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政治・経済・社会

これって計画倒産ってやつでは?

質問

りおぽんさん、後輩の旦那が事業売却したんですが融資を返済せずに自己破産しようとしてて、コレって計画倒産ってヤツでは?と思ってるんですが合ってますか?
今、後輩に名義変更を色々して、機を見て倒産するらしいですが、、、、、。
コレで分からないのが、後輩と子どもに何か影響があるかどうかです。後輩は働いており、高収入です。都心の一等地に住んでます。自分の収入とは別に売却した会社とは別の会社の経営者に名義変更でなってます。
旦那曰く「家族には迷惑かけないようにする。名義変更で財産を守る」と言ってるらしいですが、計画倒産を知りながら名義変更を受け入れる事って共犯にならないんでしょうか?
共犯になるならないで、後輩と険悪になってしまって、、、、
自分で調べて見たんですが、共犯になるならないは分からなかったです。
りおぽんさん教えて下さい。その旦那がどうなろうが知った事ではないですが、後輩が巻き込まれてるのを見過ごすのは何だかモヤモヤして気持ちよくないです。よろしくお願いいたします。

回答

この後輩の旦那さんという人は、世の中をいろいろ甘く見ているんだと思います。このケースでは自己破産を申し立てても借金が棒引きにならない可能性(免責不許可)も、刑事的に訴追される可能性(詐欺破産)もあり得ます。詐欺破産になった場合、あなたが懸念されている通り、後輩さん(奥さん)も加担者として訴追されるかもしれません。

いずれにしても借金を踏み倒してあっちこっちに迷惑をかけるわけですから、自分の財産だけは守るとか家族にだけは迷惑をかけないなんていう甘っちょろいムシの良い話にはまずなりません。

僕は弁護士ではありませんから、法務相談には乗れません。以下はあくまでも一般的な相談ベースの回答と考えてください。正確な話は弁護士にあたってください。ただ法律は1つですが、解釈や実際の運用というものがあるので、弁護士によって言うことが若干異なると思います。また弁護士は一般的に法律論でしか語れませんが、この回答では法律の建前では違うけれど、実際にはこういうことになる場合があると言うことも含めて回答します。ややこしい話ですから、かなりの長文になります。

まず「自己破産」ですが、これを申し立てれば直ぐに借金が棒引きになるわけではありません。申し立てる最大のメリットは、司法が介入して、借金の取り立てが止まることです。借金取りに追われている人は、このために自己破産を申し立てる場合が多いです。借りているのが銀行であれ信販であれ消費者金融であれ、よっぽど筋が悪い街金でもない限り、自己破産を申し立てれば借金の取り立てがピタッと止まります。でもふつうはヤ◯ザに近い街金の借金返済の督促だって止まります。

一般には自己破産をためらう方が多いんですが、借金返済に苦慮している人に自己破産を勧める弁護士が多いのはこのためだと思います。実際、僕も借金を抱えて返済できるあてもなく、毎日借金取りに返済の催促をされて心身ともに疲弊している人であれば、法テラスにでも駆け込んで自己破産を申し立てることを勧めます。でも、ご相談の案件はそうではないようです。

自己破産を申し立てるデメリットは、自己破産したことが官報に名前入りで記載されて、個人の信用調査機関などのブラックリストに載ることです。クレカは最低5-7年は作れませんし、借り入れを返さなかった実績ができるので、今後、金融機関からの借り入れは審査で弾かれて極めて困難になります。ですから企業経営者としてはもうやって行きづらいでしょう。単純な話をするとスマホを割賦払いで購入しようとすれば弾かれます。

自己破産を申し立てると、まずそれを裁判所が認めるかどうか判断します。この際、債権者に分けるほどたいした資産がないと見られた場合は「同時廃止」という案件になりますが、債権者に分ける資産がある、あるいはあるはずと裁判所が見た場合、「管財事件」というものになって、破産管財人というものが付き、自己破産者の財産状況について詳しく調べます。

この時、財産がないと誤魔化せるなんてことはありません。自己破産を申し立てるには、あらかじめ弁護士と相談しながら、10数種類の書類を用意することが必要になります。弁護士には所定の「申立書」や「陳述書」といったものを作成してもらいますし、「債権者一覧」「住民票」「戸籍謄本」なども必要です。しかしそれ以外に「財産目録」を作成したり、「給与明細」「過去2年分ぐらいのすべての預金通帳の写し」「給与明細や源泉徴収票」「土地家屋の権利書」「車検証、自動車税の申告書など」「証券口座などの取引明細書」なんかも必要になります。

