今2歳の子どもがいるんですが、勉強を好きになってもらえるような子育て方針をとりたいと思っています。

それでいいと思います。僕は娘を塾に通わせていない(週末のテストは何回か受けさせています)ですし、自分が大嫌いなので勉強も強いてはいません。ドリルとかプリントっていうんですか、その類いのこともやらせていません。きっと「勉強が嫌なこと、つまらないこと」だと思うようになるからだと思うからです。そもそも小学校に毎日通わせること自体重視せず、僕や妻がお休みでお出かけする日は学校も休ませています。世の中には小学校に通うことなんかより、貴重な経験ができることはたくさんあります。

では僕が何をやったのかと言えば、「学ぶことの面白さ」「調べることの楽しさ」を教え、「読書の習慣」と「思考の習慣」を植え付けるように誘導しました。これらは別に「小学校の勉強」とは無関係ですから、僕が教えたのも「調べてみてごらん、面白いよ」と促したのも、ノンジャンルでした。読書も濫読です。そして「大人が言っていることが無条件に正しいと思うな。自分の頭で考えて正しいと思うことを自分で導き出しなさい」と諭しました。

娘は幼児期、ポケモンのゲームが好きだったので、好きにやらせました。僕も好きなので一緒に遊んでいます。しかし娘にとって「僕が読書している隣で自分も本を読むこと」も、僕が適当にお題を考えて「やってみてごらん」と促してみる「じゆうけんきゅう」も、ゲームと同じぐらい娘には楽しいことだったので、ゲームを2時間ぐらい一緒にやって、「そろそろパパは本を読むから」と言えば、ぐずることなく、自分も読みたい本を持ってきて、一緒に本を読んでいました(この時期、僕が猛烈に忙しかったので、娘にとっては「パパと遊べる時間」は貴重なものだったようです)。

ここまで読んでいただければわかるように、僕は娘に「学校の勉強をしろ」と強いたことはこれまで一度としてありません。むしろ「あんなものをやることにたいした意味はない」とまで言っています。

「勉強」はつまらないからやらなくてもいい。しかし「自分が面白いとか不思議だと思ったことは、ぜったいに放っておくな。それを自分で調べて、自分の頭で考えて答えを出しなさい」と言いました。娘が「それは勉強じゃなくてなんと言うの？」と素朴な疑問を尋ねてきたので、僕は「これは学問を学ぶ、って言うことの入り口なんだよ」と教えました。娘は「勉強」は嫌いでしたが、「学問」は気に入ってくれたようでした。

もう一つ僕がやらなかったことに、娘が何か疑問を持って尋ねてきた時、電話の途中でもなければ「今忙しいから」と放っておかなかったことがあります。大人から見てどんなに下らない質問だと思えても、一つ一つできるだけ丁寧に対応しました。

以上のような方針で幼児期(1-2歳の頃)から臨んだ結果、娘は「勉強の習慣」は持たない子どもになりました。しかし読書は大好きですし、「じゆうけんきゅう」も大好きでした。そうやって自分で調べて、自分の頭で考えることをやっていたら、小学校に入る前には、「小学校で勉強させられること」ぐらいはぜんぶ習得済みになっていました。

ちなみに僕は自分自身が小学5年の後半になるまで、自宅の自分の机に座って「お勉強」した経験がありませんでした。5年生の3学期になって自分で開成中学を受験することを決めた時、自分で少しはやっておこう考え、積んであった本を片付けて、算数の問題集を解いてみたぐらいです。

娘もだいたい同じです。塾の模試は受けさせて、「自分のポジション」は把握させましたが、中学受験の「勉強」はまったくやらせていません。その程度のことは、これまで娘がやってきた「読書」や「じゆうけんきゅう」、そして「学問」に抱合されており、問題なかったからです。

自分が受験したことがない、あるいは試験に合格するのがあまり得意ではなかった親によくある勘違いは、「たくさん勉強させれば合格する」と思うことです。また塾なんかでは、お金を稼ぐため、「小学校では習わないこと」まで勉強させようとします。

