現在・過去含めて、りおぽんさんの好きな政治家は誰ですか？

質問

2025年09月23日　回答

現在・過去含めて、りおぽんさんの好きな政治家は誰ですか？

回答

人格・識見ともに、この人が日本の宰相になっていたらと思う方が1人いました。中曽根康弘首相の側近で、その泥をかぶる形でリクルート事件に連座、悲遇の晩年を送られた藤波孝生さんです。

僕が藤波さんにお会いしたのは大学生時代に遡ります。当時まだ40代だった森喜朗さんとお話しをしていて、僕が「総理にしたいと思うような政治家がなかなかいない」と、ちょっと生意気な意見を言ったんですね。言ってから「あちゃー、森さんに怒鳴られるかな」とあわてたんですが、森さんは生真面目な顔で「お前、藤波孝生先生を知っているか。紹介してやるから、一度話を聞いて来なさい」と言ったんですね。

森さんは派閥は清和会(当時は福田赳夫派)です。いずれ安倍晋三さんのお父さんの安倍晋太郎さんを総理に担ぐ気であることは明白でした。しかしさきほどの僕の暴言に、福田さんや安倍晋太郎さんではなく、藤波さんに会ってみろという。不思議なこともあるものだと思いました。

それで森喜朗さんの紹介で藤波さんの事務所にお邪魔しました。藤波さんも確かまだ40代でしたが、すでに大臣経験もあった。いくら森さんの紹介とは言え、こちらは一介の大学生ですから、軽くあしらわれても仕方ないところです。しかし藤波さんは僕の疑問質問に一つ一つ丁寧に答えてくださいました。結局40分ほど話したんですが、これは大変な方がいるもんだなという感想しかありませんでした。

面談を終えて森さんにお礼に行ったところ、森さんが「おまえ、どうだった」と聞きます。僕が「すごい方でした」と答えると森さんは満足そうに「そうだろう」と言いました。

次にお会いしたのは卒業後です。僕は大学を卒業してテレビ局に就職、研修を終わると政治部の記者に配属されました。新米の政治部記者がまず最初にやらされるのが総理担当のぶら下がり取材です。よくテレビで総理を取り囲んで「総理、総理、一言お願いします」と言っているアレです。

それから間もなく50歳そこそこで藤波さんが中曽根政権の官房長官に起用されます。中曽根さんという人はテレビカメラが回っているところではにこやかに話してくれるんですが、カメラがパンすると、途端にムスッとするような人だった。一方、藤波さんはそのお人柄そのままの陰日向のない仕事ぶりでした。穏やかでしたが、言うことにも一本筋が通っている。

記者も人の子です。当時藤波ファンクラブ的なものができて、「藤波さんを将来の総理として盛り上げようぜ」なんて飲んでは話をしたものでした。

しかしリクルート事件で藤波さんの運命は暗転します。リクルート事件では中曽根さんをはじめ、いろんな方が取り沙汰され、なんだかんだで逃げ切ったんですが、誰か1人ぐらいは政治家が逮捕されないと世間の収まりがつかなかった。脇が甘かったんでしょうねぇ。中曽根さんを庇って身代わりになった側面もありました。

その頃僕はテレビ局から新聞社に転職、思うところあって担当部署を政治部ではなく、経済部にしてもらいます。ただ生来の政治好きで、政治家との交流は続きます。ちょっとしたブレーン気取りでした。ただそんな文脈上は離れてお付き合いを続けたのが藤波さんでした。唯一、僕が私淑した政治家と言えます。

僕らは臥薪嘗胆を経ての藤波復活に期待していたんですが、世間の荒波は厳しく、また藤波さんは病魔にも侵されまし。結局、晩年はさしたる活躍もされず、70代で病没されます。人格・識見ともに整っていようと、天の配剤を得なければ、宰相になれないんだなと思わされる出来事でした。

最後に俳人としても知られた藤波さんの晩年の心境を詠まれた句から、僕が好きな句を3句挙げて終わりにします。

真っ直ぐに一本の道草の花
風荒ぶとも晴れ晴れと冬の天
冬薔薇端然として崩れざる