例えば去年の持ち家の固定資産税を旦那さんが支払っているのに、現在、持ち家が奥さん名義になっていれば「なんで?」という話に後でなります。また「家計収支表」といった名称の書類を作成するんですが、これはありていに言えば「家計簿」です。ここでは旦那さんの収入だけではなく、結婚していれば奥さんや同居親族の収入も記載します。こうやって世帯全体の収支や財産状況をわかるようにするんです。

あんまり収入も財産もなければこの表は1ヶ月分で済む場合もありますが、このケースでは過去何ヶ月かに渡って、奥さんの給与明細付きで提出することが求められる可能性が大です。旦那が自己破産するのに奥さんが持ち家だのたくさんの財産を保有しているのは「なんで?」ということになるからです。

こうした作業は弁護士と進めることになりますが、ここで「この自己破産者は怪しい」と思われれば、まともな弁護士はそもそもこの案件を受託しない可能性もあります。財産の隠匿に加担すると、弁護士自身の身が危なくなる場合もあるからです。まあ最終的には後で「騙された」ということにするつもりの弁護士がお金目当てで受託する可能性もありますが。

自己破産の申し立てを裁判所が認めるかどうかのポイントは、大きく分けて3つあります。①現時点で債務(借金)が返済できない状態であること、②債権者に分配できる資産がないこと、③(後で触れますが)免責不許可になるような事由がないことーー以上です。裁判所に申し立てる書類を作成していれば、勘の良い弁護士であれば、財産を隠匿していることぐらい気が付きますから、まず②でアウトです。そして③の免責不許可事由があとあと響いてきます。

裁判所が自己破産の申し立てを認めて、手続きの開始を決定した場合、先ほど「同時廃止」と「管財事件」の2通りあると言いましたが、この場合は過去の経歴や預金通帳などを見ると、明らかに破産管財人が付く「管財事件」になります。破産管財人には通常、裁判所が選任した弁護士が就任します。大掛かりな案件の場合、その補佐役も就く場合もあります。

この時、破産管財人が調べるのは、破産時点での財産状況だけではありません。過去に持っていた資産が今どうなっているのかという追跡調査もします。自己破産前に配偶者に財産の名義を変更しておくのは、「一番よくある単純な手口」ですから、これはぜったい調べます。調べない破産管財人を聞いたことがありません。自己破産を申し立てた人への郵便物はすべて破産管財人に回送されて中身を調べられます。ですからこれを見てちょっとでもおかしいところがあれば、そこを精査されます。

ちなみに持ち家については、旦那さんの名義の場合はもちろん、破産に備えて奥さんの名義に変更したと判断された場合は、旦那さんの所有財産に戻されて、債務返済のための処分の対象になります。破産管財人には破産法で、持ち家を任意売却にかけて換金する権限も認められています。

奥さん名義に移してあるものを自分の財産に戻されることを否認して争うことは法理上できなくはありませんが、破産管財人の心象を著しく害するので、のちに触れる「免責審尋」で破産管財人が「免責に相当しない」と述べると思います。自己破産を申告するのは、免責を受ける、つまり借金を棒引きしてもらうためですから、免責にならなければ自己破産を申告した意味がありません。

夫婦共同名義であった場合は半分差し押さえられますから、事実上、売却処分にするか奥さんが全額買い取るかの判断を迫られます。もともと奥さんの財産であると判断された場合だけ、家は処分を免れます。

また当然ですが、会社が資金を銀行などから借り入れていたり、住宅ローンなどを借りたりしていれば、保証人や連帯保証人にも責任が及びます。「期限の利益」というものが逸失するので、連帯保証人はお金を一括で返済する義務が生じます。これで連帯保証人まで連鎖的に自己破産に追い込まれるケースもあります。よく「連帯保証人にはなるな」と言われるのはこのためです。

この他、破産管財人は自己破産した旦那さんの所有財産を確定させるため、旦那さんだけでなく、必要があれば奥さんの銀行通帳から奥さんの給与明細まで任意で提出を求めて、奥さんがどれぐらいの自己資産を持っていても不思議ではないのかとか、自己破産に備えて名義変更をしていないか、洗いざらい調べます。偽装離婚もよくあるので、離婚していても任意で調べる場合もけっこうあります。このあたりは破産管財人のやる気次第です。