しかし有名私立の中学受験なんて特にそうなんですが、学校側は「頭が柔らかい子」「いろんなことに興味を持つ子」「自分で考える習慣を持つ子」を取ろうとします。その後の伸び代が違うからです。ですからいろんな不思議な問題が出ます。これを勉強で対応させようとしたら、「膨大な勉強」が必要になって、受験が地獄になります。そりゃ小学2-3年の頃から青い顔をさせて塾に通わせないといけないわけです。しかし有名私立中学の受験問題は上述のテーマに沿って出題されるので、そんな付け焼き刃の勉強では歯が立ちません。合格するのは別の子たちです。

しかしよほど変な学校でない限り、出題範囲は小学校で習うところまでです。算数も安易な学校はなんとか算の問題を出しますが、有名私立中学になればそんな下らない問題は出さず、考えさせる問題を出題します。これを勉強でこなすのは地獄です。

一方、これらの問題を小学校で習わない解法まで勉強させて解けるようにしようという塾講師もいます。例えば連立方程式などです。しかし方針が変わっていなければ、開成中学で算数の問題を連立方程式を使って解くのは減点対象だったはずです。

中学受験にウェイトを置いて回答しましたが、大学受験も変わりありません。東大の受験問題を「受験勉強」で解こうと思ったら、やるべき範囲は限りなく広く、出題内容は多様ですから、けっこう地獄だと思います。僕にも合格できる自信はありません。それは大学側が「たくさん勉強してきた生徒」を取りたいわけじゃないからです。

東大の入試問題、特に国語と英語は読ませる文章量が異常に多いので、速読と処理能力を問われ、コツがあることは確かです。しかし難問奇問は出ません。

東大出身の方は合意してくれると思うんですが、東大入学者はだいたい3層に分かれます。一つは猛勉強して合格してきた層です。この多くが合格することで燃え尽きて、入学後は伸び悩みます。また勉強以外のことをしてこなかったので、他のことを何も知らず、他の学生との文化格差を感じて、会話内容にも困る人たちです。一番世の中の平均的世界に出て行きやすい(大学ではあまり優秀な成績を取れませんから)ので、一般の方が一番目にしやすい「東大卒」のタイプだと思います。

3層のうちの一つは優等生です。学校の予習復習もちゃんとやり、親から課せられた習い事もちゃんとこなす。ただ燃え尽きるほどの勉強はせず、ふつうに中学や高校の生活を楽しんできています。楽器の一つぐらいは弾けますし、何かをやらせれば、それなりに器用にこなします。東大ボリューム層と言ってもいいかもしれません。ただ本人には勉強をそれほどやったという自覚はなく、苦にもなっていません。サクサクと一流企業や官僚のコア層になっていきます。

残る三分の一が、よくわけがわからない連中です。高校では驚くほど「勉強」はしてきていません。大学には「地頭の良さ」とか「要領の良さ」だけで合格してきています。またモノホンの天才児もいます。この層は余力が有り余っています。その余力を入学後、何に振り向けるのかは定かではありませんが、それを学問に振り向けると、なかなかのものになります。これらの人たちが、東大生内部で思われている「東大トップ層」なんじゃないかと僕は考えています。東大卒業者の大きな成果は、このトップ層から生まれています。それを剥き出しにすると、「異常に頭が良い人、キレる人」に見えたりします。

以上のように、東大生と言っても、猛勉強してきたのは一握りで、しかもその層の多くは入学後燃え尽きたり、伸び悩んだりするケースが多いんです。それでは合格した意味があまりありません。あるとしたら学歴だけです。

自分がよく知っている東大に的を絞って回答してみましたが、僕の体感では、日本で一番「勉強好き」なのは、中堅私立大学ぐらいに行った人たちです。大学受験に限らず、何かあれば参考書を読んで「勉強しよう」と試みます。この層に欠けているのは、「自分の頭で考える習慣」です。

世の中にはトップ層だけがいても回りません。一生懸命に働いて、辛い日常の仕事に耐えてくれる人々も重要な存在です。「猛勉強層」は、この日本の世の中のボリューム層を形成するのに大きく寄与しています。ですから僕は「勉強させること」を否定しません。

ただ自分の子どもを東大のトップ層や優等生層みたいな人間に育てたいと考えている親が、子どもに猛勉強を強いたら、それは違うんじゃないの、とは思います。勉強は「勤勉な日本人」のボリュームゾーンの人たちを育成するためにさせるものです。