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政治・経済・社会

息子がMARCHIクラスの大学ですが、外交官になれるのでしょうか?

質問

はじめまして。京都在住の者です。いつも楽しく拝読させていただいております。りおぽんはとんでもない知識量と見識をお持ちなので恐れ多いのですが、質問させてください。
私には今年大学(MARCHIクラス)法学部政治学科の2年生になった息子がおります。その息子が国際政治の授業に感銘を受けたらしく、「外交官になりたい」「やっと自分に合う職業を見つけた」と言い出しました。私はなりたい道ができたのなら、ぜひ進ませたいですが、必要な学力や英語力があまりにもハードルが高く、必要な準備をアドバイスできずにおります(手始めとして、マックスウェーバー「職業としての政治」カリエール「外交談判法」を渡してみました)。合格するために必要な書物や、英語力の目安、その他勉強法をご教授いただけますと幸いです。第1志望が外務省、第2志望が財務省です。
また、夢が叶わなかった場合、そういった興味を生かせる職業をご存じないでしょうか。
私も息子同様、視野が狭く大変恐縮ですが、重ねてお願い致します。

回答

まず目指されている「外交官」なんですが、いわゆるキャリアの「国家総合職」での採用と、ノンキャリアでの「外務省専門職」があります。どちらの試験も難しいです。どれぐらい難しいのか想像がつかないと思いますが、実は僕は現在の「国家総合職」の前にあった「外交官試験上級職」を大学時代に受験して、筆記試験は合格しているんです。正確には覚えていませんが、当時この試験に2000人ぐらい受験して、筆記で80人ぐらいに絞られました。そこから面接で30人ぐらいが採用される仕組みでした。

でも僕は面接の事前準備として先輩の訪問をした結果、面接試験を受けていません。これはテレビ局の内定をもらってそこに行くことを決めたこともありますが、もう一つ理由があります。それは僕が「東大経済学部」だったからです。当時の外務省は今より猛烈な東大閥でした。採用者30人ほどのうち、20人強が東大卒でした。後は京大や一橋、地方旧帝大、東京外語大がパラパラいて、早慶がそれぞれ1人いるかいないか、という感じでした。ですから東大卒の中で出身学部が争われていて、採用も「東大法学部」と「東大教養学部国際関係学科」が当時は圧倒的に多かったので、先輩に「経済学部じゃ冷や飯を食うぞ。お前みたいなのはそれがガマンできないだろうから、やめておけ」と言われたんです。それほどまでにまで、外務省キャリアは東大の世界です。

そもそもの「外交官試験上級職」の受験者2000名ちょっとのうち、500-600名ぐらいが東大生でした。大学内には外交官試験を受けるための勉強会があって、そこでみんなで勉強会をしながら、最近の試験傾向や「国際法は高野先生の国際法概論の解釈に最近の外務省は準じているらしいぞ」みたいな先輩から仕入れた情報を交換していました。外交官試験に合格するのは司法試験に合格するより難しく、試験は大学3年生から受けられたので、3年で合格すると東大を中退、この東大中退で採用されるのが「勲章」と言われていました。

このように外務省は東大閥だと悪評が高い財務省が可愛く見えるぐらいの東大閥です。その割にたいした仕事をしていないじゃないか、とか、あまりに弊害がひどいということで、外交官試験は廃止されて、国家総合職での採用になりました。それで以前よりはだいぶマシになったんですが、現在でも圧倒的な東大閥であることには変わりありません。

過去3年の「国家総合職」での入省者の出身大学を確認してみましたが、やっぱり6割は東大でした。以前と変わっていたのは、僕の頃は2年に1度ぐらいしか採用されていなかった早慶が毎年複数人、採用されていたことです。京大や一橋大も以前よりは増えていました。でもそこまでです。過去3年間で早慶以外の私立大学からの入省者は立命館が1人いただけでした。正直申し上げて立命館から採用されるのは快挙だと思います。例えば2021年に採用されたのは、東大、早慶、京大、一橋、東京外語大、キングズカレッジの7大学だけです。でもこれでも以前よりはかなり緩くなりました。

