首脳会談、日鉄以上に実は資源の件の方が重要案件だと思ってるんですが、こっちはどう評価していますか？

資源というのはエネルギー安全保障の一環として、米国からの天然ガス輸入を増やすという話でしょうか？

米国はシェールガス革命以降、天然ガスの生産大国になりました。今では米国とカナダの北米地域の天然ガス産出量は年間1兆1000億平米ほどで、ロシア＋欧州の1兆平米をも上回ります。

その結果、米国では天然ガスはダブついて、エネルギー企業の経営は苦しくなっています。これは米国のエネルギー企業の長期チャートを見れば一目瞭然です。米国最大の天然ガス採取地はトランプ大統領にも縁があるテキサス州です。

しかし現在、米国の天然ガスは採算割れラインで生産拡大が進まず、パイプラインを通じてカナダから輸入しているぐらい。米国の強いインフレ下でも天然ガス価格は上がっていません。米国のエネルギー企業は高く売れる相手に輸出を拡大したくてたまりませんでした。実際、2023年の統計では、米国はウクライナ戦争で輸出が減ったロシアに変わって、世界最大の天然ガス輸出大国になっています。

当然、日本も従来から米国の天然ガスを輸入しています。しかしそれを拡大するにはハードルがありました。世界的に見れば天然ガスはパイプラインを通じてやり取りするのがふつうです。EU諸国は従来、ロシアやノルウェーからパイプラインを通じて天然ガスを輸入してきました。

しかし日本は島国なのでそれが困難で、すべてLNG(液化天然ガス)に変えて、LNGタンカーで輸入しています。LNG方式のメリットは遠くからでも運んで来られることですが、LNGタンカーの建造やLNGタンクの建設などで初期投資コストがかかり、輸送費もかかります。ですから、天然ガスの価格が高くなります。ウクライナ戦争でEUの天然ガスコストは跳ね上がっていますが、日本ももともと天然ガス価格は米国と比較して3-6倍で推移しています。

日本はこの高価格構造を変えようと、ロシアのガスプロムとの間で「サハリン2」という国家プロジェクトを進め、ロシアからパイプラインを通じて天然ガスを輸入しようとしてきたわけですが、ウクライナ戦争で頓挫してしまいました。

現在の日本の天然ガス(LNG)の輸入元は順に①オーストラリア(42％)、②マレーシア(15％)、③ロシア(9％)、④米国(7％)、⑤パプア・ニューギニア(6％)ーーと言ったところです(2023年)。売りたい米国と買いたい日本ですが、問題は米国から輸入すると高く付く点です。当たり前ですが船賃は航路の距離分だけ米国のLNGは高くつきますし、安いと言ってもオーストラリアやマレーシアなどよりは生産コストは高いです。これが日本の米国からのLNG輸入が年間4000億円ほどでとどまってきた理由です。

僕はトランプ大統領を「セールスマン」としては高く評価しているので、就任すれば天然ガスを世界に売り込むだろうな、と予想していました。僕のPFでトランプシフトとして株価が右肩下がりだったベタなエネルギー株を組み込んでみたのはそのためです。

世界最大のLNG輸入大国は日本です(2位は中国)。オーストラリアからは年間3兆円前後輸入しています。コイツにどうやって売り込んでやろうかとトランプ大統領は考えていたことでしょう。

するとその島国の首相がわざわざ自分のところに出向いてきてくれて「輸入を増やさせてくれ」とお願いしてきたんです。トランプ大統領としては笑いが止まらないでしょう。「イシバはいいヤツだ」ぐらい言いたいところです。

日本のLNG輸入量は年間7兆円前後で推移しており、省エネルギー化の流れもあってさほど増えてはいません。米国から輸入量を増やすとなれば、オーストラリアやマレーシア、ロシアからの輸入を減らすことになります。

エネルギー安全保障を考えれば、輸入相手先を増やしておくのは良いことですが、増量まで言質を取られたのはやり過ぎでしたね。今後本当にオーストラリアやマレーシアからのLNG輸入を米国産で代替していけば、ただでさえ高いLNGの価格はさらに上がるでしょう。僕はこの話を聞いて「日本のLNG価格はさらに上がるのか」とぼんやり思いました。

でも、首脳会談で石破さんが言ってしまったんだから、どうしようもありません。放っておけば、トランプ大統領から「イシバ、あの話はどうなった？」と詰められるんじゃないですか😅。