アメリカのテクノロジーセクターの株は今後右肩上がりだと言われていますが、どういった場合に低迷すると思いますか？

僕は「米国のテクノロジーセクター全体」は右肩上がりだと考えています。しかし業界や個別の企業には栄枯盛衰があります。僕は1980年代から米国のこのセクターを見てきましたが、消えてなくなった企業の方が多いです。

例えば1980年代であれば、みんなが成長　すると考えていたのはIBMやHPです。若い方はご存知ないでしょうが、デジタルリサーチという会社があって、この会社のOSをパクったのがMicrosoftの出発点です。

1990年代に入ると、そのIBMが大赤字を出したり、Appleが倒産寸前まで追い込まれました。1990年代前半に今のAppleを予想していた人はいないでしょう。代わって栄華を極めたのがMicrosoftとIntelで「ウインテル帝国」なんて呼ばれていました。そのIntelは今、事業構造の改革で苦しんでいます。

1993年ごろにはNVIDIAはもうありましたが、さほど注目を集めたわけではありません。PCでゲームを遊んだりするためのグラフィックアクセラレータ用チップをファブレスで手がける企業でしたが、この分野にはDiamond MultimediaやCirrus Logic、Number 9などの強豪がひしめき合っていて、NVIDIAはその1社に過ぎませんでした。僕がジェンスン・ファンに最初にインタビューしたのは1990年代前半でしたが、生き残れればいいなぁぐらいに思っていました。それを僕は不明だとは思いません。さきほど挙げた企業で今も生き残っているのはNVIDIAとCirrusだけです。

他にもAdobeだとかCisco Systemsのように、かつては将来はとんでもない株価になると予想されていたけれど、今はそうでもない企業はいっぱいあります。

テクノロジーセクター全体は拡大していくけれど、その中身は激しく入れ替わっているんです。

AIについては過去何度かお答えしてきました。今後AIはどんどん技術が進化していくと思います。2045年にはシンギュラリティが起こるとも予想されています。しかしこういうものは注目されたり、沈静化したりして拡大していくものなんです。AIについても過去に何度か市場のテーマになったことがあります。

現在の生成AIブームはその中でも大きい波で、もうしばらくは続くとは思います。しかし今後は倫理的な問題や著作権の問題から、法的な規制が進むでしょう。遠い将来を考えれば「まだ始まったばかり」ですが、現在の生成AIブームはどこかでいったん沈静化するはずです。当然、株式市場のAIブームも一段落します。

何か調子がいい銘柄やテーマがあると、この株価は月まで届くとか言い出すお調子者がぜったい出てくるんですが、過去そうなった試しはありません。そそのかされない方がいいでしょう。