文学素人でも読みやすいでも読みやすい本を教えてください。

あはは🤣、文学素人なら林達夫さんの「歴史の暮方」だろうね。読みやすさでは「日本の思想」かな。どっちか。

まず丸山眞男先生の「日本の思想」は日本政治思想史を軸にした思想に関する書籍だから、文学書ではない。ただ岩波新書だから、高校生でも読める水準の内容。実際、教科書にも採用されている実績があるし、大学入試の国語の題材としてもよく利用される。社会科学系の学部に入学した学生なら、これを読んでいるのは常識で、「現代政治の思想と行動」あたりを読んでいくもの。だから「日本の思想」はぜんぜん難しい本じゃないけど、文学書では少なくともない。ザインとゾルレンについても実にわかりやすく記述されている。

その点、林達夫さんは西洋文化史や精神史がご専門だと思うけれど、平凡社の百科事典の編集責任者や岩波書店の「思想」という月刊誌の編集責任者もされた日本最高レベルの教養人。そしてファーブルの「昆虫記」やベルグソンの「笑い」などの翻訳でも知られる。

中公文庫に収められている「文藝復興」や「歴史の暮方」「共産主義的人間」、それに筑摩書房の「反語的精神」あたりは、エッセイ・随筆の形を借りながら、戦前の第二次世界大戦前の軍国主義化が進む時代や、戦後間もなくの混乱期にあって、真に教養を持つ人がどう振る舞うべきか、その指針を鮮やかに示した日本の思想史に残る名著。

僕はこれらの本を中学生時代に読んで、感動してしばらく携帯していたぐらいだから、大人が読むことに困難はないはず。しかし悪貨は良貨を駆逐するの例え通り、残念ながら下らない中身の薄い思想本は跳梁跋扈しているのに、林達夫さんの著作を読む人は減ってしまっている。読むのに困難はないと思うけれど、現在、全集でもなければ入手可能かどうか。

花田清輝さんの「復興期の精神」は見かけ上はルネサンス期に生きた22人の人間についてツラツラと記したエッセイ的な文章だけど、これがぜんぜん一筋縄ではいかない。それが当時の日本が置かれた状況に対する鋭い批判になっていたり、普遍的な文化論・人間論になっていたりする。

その点で丸山眞男先生の本や林達夫さんの本のようにストレートではなく、仕掛けが満載されていて、読み手のレベル、教養がモロに問われる。だからこの本はある程度、この手の本を読み慣れてからにするといいと思う。

戦後日本のある一時期、吉本隆明さんと花田清輝さんがある意味で日本人(特に大学生)の精神的な支柱になった。そしてこの2人は有名な「花田-吉本論争」で決闘をして、表向きは花田さんが敗れて日本の思想の中心から退場する。

しかし僕のこの論争に対する個人的な感想を言えば、当時の日本の思想、特に学生の左傾化に迎合して論争を煽った吉本さんに対して、花田さんが論争するのを倦んで自主退場したように思える。ヒステリックな思想と表立って戦うのは時間の無駄、花田さんが戦前の難しい時期に著したこの本は、戦後の吉本さんとの論争での花田さんの引き際をあらかじめ暗示しているように僕には読めた。

この本は高校時代に読んで以来の僕のバイブル。

3冊いずれも戦後の日本を代表する知性の著作で、その中では代表的かつ読みやすいものを選んでいる。僕にとっては3冊いずれも高校生までに読んで感動して愛読書に加えた本だから、大人が読めないはずがない。ただ読み手の読書歴、思想研究歴から見れば、花田清輝さんの本を読みこなすのだけ、ちょっと難易度が高いと思う。