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いわゆる町の自動車工場は今後どうなっていくと思われますか?

質問

近くに良い自動車工場があり車の車検をお願いしております。立会いでしっかり説明してくれてディーラーに出すより満足感が高いのですが、今後(既に?)電気自動車等の普及により苦境に立つのではと懸念しております。いわゆる町の自動車工場は今後どうなっていくと思われますか?

回答

僕は当分の間、問題ないと思います。ちょっと私論を展開してみます。ハイブリッドではない完全な電気自動車(PEV)はガソリン車を代替できないで終わるというのが、僕の分析結果です。世界的に見て2030-2040年ぐらいにガソリン車の発売が中止になり、それ以後にガソリン車が禁止されます。日本では今のところ2050年がガソリン車禁止のメドです。約四半世紀後ですから、まだまだ先の話です。僕はこれがさらに遅れると思っています。またその頃には「PEV車の禁止が議論されるようになる」と予想しています。

PEV車が抱える最大の問題は、電気自動車を走らせるための「電気」をどうするのか、ということです。電気自動車は電気がなければ走りません。そのために必要な電気を供給するメドが立っていません。日本で言えば、すでに夏場、冬場の電気供給は逼迫します。この上、世の中が電気自動車だらけになったら大変です。その電力を供給するために化石燃料をバンバン使う石油や石炭を使う火力発電所を建設するのは本末転倒です。となると原子力発電所をバンバン建設しなければなりません。環境保護派の反対が強い原子力発電所をバンバン建設することなんて、本当に出来るんでしょうか?

世界的に見て、EV推進が進んでいる国には特徴があります。PEV最先進国のノルウェーは人口が少なくて、水資源が豊富で水力発電で自国の電気が賄えています。さらに石油と天然ガスの輸出国です。資源供給に不安がありません。それ以外にも、自国に自動車産業がないなどPEVを受け入れやすい特殊な条件が揃っています。

PEV車普及の前提には、レアメタルやレアアースを使わないバッテリーの研究開発、過酷な使用条件でのバッテリー劣化を防ぐ技術開発、トラブル発生時にかかるバッテリー交換費用の逓減などが必要になると思います。現状のレアメタルやレアアースを使うバッテリーではあまりに中国に生殺与奪の権を握られるので、あるレベル以上のEV化には安全保障上踏み込めない気がします。このあたりに中国がEV化を積極的に進める事情があります。

そしてPEVでは車の価格の大きな部分をバッテリーが占めるようになります。ある程度乗ったら、バッテリーだけを新しいものに交換して乗り続けるイメージです。でもこうなると車は完全にコモディティ化します。バッテリーは使い捨てです。さすがに現在のEVのバッテリー廃棄が起こす深刻な環境被害はバッテリーの技術革新で改善されるとは思いますが、四半世紀後、半世紀後に、この「使い捨て文化」が許されるかどうか。「トータルで見てPEVは本当にカーボンニュートラルや環境保護に寄与しているのか」という検証作業が始まると思います。その時に答えがイエスかノーかは興味深いテーマです。

その頃には水素を燃料に走る燃料電池車(FCV)の技術が確立して、効率の悪いPEVは環境の敵として目の敵にされているんじゃないかという皮肉も、僕は予想しています。

でも、これはどっちにせよ、早くても2040年代の議論だと思います。日本ではPEVは充電設備の問題から普及が遅れるでしょう。PEVは充電に時間がかかるので、ガソリン車のようにスタンドで充電するのではなく、自宅に充電設備を設置して、車を利用しない時間に充電するのが現実的ですが、一軒家が多い米国や中国ならともかく、マンションが多くて駐車場の確保さえ苦労している日本で、各家庭の車の充電設備なんて設置できるんでしょうか。

それとも充電スタンドに車を持って行ってみんなで行列を作って1台数十分、 あるいは1時間はかかる急速充電を待つのかな。せっかちな日本人がそんなことをする光景が思い浮かばないんですが。現時点で日本のPEV普及率はごくごくわずかなのでさほど問題なく所有者は気分良く乗れていますが、これは普及率が低いゆえです。

ちなみにPEV先進国のノルウェーでも、最後の課題は都市部のマンションで充電設備をどう設置するのかになっているようです。あの人口が少ないノルウェーで週末の充電スタンドは大行列が出来ていて、イライラする客にどう対処するかが話題になっているという面白いフランスの週刊誌の記事も読みました。この充電スタンド渋滞問題は、やはりEV化を進めているカリフォルニア州でも話題になっているので、今のところは避けられない課題なんでしょう。ノルウェーやカリフォルニア州の人口密度でそうなんですから、日本で車をすべてPEV化したらどうなるんでしょう。

このほか「ノルウェーの実験」では、現状のPEVではNOxの排出量を劇的に減らす効果がある代償に、車の重量が重いのでタイヤやブレーキパッドの粉塵は増加する、EVは低温でも性能が劣化する、たまにバッテリー火災を起こす、車の重量が重いので道路の痛みがとても早いなどといった問題点が明らかになっているので、世界的な普及では課題になるでしょう。

またノルウェーは自国の電力はほぼ水力発電で賄えていますが、積極的なEV普及優遇策や充電スタンド配備促進の財源には北海油田の輸出による利益が利用されているとされています。これには「ゴミ(化石燃料)を他人の家に掃いて、自分の庭だけきれいにして自慢するな」という欧州他国からの批判もあるようです。こうしためぼしい財源がない国で、充電スタンド設置などのEV化をどう推し進めるのかも、大きな課題でしょう。

日本で言えば道路の整備にはガソリン税や車の重量税が主に充てられていますが、ガソリン車が減れば、重量税を増やすんですかね。車体の重いPEVは道路を痛める以上、狙い撃ちになるのでしょうか。そしてEV車推進や充電スタンド設置推進の財源はどこから捻り出すのか。僕はやっぱり消費税大増税になるんじゃないかと予想していますが、反対する人も多そうですね。環境保護のためとして受け入れられるでしょうか?

EVの問題はおそらく僕が死んだ後の課題になるので、僕はあまり気にしていませんが、全般的に議論がムード優先で、キチンとした理屈に則っていない気がしています。というわけで、件の自動車工場の経営は当面は問題ないと思います。

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