もし自己破産に備えて名義変更したと判断されれば、本来持っているべき旦那の資産に戻されて、債権者への債務の支払いに充てられます。夫婦であれば、こうやって旦那さんの資産と、奥さんが持っていておかしくない資産を選り分けていく作業を破産管財人がします。だから管財事件は結論が出るまで、少なくとも半年から1年ぐらいかかります。

この「過去に遡って調べる」期間は、一般的にはだいたい1-2年とされますが、破産管財人が怪しめば、もっと過去に遡る場合もあります。旦那さんは、「会社や家、車など大物の名義を変更しておけば十分」と高を括っているのかもしれませんが、自己破産で処分すべき「財産」の基準になるのは、東京地裁を始め、多くの裁判所で「20万円以上」です。破産ではこの「20万円」がいろんなことのメドです。ですから換金性のある財産は洗いざらいと思った方がいいです。

例えば家の中に高価な家具や美術品でもあれば、これも調査対象です。もちろん車や20万円以上の生命保険の解約金、有価証券などもぜんぶ対象です。銀行預金だけはおおむね「総額99万円まで」は処分の対象外になって助かります。残るのはその程度です。破産管財人はこうやって財産を調べて目録を作ったり、適宜、換金処分をするんです。

夫婦で暮らしていて、旦那さんが以前は企業経営者だったのに、旦那さんが購入したものが何もない、家から何まで奥さんの財産だなんていうバカな話を信じる破産管財人はいません。ですから旦那さんの過去の収入を勘案して、旦那さんのお金で買ったものを峻別していきます。

こうやって旦那さんが購入したと判断されたものは、後で触れる「自由財産」と呼ばれる生活必需品などの特定品目以外、「20万円以上の価値がある財産」はすべて換金処分の対象になります。例えば旦那さんが奥さんにプレゼントした高価なジュエリーがあれば、例え現在は奥さんの持ち物でも、お金の出元は旦那さんですから、厳しい破産管財人なら換金処分にします。自己破産者が破産管財人に協力して、破産財団の資産をできるだけ増やして債務者への分配に充てようとする態度であれば、奥さんへのプレゼントぐらい破産管財人はお目こぼししてくれるんですが、この場合はそうではなさそうです。

以上のように「ぜんぶ奥さん名義にしておけば逃げられる」と思っていたら大間違いで、こうやって住宅ローンを出したのがどっちの収入からだとか、このソファを買ったのはどっちの収入なのか調べられるわけです。ぜんぶを奥さん名義にしていれば、じゃあ旦那の収入はどうしたのかとか、奥さんの収入でこれがぜんぶ買えるわけがないじゃんと、破産管財人から追及されることになります。破産管財人は弁護士で、裁判所から選任されるこの手のことのプロですから、素人の苦しい言い訳なんて簡単に見破られます。ちなみに破産管財人の報酬も、この旦那さんのものとされた財産を換金したものから出ます。だからヌルい話は通用しません。

もちろん旦那さんが経営していた会社の経営を、自己破産に備えて奥さんが引き継いでいるなんて、アホみたいにヌルい話を破産管財人が見逃すはずがありません。奥さんが持っていて助かるのは、奥さん自身の働いて得ている収入とそれで築いた自分名義の資産、奥さんが親から相続した財産などです。「旦那さんの自己破産」は法律上は奥さんの財産には及びません。

ただ実際問題として、夫婦生活をしていて共働きであれば、どっちのお金で買ったか判断しづらいグレーなものがたくさんあるはずです。この峻別が難しいんですが、後に触れる「免責審尋」で、破産管財人に「免責相当」と裁判官に言ってもらうため、破産管財人の心象をできるだけ良くしておく必要があります。そして破産管財人はできるだけ自己破産者(破産財団)の財産を増やして債権者に分配するのが責務ですから、実運用レベルではグレーなもので換金性のあるものは旦那さんの財産として換金処分するよう、それとなく促すと思います。ですからグレーなもので換金性のあるものはだいたいスッカラカンになります。

原則は先述のように「20万円以上の価値がある財産」が対象なんですが、ものによっては「まとめれば20万円以上」と考えられる場合、破産管財人によっては買取業者を家に入れて、例えば高価そうな食器類をまとめて買い取らせたなんて事例もよく聞きます。

