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投資法・投資哲学

日本のパワー半導体メーカーが今からできる事はダイヤモンド半導体の開発くらいしかないのでしょうか?

質問

2024年02月04日 回答

デンソーに限らず、日本のパワー半導体メーカーがInfineonやST、オンセミなどに負けないために今からできる事はダイヤモンド半導体の開発くらいしかないのでしょうか?
SiCでさえ、研究レベルで日本が1番進んでいた時期はあったと思うのですがいつの間にか、メーカーの売上としては海外メーカーに負けてしまっている所が多いです。

回答

日本の半導体産業がもう一度世界で輝くためには、ダイヤモンド半導体でゲームチェンジをするしかもはや手が残されていない、というのが僕の持論です。ご存知のように半導体には大きくわけてメモリ半導体とロジック半導体があります。このうちかつて日本企業が上位を独占していたのが、メモリ半導体です。これによってかつては世界の半導体市場の50%以上を日本が占めていましたが、この勝負はもはや終わっています。韓国、台湾、中国の半導体メーカーが生き残っており、日本に残されたのは、これらの企業に半導体製造装置を納品することです。

一方、徐々に大きな市場になっていったロジック半導体では、まずPCでIntelがデファクトスタンダードを握り、Intel 帝国を築きました。Intel 互換のAMDが主なプレーヤーです。グラフィックボード用の半導体でデファクトに近いポジションを掴んだのがNvidiaで、ここから派生したGPUがAIやゲーム、仮想通貨のマイニング、仮想現実の処理、そして自動運転などで使えるという見通しから、株式市場の寵児になっています。

21世紀になって飛躍的な普及を遂げたスマホや小型機器の組み込み系などでは、Armのアーキテクチャがデファクトを掴みました。現在はRISC-V勢が浸透を図っており、残った市場をAppleが自社アーキテクチャで売るという構図です。組み込み系はArmかRISC-Vでしょう。日本企業の影は薄いです。5Gなどの次世代通信系ではQualcommなどが、ITソリューション系ではNvidia への対抗馬としてBroadcom が大きなシェアを握りました。現在、世界の半導体市場に占める日本企業のシェアは10%にちょっと届かない程度まで凋落していますが、今後10年のスパンで見た場合、このまま行けば、これが3-4%程度、あるいはもっと少なくなる、というのが僕の予想です。

ここまで挙げて来た市場では、デファクトスタンダードを握ることが重要ですが、日本企業はそれを握り損ねました。基本的にここから巻き返すのは、もう無理です。しかし半導体には、PCでもゲームでも組み込みでもスマホでもない新しい市場が成長しつつあります。それが自動運転などで急速な普及が見込まれる車載半導体市場であり、そこで使われるパワー半導体というものです。

現時点で車載半導体世界シェアトップはInfineon Technologiesで、キープレーヤーとしてNXPやST Micro がいますが、日本企業もルネサステクノロジーズとデンソーが生き残っています。そしてこの市場は今後急拡大する見込みなので、Infineon と言っても、まだデファクトを掴んだわけではまったくないんです。パワー半導体では当面、ご指摘のSiC半導体が有力で、ここでかつては日本企業が研究開発レベルでは先行していました。しかし、これを支える動きがなく、いつのまにか馬群に埋没してしまいました。

でも、この市場にはまだ日本に希望があります。それがパワー半導体のすべてを変えるダイヤモンド半導体です。今や世界の半導体市場の5割以上を占めるようになった米国の半導体メーカーも、それに対抗する欧州などの半導体メーカーも、軒並みダイヤモンド半導体のウエハを試作することさえ失敗してきた中で、唯一日本の企業や研究機関だけが、ダイヤモンド半導体用のウエハを作ることに成功しています。それどころか、佐賀大学の嘉数誠教授の研究グループが昨年4月、世界初のダイヤモンド半導体によるパワー回路の開発に成功しているんです。ここで日本がパワー半導体の量産化技術を確立して、その特許を取ってしまえば、もう誰も逆らえません。ゲームはこれで勝ちになるんです。

パワー半導体は、車載半導体のほか、発電や交通などのインフラ系やさまざまな組み込み系、それに宇宙開発などで利用されていくのはほぼ確実です。実際、嘉数教授のチームとJAXAがダイヤモンド半導体を使った通信衛星向けの電波送信機の実用化研究を始めたなんていう、世界的に見ればとんでもないニュースが、昨年12月にあまり騒がれることなく発表されているんです。ダイヤモンド半導体の実用化研究なんて、世界中のどこの半導体メーカーも取り組めていない分野です。そしてダイヤモンド半導体は、将来的には量子コンピュータなどへの応用も期待されています。

現在はSiC半導体をベースに競争が進んでいるパワー半導体ですが、ダイヤモンド半導体が実用化されれば、SiC半導体の時代は終わります。繰り返しになりますが、このダイヤモンド半導体の研究開発で圧倒的な首位を走っているのは、現時点では日本なんです。

もし日本が今後、半導体市場でもしもう一度輝きたかったら、国も企業も研究機関も、ヒトモノカネのすべてを注ぎ込んでダイヤモンド半導体に注力するしかない。もしここでSiC半導体の失敗を繰り返せば次はもうない、10年後には日本の半導体メーカーの売上高世界シェア1%以下という日が来るかもしれないと、僕は懸念しています。

車載半導体の日本の大手2社のうち、申し訳ないですが、ルネサスにダイヤモンド半導体が先行して作れると僕は思っていません。可能性があるとしたら、現在はルネサスより下位ですが、デンソーとトヨタのグループだと考えています。

これもあまり騒がれませんでしたが、昨年12月の年も押し詰まってから、「自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)」が日本企業を中心とした12社で設立されたというリリースも出ています。メンバーは自動車メーカーがトヨタ、日産、ホンダ、Subaru、マツダの5社、自動車部品メーカーがデンソーとパナソニックオートモーティブの2社、そして半導体関連はソシオネクストやルネサス、Synopsis とCadence の日本法人、それにデンソーとトヨタが設立した次世代車載半導体の研究開発企業、ミライズテクノロジーズの5社です。これはダイヤモンド半導体に特化したものではないですし、ミライズはダイヤモンド半導体だけを研究しているわけではないですが、ターゲットを2030年と言っている以上、ダイヤモンド半導体が視野にないはずがありません。

北海道のなんちゃらとか、熊本のなんちゃらに金を使っているヒマがあったら、国はダイヤモンド半導体の研究開発体制をなんとか支援しろ、佐賀大学のメンバーをぜったい手放すな、と僕が言ってる気持ちが、少しはご理解していただけたでしょうか?

だって僕がもし米国の半導体メーカーのCEOだったら、嘉数教授の研究室のメンバーを、金に物を言わせて引っこ抜きますから。過去、日本にはこうして先端的な研究をしている研究者を、米国に持っていかれた歴史があります。今回はそれでゲームオーバーかもしれません。

このテーマになると、つい熱くなってしまいます😅。

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