人生で劣等感を覚えた事ありますか？

僕と同じ歳のサッカー選手に水沼貴史という人がいる。日産の黄金時代を築き、横浜マリノスの礎になり、日本代表にもたびたび選ばれた。

うちのサッカー部が何をとち狂ったのか、この水沼選手がいる強豪サッカー部に試合を申し込んだ。でもこういう時、ふつうは相手は一軍を出しては来ない。ところが相手の有名なサッカー監督は開成を知らず、名前が似ている三重県の強豪校と間違えて、ズラッと一軍をスタメンで揃えて来た。そして僕はこの水沼選手のトイメンになった。

もう無様だったよ。いいように弄ばれて、ロクにボールさえ触らせてもらえない。ちょっと攻めれば反則を取られる。前半45分、敵陣にボールを持ち込めたのは、僕がドリブルで突破した1回だけだったけれど、寄せられて簡単に取り返された。前半だけで8-0だったから、もうサッカーの試合じゃなかった。惨めだったから、早く終わってくれることだけ願っていた。

前半終了後、おかしいと気がついた相手の監督が選手をぜんぶ入れ替えて、5軍だか6軍だかを出して来たんで、ようやく少しバランスが取れた。

もう比較しようがなかったから、以来、水沼貴史という名前だけ覚えていて、ずっとファンとしてその活躍を追いかけた。

なんで名前がわかったのかというと、ゲーム終了後、水沼選手が挨拶に来てくれて、ポンポンと僕の肩を叩いて、「あんたが一番良かったよ。僕の名前は水沼っていうんだけれど、君は？」と聞いて来たから。これでもうもうめちゃくちゃ負けたと思った。これが人生で最大の挫折体験。