僕は自己破産した元資産家の持っているコレクションを、破産管財人から古物商が買い取って欲しいと依頼を受け、その買い手として古物商にくっついて自己破産した家に行った経験があります。この時は破産管財人からできるだけ高く買い取って欲しいと頼まれました。元は資産家らしい大きな家でしたが、中にはもう大きな家具も何もなくサッパリしたものでした。

破産管財人が「これも買ってくれませんか?」と積んであった古いクラシックレコードや本の山、アンティークの食器類やらなんやら次々に持ってきました。本当は本なんかは処分対象外のはずなんですが、ここまでくれば破産管財人の判断次第です。ソファもテーブルもない広い部屋で、自己破産した本人や家族が部屋の隅っこに固まって虚ろな目でこっちを見ているので本当に気の毒になりました。

ですから「奥さん名義で逃げよう」という考えは、ほんと甘ちゃん過ぎます。持ち家がもし運良く奥さんの財産として認められたとしても、じゃあ中の物を買ったのは旦那の収入からだろうという話になって、換金性のあるものはぜんぶ換金処分されて、ちゃぶ台に座って子どもと小さなテレビを観る暮らしが待っています。

旦那さんは「家族に迷惑をかけない」なんてヌルいことを言っているようですが、最初に述べたように、借金を踏み倒してあっちこっちに迷惑をかけるのに、自分の家族だけは守ってこれまで通りの暮らしが送れるようになるほど、世の中は甘くはできていません。弁護士が自己破産を勧めるのは、あくまでももうどうにもたち行かなくなった人の生活再建の手段になるからであって、財産があるのにそれを隠匿しようとする人の幇助は、悪徳弁護士でもない限りしません。

破産管財人から財産価値があっても残してもらえるのは「自由財産」と言われるものです。例えば家事用品など生活必需品やテレビ、冷蔵庫などの一般的な家電、自分たちが寝る布団やベッドなんかは処分されない決まりです。子どもの勉強机なんかも見逃してもらえる場合が多いです。「自由財産の拡張」といって、生活再建に必要と認められれば、仕事をするために必要な自家用車や、障害者、要介護者に必要な用品は20万円以上の資産価値があっても所持が認められる場合がありますが、このケースではそういうこともあまりなさそうです。

また自由財産に該当するものでも、旦那さんの収入から高額な家電やベッドを購入していた場合、そこまではもはや不要だろうということで、それは売却して換金処分されて、得たお金の一部でもっと安いものを買うように勧められる場合もあるようです。先述のように破産管財人に「免責相当」と言ってもらわないとすべてが水の泡なので、現実問題として、財産の処分の判断ではなかなか破産管財人の意向には逆らえないんです。いずれにせよ、旦那さんが借金を踏み倒すわけですから、これまでと同じ優雅な生活が送れるとは思わない方がいいでしょう。

そして、よく「自己破産を申し立てると直ぐに借金が棒引きになる」と勘違いしているアホがいますが、これは大間違いです。自己破産の申し立てが認められたあと、こうやって破産管財人が付いて数ヶ月から1年ぐらいはかけていろいろ調査し、自己破産者の財産目録などを作成、どれぐらいの財産があってそれを債権者に分配できるかなどを、裁判所で裁判官に報告します。

その上で裁判所で「免責審尋」というものをします。ここで裁判官が破産管財人に「この者は免責が相当か?」と尋ねます。そこで破産管財人が「この自己破産者は改悛の情が著しく、また所有財産を適切に換金処分して債権者に分配するので、免責とするのが至当と考えます」といったような回答をして、裁判官が「それではこの自己破産者を免責にする」という決定を下せば、ここで初めて借金が免責(棒引き)になります。

この免責審尋の時、悪質な財産隠しをしていたと破産管財人が判断した場合、「免責相当ではない」と答える場合もあります。債権者も出席して意見を申述できますので、おそらくこの場合は「免責にするな」と言うでしょう。もはや債務を返してもらえるあてもない場合、「免責審尋」なんかに債権者は誰一人出席せず、裁判官と破産管財人、自己破産申請者の3人だけが法廷にいるというケースもよくあるんですが、このケースではそうはならないと思います。

この借金が棒引きになる「免責」には「免責不許可事由」というのがあって、今回のケースはその第1項の「債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと」に、モロに引っかかりそうです。

免責不許可事由はいろいろあって、ギャンブルによる出費や過度の浪費も該当するんですが、だいたいこういうのはスッカラカンですから同時廃止事件になって、裁判官の裁量で同時廃止(免責)にしてしまうケースが多いです。ですから免責不許可になるのは、破産法の条文ほどには実際はそう多くはないんですが、このような意図的な財産隠しでは、裁判官もまず情状を酌量しません。