僕はウソを言いたくないのではっきり言いますが、MARCHで大学2年の段階で読まれている本がそれでは、国家総合職で採用されるのはムリだと思った方がいいです。例え頑張って国家総合職試験に合格したとしても、その後の「官庁訪問(面接)」をどうするんでしょうか。外務省は職員を欧米並みに増やす計画でキャリア採用を当面、従来より数名増やすそうです。以前より東大卒が役人を目指さなくなったこともあり、この増加分は他大学でバラける可能性があります。ただ大学はかなり絞られると思います。世の中には大学受験の段階で目指しておかないとなりにくい仕事もありますが、外務省キャリアはその代表的なものです。

一方、ノンキャリアの「外務省専門職」はまだ現実的です。だいたい50-60人が採用されて、30大学前後にバラけます。伝統的に東京外語大が多いんですが、最近は早大や上智大も増えているようです。MARCHも1-2人いる場合があります。

この外務省専門職の採用試験は外務省が独自に行うんですが、国際法が必須で、憲法と経済学が選択科目です。ただキャリア採用で要求されるほど、この部分は難しくありません。ポイントは語学です。キャリア採用者ができる語学はせいぜい英語かフランス語、中国語など数カ国語ですが、在外公館はいっぱいあります。そこで使われる言語は多様です。なので専門職試験の語学試験は15-16ヶ国語の多岐に渡ります。この筆記試験と面接試験があるので、これから語学を必死に頑張れば、可能性はあると思います。もちろんTOEIC900点といったレベルの英語力ではムリですし、英語以外の言語の方が採用されやすいです。その時々の外務省のニーズ次第ですが、スペイン語なんかは赴任対象国が多いので、お得です。

ただお子さんは「外交官」にどんなイメージを抱いているのか、確認したほうがいいです。「大使や公使になって国際外交で華々しく活躍する」ことを考えていらっしゃるなら、専門職採用ではまずなれませんから、やめておいたほうがいいです。

専門職は「ある特定の国や言語のスペシャリストになって、その在外公館で専門的な仕事や文化交流業務、領事業務などの事務仕事」をするか、「経済やエネルギー、条約作成なんかの専門家になる」仕事です。例えば韓国の専門家になれば駐韓国大使館に赴任して、地道に領事業務なんかをするケースが多いです。割と地味な事務仕事が多い印象です。もちろん日本の駐韓国大使館に何十年勤めようと、韓国大使になれることはありません。外務省はキャリアとノンキャリアの落差も大きい世界です。

以上のように、正直に申し上げて、現実的にムリか、頑張っても報われないケースが多いです。僕が親であれば、せっかく持った好奇心の芽を潰さないようにしながら、総合商社やJETRO、JICAなんかに誘導します。外務省で採用されるレベルの努力をするなら、まだこちらです。JETROやJICAは上はやっぱり外務省キャリアが天下ってきますが、まだマシです。

そして本当にお子さんが努力される気があるなら、むしろ国連なんかの国際公務員を目指された方がいいと思います。これは新卒採用は少なく、ある分野での経験を積んだ人間が中途採用される場合が多いです。僕の友人にも世界銀行などを中心にいろいろいます。国際公務員であれば、日本の学歴なんてあんまり関係ありませんから、頑張り甲斐があります。

それにしてもお子さん、なんで今になって第一志望に外務省、第二志望が財務省なんていう東大卒がいまだに幅をきかせているところを目指すんでしょうか。せめて大学受験で頑張って東大に行っておけば、何の問題もなかったのに。開成中学あたりだと、入学の段階で「将来の夢」に「外交官」と書くのがいて、計画的に勉強するのがいました。もちろん東大を出て、大使になっています。

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