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本場のイタリア料理と日本のイタリア料理ってそんなに違うんですか?

質問

本場のイタリア料理と日本のイタリア料理ってそんなに違うんですか?

回答

何でも「本場とは違う」と言いたがる人間はいるものです。そんなに根本的には変わりません。違うとすれば、次のようなところです。

①量。本場のイタリア料理は量が多いです。日本のイタリア料理屋の感覚で食べていると、メインまで辿り着けません。アンティパストの次に出てくるパスタやリゾットなどの「プリモピアット」で満腹になってしまう日本人が多いので、ここをセーブして、メインにあたる「セコンドピアット」に備えた方がいいです。

②郷土料理が多い。日本人は「イタリアン」だと思っていますが、イタリアでは「イタリア料理屋」ではなく、「トスカーナ料理」だったり、「ヴェネチィア料理」だったり、ミラノ(ロンバルディア)料理だったり、コルシカ料理だったりします。この混淆が日本のように進んでいません。ですから、高級なリストランテでなければ、ある地方の郷土料理はそこでしか食べられない場合が往々にしてあります。

例えば僕は子どもの頃から「ミラノ風カツレツ(コトレッタ・アッラ・ミラネーゼ)」という仔牛肉を薄く叩いて、パルミジャーノレッジャーノというチーズをまぶしてパン粉で揚げたカツレツが大好物なんですが、これはまさにロンバルディア料理なので、ローマの料理屋に行って注文しようとすると「なんですか、それは?」ということに往々にしてなります。

イタリアのビーフステーキにあたる「ビステッカ」が食べたくなったら、フィレンツェ(トスカーナ料理屋)です。「バーニャカウダー」はピエモンテ料理(トリノ料理)ですから、おおむねあるのはトリノ周辺で、あってもミラノまでです。ローマやヴェネツィア、ナポリで注文すると「なんですか、それ?」になります。

このように日本で「イタリア料理屋ならあるだろう」と常識のように思っている料理がない場合がけっこうあります。

③イタリアは南北に長い。②に関連しますが、イタリアといってもさまざまです。南国のナポリもあれば、ピエモンテもヴェネトもイタリアです。海が近いところもスイス国境に近い山の多いところもあります。イタリアには20州あって、それぞれに郷土料理があるといっていいと思います。スイス国境に近いと「チーズフォンデュ」が郷土料理だったりします。イタリア料理=地中海料理、ではありません。

また、イタリアの一部地域はオスマントルコの侵略を受けた歴史があります。このためトルコ料理の影響が色濃いところもあります。その他、内臓料理を中心に、日本のイタリア料理屋では出てこない料理がたくさんあります。日本のイタリアンで食べているのは、イタリア各地の料理のうち、日本人の口にもあいそうなものをチョイスしていると考えると良いでしょう。

④割と雑で適当で素朴で豪快。イタリア人の友人に怒られそうですが、南国文化のせいか、お料理の味付けなんかが一流のリストランテであっても、割と大雑把です。また日本では「この料理にはトマトソース」といった定番になっているものも、イタリアでは必ずしもそうではない場合が多々あります。日本のイタリアンのような「繊細な味付け」は、特に伝統的な郷土料理を食べさせるお店では、あんまり期待しない方がいいです。むしろガッツリと食べに行ってください。

高級なお店でも「ソースにこだわるのはフランス料理」です。イタリア料理の本場のセコンドピアットは、よほど高級で有名なリストランテ以外、例えば「タグリアータ・ディ・マンツォ(牛肉をグリルしたもの)」にかかっているのは、胡椒と塩とレモン、それに何かの香草といった感じです。ややこしい名前のソースがかかっていることは稀です。

フランス料理がソース込みで複雑な味を楽しむのに対して、イタリア料理は本来は素朴で豪快な「素材そのものを味わうお料理」が大半です。日本のオシャレーなリストランテは、本場ではとても数が少ないです。

⑤「肉、肉、肉」。日本のイタリアンというと魚介類が多い印象ですが、イタリアではむしろ肉料理が多めです。例えば「カルパッチョ」という料理があります。日本では「サーモンや、タイなどの白身魚のお刺身を薄く切ったものと香草にオリーブオイルをかけたもの」というイメージがあります。しかしイタリアではこれになかなか出会えません。基本は「生の牛肉の薄切り」を使うのが一般的です。

このカルパッチョに魚や貝類を使うのは、日本発祥です。これが「なかなかいける」ということになって、最近はイタリアの大都市のリストランテで逆輸入されています。しかし街場のトラットリアやオステリア(居酒屋)だとまだまだ牛生肉の薄切りが多いので、注文して驚かないでください。

その他、イタリアの伝統的な料理屋は、ナポリとか漁港近くの街を除けば、全般的に肉料理が多いです。最近になってヘルシー志向で魚料理を出すお店が大都市のリストランテを中心に増えてきた感じです。ただ全体に生魚を出すお店はまだ少ないです

⑥オシャレではない。またまたイタリア人の友人に怒られそうですが、イタリアでは「リストランテ」という高級料理店と「トラットリア」というカジュアルなお店に大別されます。リストランテは日本のイタリアンに近い感じで、白い布のテーブルクロスで、きちんと制服を着たウエイターさんがいて、サービスも丁寧です。英語が通じる場合が多いです。