こうして「免責不許可」になった場合、借金は一切棒引きにならず、そのままです。旦那さんはこれからもずっと借金取りに追いかけられて生活することになります。例えば旦那さんに100万円の月給があれば、このうち生活に必要な最低限のお金以外は、返済に充てられます。この額は裁判所が判断しますが、生活保護レベルと思うといいでしょう。奥さんに収入があってそれで生活できるのであれば、旦那さんの収入はぜんぶ債務の返済に充てろと言われる可能性もあります。

僕は副業で執筆業をしていた関係で、出版社や編集プロダクションの倒産に何度か出くわしました。こうなると昨日まで社長をされていた方が、いきなり自己破産になるんですが、だいたい奥さんに類を及ぼさないため離婚されていました。しかし奥さんに渡せた財産は慰謝料レベルの場合が多かったようです。とある出版社の破産で僕は1100万円ほどの原稿料や編集費を踏み倒されて、「あらまあやられたわ」と思っていたんですが、破産管財人が優秀で、1年以上は経った忘れた頃に700万円も分配されたので驚いたことがあります。僕はなんか思いがけないお小遣いをもらった気分になれましたが、逆に言えば破産管財人の取り立てがそれだけ厳しかったということです。

先述のように旦那さんが自己破産しても、法律の上では、奥さんの財産は奥さんのもので、奥さんの収入は奥さんのものです。弁護士に聞けばそう答えるはずです。

しかし自己破産してももし免責不許可になって借金が棒引きにならず、それでも結婚生活を送っていれば、法律上の建前はともかく、借金取りは少しでも返してもらえるものはないかとやって来ますから、現実的には従来のような生活を送るのはもう困難です。筋の悪い借金取りであれば、奥さんに金があるんだったら、奥さんも返せよとは迫って来るでしょう。筋の良いメガバンクなんかであればまだ少しいいですが、債権者が早く債権を整理するため、筋の悪いところに債権を割り引いて売り飛ばしたりする場合がけっこうあります。それで街金にでも債権が渡れば、こういったところの借金の取り立ては苛烈になります。

完全に違法なので弁護士に聞けば「それはできない」と言うでしょうが、こういった街金のような筋の悪いところが債権を持てば、現実には奥さんのオフィスから子どもの学校の行き帰りまで、何にもしないけれど借金取りが姿を見せて、プレッシャーをかけて来ることも珍しい話ではないです。特にこの場合は、奥さんには返済できる財産があることは明らかですから、その可能性が十分にあります。借金取りの返済督促を止める最大の手段である自己破産の申し立てという手段はもう使えません。

結局、奥さんの財産として家を残せても、免責不許可後も同居して結婚生活を続ける気であれば、最終的には家を売却処分にすることになる可能性が現実的には大きいです。

以上のように「自己破産しても財産を守って家族を守る」なんてことは、結婚したままでは、現実的にはほぼ不可能です。できる限り財産を守りたいのであれば、最低限、奥さんは旦那さんとは縁を切って、子どもを連れて離婚して別居することぐらいは覚悟したほうがいいです。それでも財産隠匿への追及は厳しいですから、そう財産は残せないでしょうが。

そして問題の「計画倒産」についてです。

「計画倒産」について調べたけれど、よくわからなかったということですが、実は「計画倒産」という犯罪自体がそもそもありません。例えば倒産は避けられないと腹を括って、従業員や取引先にできるだけ迷惑をかけないよう「計画的に倒産」するのは犯罪ではありません。

犯罪として引っかかるとしたら、「詐欺罪」か「破産法第265条」で規定されている「詐欺破産罪」というものになります。僕は裁判官でも弁護士でもありませんから、あくまで条文と過去の判例からの類推ですが、今回のやり方はこの「詐欺破産罪」に問われる可能性が十分にあると判断します。

この条文の本文では「破産開始手続きの前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした時、(中略)十年以下の懲役、若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科とする」。この後に続く条文が重要です。「情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定した時は同様とする」。

つまり詐欺破産罪になれば、最悪で懲役10年の刑と1000万円の罰金が同時に課せられる可能性があり、第4号に該当した場合、事情を知ってこれに加担した人も同罪にする、ということです。

