ここ半年ほど不眠と食欲減退が続いていました。

周囲から明らかにおかしく見える状態はまずいです。精神科医は投薬に慎重な先生も多いんです。抗精神病薬の投薬をせがんで乱用する人が絶えないからです。初回は「では様子見しましょう」というケースが多いです。できればあなたが付き添ってあげて、別の医師のところに行って、よく事情と症状を説明して対応を考えてもらってください。

もっとも最近よく処方されるトリンテックスみたいなSRIM、レクサブロやパキシル、ジェイゾロフトなどSSRIやサインバルタ、トレドミンなどSNRIという比較的新しい抗うつ剤は、効き方がわりとマイルドなので、じわじわと効いてくる場合が多いです。必ずしも飲んだら直ぐにうつ状態から脱出できるわけでないんです。さらにご友人が自己診断している「双極性障害のうつ」とただのうつ病やうつ状態は、本質的に違うものです。これはキチンと診断する必要があります。

双極性気分障害のうつ状態は、自殺企図率が高い上に、自殺完遂率も比較的高いとされているので、厄介です。躁うつ混合状態など、自殺率が高いフェーズもあります。下手な精神科医が自殺させてしまうケースが多い状態です。できる限りの名医に連れて行き、よく診察してもらった上で、適切な薬を投薬してもらってください。

ちなみにうつ病にはカウンセリングが効果的な場合もありますが、僕の友人の精神科医は、「双極性障害のうつ状態では、カウンセリングは敗北の歴史だ」と言っていました。

本当に双極性障害のうつ状態であった場合、うつ病と違って双極性障害は完治しない病気です。寛解を目指すしかありません。そして抗うつ剤を投与すると躁転する場合があるので、患者から躁状態のエピソードを聞いた場合、精神科医は抗うつ剤の投与にとても慎重になる場合が多いです。躁とうつが早期に入れ替わるラピッドサイクリングになったりするとかなり厄介だからです。双極性障害のうつ状態での精神科医のファーストチョイスは、抗うつ剤ではなく、気分安定薬なんです。でも気分安定薬は効果が非常にマイルドです。うつ状態から引き上げる薬ではなく、躁とうつの波を抑える薬だからです。

とは言え自殺は防がなければならないので、一時的にうつ状態から強力な抗うつ剤で引き上げるか、気分安定薬で良いのかという、とても難しい判断を、精神科医は迫られます。

以上、かなり心配した方がいいです。精神科医は見た目で区別がつきにくいですが、実は腕がかなり違うものです。投薬に積極的な先生も消極的な先生もいますが、僕は現在の状態は投薬に積極的な先生にあたるべきだと考えます。そして新しい抗うつ剤の中では効き目の早いレメロンやリフレックスなどNaSSAと言われる抗うつ剤や、副作用が多くて古臭いが強力に効くこともあるトリプタノール、アナフラニールといった三環系の抗うつ剤をあえて使って、ラミクタール、テグレトールといった気分安定薬などの処方と上手くミックスさせるべきか、検討する必要があると思います。

ただ各抗うつ剤の効果は人によってぜんぜん違うんです。ある人には効いた抗うつ剤が、同一症状の別の人には、ぜんぜん効かない場合もあります。これが精神病薬の難しいところです。双極性障害のうつと診断した場合、精神科医は手探りで躁転などのリスクができるだけ低く、できるだけ効果的な抗うつ剤を探すことになります。僕にはこうした判断はまったくつきません。この辺は本当に医師の腕が問われるところなんです。とにかく名医を探すことです。

自殺されてからでは遅いので、もし本当にヤバそうだったら、緊急避難的にあなたが保護することも考えてください。自殺を本当に企てるまで、今一つ対応が甘いんですが、具体的な症状があれば、それを訴えて、精神病院で保護してもらうことも選択肢に入れてください。使える手段はぜんぶ使ってください。こういう場合では死なれてしまうより、過剰に対応した方がまだマシなんです。過剰対応して、後で笑えるようにしてください。

僕は何度か、自殺未遂者の身柄の引き受けに行ったり、自殺完遂者の死後の対応をやったりしましたが、いつも「こうなる前に何か出来なかったのか」考えさせられました。後から考えるとなんらかのサインを出していた場合がほとんどです。彼らが精神科にかかっていなかったことはありません。

人は案外、簡単に死にます。そして下手な精神科医は簡単に死なせます。