でも高級なのはここまでです。ローマやミラノのセレブ向けのお高いリストランテ以外は、さほどフォーマルではなく、ドレスコードも緩いです。地元の家族連れとかで、雰囲気も割とガヤガヤしています。お値段もそんなに高くはなく、これまで紹介してきたようなイタリア各地の伝統料理をシェフがアレンジして出してくる場合が多いです。ただイタリア慣れしていない日本人観光客であれば、このリストランテをオススメします。

「トラットリア」とはモロ街場の飯屋です。観光客の多いトラットリア以外、だいたいその地方の郷土料理しかないです。ワインも地元産ばかりのことが多いです。イメージとしては薄っぺらい白と赤の格子柄なんかのテーブルクロスで、店員さんやおかみさんが私服でサービスしています。陽気なイタリアのオカンに出会えます。ただし、英語はまったく通じない場合がほとんどです。

僕はこういうトラットリアに潜り込んで、地元のおっさんやおばちゃんに混ざって郷土料理を食べるのが好きなんですが、味はまったく日本人向けにアレンジされていません。日本のイタリアンでは出てこないようなお料理もたくさんあります。味付けは濃いめです。それをお店の人が「どうだ、食え。ウチのは美味いぞ」という感じで出してくれます。日本の「デートに使えるイタリアン」を想像して行くととんでもないことになります。

その他、「オステリア(居酒屋)」や「バール(昼は軽食喫茶、夜は大衆居酒屋)」、「タバッキ(田舎街にあるバール兼コンビニ)」、「タヴェルナ(ギリシャ寄りの地方に多いトラットリア)」なんかがあります。別にこの区別を厳密に付ける必要はないんですが、こういう名称のお店は観光地の観光客を相手にするお店でない限り、「イタリア人のおっさんやあんちゃん」がたむろしているお店です。日本でいうオシャレなオステリアなんちゃらとかトラットリアなんちゃら、バールなんとかを想像して行くと、慌てることになるでしょう。この辺はまず英語は通じません。行って隣のおっさんとサッカーの話なんかをしていると無茶苦茶イタリアに来た気分になるんですが、女性連れで行く場合、観光客相手ではないお店は下見をしてから行くことを勧めます。

⑦カルボナーラに生クリームは入っていない。こういう細かい違いがいくつかあります。「本場」のカルボナーラは多くの場合、グアンチャーレという豚の頬肉の塩漬けに、卵とペコリーノロマーノという羊のチーズを混ぜて作るローマのパスタ料理のことです。ですからクリーミーではなく、溶けたチーズでかなりネットリしています。不味いお店だとこれがボソボソしています。でもこっちが「本場」です。

ただ友人のイタリア人は「日本のカルボナーラが美味しくて、びっくりした」と言っていましたが🤣。なお、カルボナーラはオシャレなパスタではなく、労働者が食べるのが発祥なので、たくさん黒胡椒をかけてください。お口に合うかわかりませんが、それが「本場の味」です。

⑧もともとはそんなに味にバリエーションはない。さきほど日本のイタリアンはイタリア各地のうちの、日本人の口にも合う美味しいものをチョイスしたものだ、と説明しました。これをパスタで説明すると、「ローマ三大パスタ」は先のカルボナーラと「アマトリチャーナ」「カチョエペペ」とされます。カルボナーラ以外、日本ではあんまり聞かないと思います。

このうち、アマトリチャーナはグアンチャーレとペコリーノロマーノに玉ねぎを炒めたトマトソースを絡めたものです。カルボナーラとの違いは「トマトソース」の部分だけです。「カチョエペペ」はさらに素朴で、ペコリーノロマーノを和えて作って塩胡椒をかけただけです。

ローマの観光客相手ではないトラットリアだと、このバリエーションになります。「イカ墨のパスタ」が食べたかったら高級店かヴェネツィアに行ってください。「ジョノベーゼ(バジルのパスタ)」ならジェノヴァでしょう。地方によっては何でもかんでもトマトソースがかかっていたり、日本人の感覚だと毎日食べているとけっこう飽きます。でも彼らにとってはこれが白いご飯のようなものであって、「本場の味」です。

⑨イタリア男の味の基準は「ママの味」。イタリア男はとにかく「マンマミーア」です。ですから、よほどのグルメ以外、トラットリアの美味しい、美味しくないの基準は「ママが作ってくれた懐かしい味に近いかどうか」です。彼らの舌はあんまりあてにはなりません。なお、イタリア男にお母さんをバカにするのは、決闘を申し込むようなものですから、ご注意ください。

日本のイタリアンは、めちゃくちゃ気取っていて、オシャレなお店が多いです。しかし本場のイタリアン、特にトラットリアはまったくそうではありません。例えばミラノの料理屋でよくある「アスパラジ・アッラ・ビスマルク」はアスパラガスをバターでソテーして、これに3-4本並べた上に目玉焼きをドンと乗っけて、パルミジャーノレッジャーノというチーズと黒胡椒を振りかけたものです。超素朴です。日本ではファミレスでも出しにくいかもしれません。でもアスパラガスの鮮度勝負ですが、これが案外いけます。プリモピアットに「リゾット・アッラ・ミラネーゼ」を注文すると、サフランライスのリゾットが出てきます。トラットリアでは具は入っていないことが多く、ド直球です。

イタリアでは、もう日本の大衆料理屋か大衆居酒屋にでも行ったつもりで、素朴で豪快なイタリアの食材の素材そのものを味わう、これが日本のイタリアンと本場のイタリアンの楽しみ方の大きな違いだと思います。

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