能登の震災で話題になった、僻地の復興論についてどう思います？

外野から見れば「限界集落」なんでしょうが、住んでいる人から見たら「故郷」である場合が少なからずあります。それを本人たちの意向を無視して集約すれば、財産権などの私的権利の侵害になる可能性があります。

例えば僕の妻の実家はあと10-20年のスパンで見れば、まず間違いなく「限界集落」になります。今も義父や義母が暮らしているんですが、付近を走る公共交通機関はまったくなく、車で30分ぐらいかけてスーパーに買い物に行っています。義父母とももう90歳近いので、運転免許を返上して欲しいんですが、そこで暮らすにはそれしか手がありません。実は県庁所在地の市街にも広い家がもう一軒あるので、そちらで暮らすように勧めているんですが、妻の実家はその集落で江戸時代から続く庄屋の家なので、義父母は「離れるわけにはいかない」と主張します。

そして義父母の死後、その家と田畑、山などをどうするかです。僕は「誰も住む当てがないんだから、相続に際してぜんぶ国に納めてもいいんじゃないか」と妻に提案したんですが、妻は「何百年も続いてきた家を、自分の代で途切れさせるわけにはいかない」と珍しく古風な主張をして譲りません。大きな門のある江戸時代に建築された立派な建物なので、「古民家として再利用できないか。あなたアイディアを考えて」と言います。でも、僕には再利用しても採算が取れるとはとうてい思えません。

妻の実家は村の水利権まで持っていて、水源の管理までしています。他に住む人がいる以上を、これは放置できません。いくつもの山の管理、農地解放でだいぶ狭くなったとはいえまだまだ広い田畑の管理、村のみんなの墓（なんと土葬！）の管理、無住になっている寺の管理、昔あったという小学校の敷地の管理、そして村の中を流れる川や農道の管理を行政とやり取りするところまで、妻の実家が受け持ってきたので、今後の手間とコストを考えると、これらを受け継いで行くのが、僕にはとうてい理性的な判断だとは思えません。

たぶん妻が実家を古民家として再利用すれば改築費用に億単位の金がかかり、それを維持するためのコストで毎年何千万円という赤字を垂れ流します。これに加えて上記のさまざまな管理費が年間どれぐらいかかるか考えると気持ちが悪くなります。もう手放してしまって公的機関にすべて委ねて市街地の家の方に引越したほうがいいんじゃないか。そちらの家だって500坪はあるんだから不自由はしないはず。

でも僕がそれをこんこんと説いても、義父母や妻はもちろん、義妹など誰一人として賛成しません。都会育ちで夏休みに遊びに行ったことがある程度の僕の娘でさえ「ママの気持ちはわかるから、パパがなんとかして」と言います。ここまで来ると、なんか僕が悪いことをしているような気さえしてきます。

ことほどさように農耕民族である日本人の「土地に対する執着」には根深いものがあります。確かに「限界集落」は大きな課題。でも妻の実家一軒の話だけでも、これだけ課題が出てきます。ただ行政の効率性や経済原理を振りかざして「コンパクトシティにすればいいじゃない」と言って済むような簡単な問題ではないというのが私見です。