この第4号の内容は「債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為」です。読んでいただければわかるように、自己破産をした人が財産を意図的に隠す行為は明確にこの第4号に抵触し得ます。そして先の条文を振り返れば、事情を知っていて、その行為の相手方を務めた人も同罪ということです。

この辺で訴追するかどうかは、グレーなところが多いです。実際のところを言えば、自己破産を申し立てた人がちょこっと奥さんに財産の名義を移して財産を守ろうとすることは「よくあること」なので、財産隠匿を発見した破産管財人は、自己破産者を「こんなことをすると免責が受けられませんよ」と叱って、自己破産者の財産に戻して済ませるケースも多々あります。

この辺は財産隠匿を発見した破産管財人の判断次第なんですが、拝読する限り、このケースはかなり計画的で、かつ金額も大きく、手口も悪質ですから、破産管財人が「訴追するのが相当」と考える可能性が十分あります。これはやってみないとわかりません。

この場合、奥さん(後輩さん)まで訴追されるかどうかは、これまた破産管財人の判断次第ですし、裁判官や検察官がどう判断するかという部分もあるんですが、もし訴追相当と判断されれば、旦那さんの別の会社の経営者にまでなっていて、事情は知らなかったとは申し開きしにくいですし、その他のさまざまな財産の名義変更の受け手にもなっています。破産管財人がやる気になればいくらでも奥さんも「詐欺破産罪」で訴追できる案件というのが僕の判断です。これは違う意見を言う弁護士もいるとは思います。

ということで、夫婦揃って詐欺破産罪で訴えられる可能性は十分あります。これは実際にやってみなければわかりません。でもわかる時は訴追される時ですから、試してみることは、あんまりおすすめしません。

また、こういう経済犯罪は、「疑われて取り調べを受けた」という事実だけでも、バレると奥さんが現在の職を失う可能性も十分にあります。詐欺罪を犯した人を雇おうとする企業は多くありません。自社から詐欺罪での訴追者を出すのは外聞が悪いですから、危ないと思えば、訴追される前に、会社がなんらかの名目をつけて辞めていただくことを求めるケースが多いでしょうか。

でもお話しを聞く限り、夫婦で協議してやっているようですし、脱税と一緒で欲に目が眩んでの犯罪ですから、あなたがヤキモキして注意しても、実際に捕まってみるまでは、彼女もわからないと思います。

脱税も「詐欺破産罪」と一緒で刑事罰は「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はその両方」なんですが、僕の知っている大金持ちで、総額10億円の悪質な脱税が摘発されて、追徴を食らった上に、もろに懲役10年の刑に処せられた人がいました。

あんな大金持ちがなんであんなバカな脱税をしたんだろうと不思議に思ったんですが、知っている人は知っていたというか、むしろ上手く脱税できていることを自慢していたと聞きます。完全な阿呆だと思いました。懲役10年ですから執行猶予は当然付かず、この人は刑務所に入って、一家離散していろんなものを失っています。

交通事故で誰かを死なせると「過失致死罪」に問われますが、実はこれは罰金刑だけです。やや重い「重過失致死傷罪」や「業務上過失致死傷罪」がマックスで5年以下の懲役ないし禁錮なので、経済犯罪の量刑がいかに重く設定されているのかわかります。経済犯罪は量刑が軽いと横行するので、刑を重くして、引き合わないようになっているんです。もちろん世の中には法の網の目を掻い潜って美味しい思いをしている人もいます。しかし万が一バレた時の量刑がこのように重いですから、どう考えても引き合いません。

こういう経済犯罪をバレずにやるには、ぜったい極めて内密にやるしかないんですが、奥さんの友人であるあなたが知っているような状態では、破産管財人が調べれば100%バレると思います。当然ですが債権者もできるだけ債権を取り戻そうとして、この旦那さんや奥さんのことを調べて破産管財人に「こいつは財産隠しをやっている」と内々に通報する可能性もありますし、世間にはこういう経済犯罪で美味しい思いをしているのを知ると、やっかんで密告するケースも多いです。だから内密にやるのが必須なんですが、この状況ではバレバレでしょう。

訴追されてもまあ初犯ですから、奥さんには執行猶予は付くでしょう。それでも前科1犯ですから、仕事やいろいろ失うとは思いますが、これは実際そういう痛い目になってみないとわからないと思います。

なので後輩ご夫婦については僕はまったく同情しませんが、お子さんがいるそうなので、両親が前科者になるのはさすがにちょっと可哀想ですね。

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