来の伽羅は、近年どんどん貴重になっており、世界中で奪い合いになって、価格が高騰しています。僕がお香を聞き始めた約40年前と比べると、SS級クラスの高品質の板割で、40-50倍になっていると思います。昨今の良い伽羅木はほとんどの香木店で「時価」や「お問い合わせ」になっている場合が多いです。僕は大昔、良い香木の原木を単なる趣味であれこれ買っておいたのでだいぶ助かっています。

この価格高騰のため、天然物ではなく、聞香に使う上では価値が著しく低い栽培品や人造品、インドネシアの「カリマンタン産の伽羅」と言った、もともとはなかったものが出回るようになっているわけです。将棋盤や碁盤では最高級品が国産の「榧材」でしたが、これがぜんぜん採れなくなって価格が高騰したため、木の種類がまったく異なるスプルースに「新榧」という名で売り出され、従来の国産榧に「本榧」という名称が付いたのと、ほぼ同じ理屈です。

ただ筋が悪い香木店では緑油とは評価できないものを、平然と緑油伽羅と称して売っていることもありますから、要注意です。

以上の話を以前、家元にしたら、苦笑はされましたが、否定はされませんでした。

実は香木の定義が日本でややこしくなっている一因に「香道」の存在があります。大きく分けて志野宗信を流祖に代々続く武家流の「志野流」と、三条西実隆が流祖の公家風の「御家流」という公家風があります。ですから、どっちも室町時代が発祥です。

志野流は幕末の動乱期に本拠を京都から名古屋に本拠を移して尾張徳川家の庇護を受けています。現在の家元の蜂谷幽光斎先生で20世で、もうお年なので昨今は若宗匠の蜂谷一枝軒先生が活躍されています。室町時代以来、途切れることなく流派が続いて唯一の香道で海外にも支部があります。

御家流は分派しているんですが、大きなものとして、三条西堯水(公彦)先生が23世家元を務める「御家流香道公香会」と、ホテルオークラの創業者、大倉喜七郎さんのご夫人の大倉華桂(久美子)先生が、三条西堯山先生の堯山会と袂を分かった「御家流香道桂雪会」があります。香道というのはとんでもないおばさまたちの集まりで、この大倉華桂先生が師事した山本霞月先生のお弟子さんには上皇后美智子陛下のご生母の正田冨美子さんを始め錚々たる方がいます。この「桂雪会」は開かれた香道、アマチュアリズムを標榜されていらっしゃいます。

これらの香道流派において、「香木の評価」や「どの香りをどう評価するのか」といったことは、多かれ少なかれ「門外不出の秘伝」なんです。僕もたいして知っているわけではないんですが、この回答を書きながら、その部分には触れないように注意して書いてきたぐらいです。勝手に書いてはいけないことがいろいろあります。

ですからこの香木がうんちゃらというのは、日本ではこれらの流派の家元や先生が決めることになっているんです。伽羅木に銘を付ける場合、香木店ではいずれかの家元や流派にお願いして銘を付けてもらいます。こうするとお値段がさらに上がりますが、門人であれば買います。こういった香木の価値を評価することが家元などの専権事項になっており、伽羅にあっても、日本では黒油や紫油などの伽羅が「良いもの」と評価される構造になっていると思います。茶道でも「◯◯斎好み」なんて言われると価値が上がるものですが、上記の香道も流派によって評価が違い、好みも異なります。この微妙なニュアンスを汲み取ってくださいね😅。

香りを純粋に楽しむのであれば、こういうややこしい話は一切不要です。お好きだと思う香りを楽しめば良いんです。しかし質問に黒だとか緑とあったので、思うところを回答してみました。書いているうちに書き過ぎたので、この回答はぜったい怖いおばさま方に知られたくありません。村八分になるので、これこそ「門外不出」です。ぜったい漏らしちゃダメですよ😅。

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