父が友人に抵当証券というものを勧められたそうなのですが、そのような商品も世の中にあるのでしょうか。

「抵当証券」というのは不動産(家や土地)の担保ローン(わかりやすく言えば住宅ローンがその一つです)をまとめて証券化して、これを小口にして売り出したものです。「不動産担保ローン小口化商品」とも言います。

金融機関や不動産金融会社は、金利を取りつつ、返済リスクを背負って住宅ローンを貸し出すわけです。しかし自分のところでそのリスクをぜんぶ背負い込むのは荷が重い。ですから住宅ローンをまとめて証券化して売り出すことで資金を回収してリスクの分散を図るわけです。

その意味で「抵当証券」は一般的には詐欺商品ではありません。大手の証券会社などでもふつうに売っており、比較的利回りも良いです。

ただ認識しなくてはいけないのは、自分が金融機関や不動産金融会社のリスク分散の一翼を担っているということです。

不動産担保ローン小口化商品が盛んな米国では、住宅ローンの貸し出しにあたって審査が甘く、ちょっと無理気味の相手にも与信します。となると、金利がちょっと上がる、米景気がちょっと翳りを見せる、住宅価格がちょっと下落する、といった事象があれば、住宅ローンは簡単に焦げ付きます。

この住宅ローンの焦付きが大量に発生すれば、抵当証券も当然焦げ付いてショートします。また発行体の金融機関などが経営破綻した場合、抵当証券は保証の対象外です。そのリスクは取っているという認識は必要ですし、その説明なしに証券会社が勧めているとしたら、問題があります。

わかりやすい話をすると、2008年に起きたリーマンショックの原因はサブプライムローンの不良債権化でした。これがなんだったかと言えば、住宅ローンを借りる顧客のうち、優良顧客(プライム客)より信用度が劣る顧客(サブプライム客)に貸し出したローンをまとめて証券化した商品が不良債権化したというものでした。読んでいただければわかりますが、サブプライムローンの証券小口化商品と、抵当証券はほぼ同工異曲です。

サブプライムローン証券小口化商品(サブプライムモーゲージ)も、やっぱり高利回り商品として2001年頃から世界中の投資家の人気を集め、金融機関も大量保有します。

しかしFRBの利上げや住宅価格の下落などいくつかの理由でこのサブプライムローンが一気に焦げ付いて、2007年夏ごろに米国で「サブプライムローン住宅危機」が発生しました。当然ですがこれを証券小口化したサブプライムローン証券小口化商品の価格も大暴落しました。これが広範な金融収縮を招いて、大量にサブプライムモーゲージを抱えていたリーマンブラザーズは経営破綻、世界的な金融危機が発生したわけです。

米国においては不動産担保ローンの債権をまとめて証券化して、それを小口化して売り出すことは今でもふつうに行われています。その意味でちゃんとした抵当証券であれば、詐欺商品ではありません。しかし利回りが良いことにはちゃんと理由があります。リスクが高い顧客に踏み込んで住宅ローンを貸し出したその抵当権(モーゲージ)を金融機関が抱えるリスクを分散したものを、自分が背負っていると考えれば良いです。そのリスクを取るのかどうかです。

抵当証券を英語で言えばMBS(Mortgage Backed Securities)と言い、米国のMBSを大量に保有しているのは、日本の超低金利で運用難になった日本の金融機関です。その意味で米国の不動産担保ローン焦付きのリスクを日本の金融機関が背負っているとも言えます。

抵当証券(MBS)は何度も言うように詐欺商品ではありません。ただ僕は次の世界金融危機の火薬庫の一つが、やはり米国の信用が低い層への住宅ローン焦付き、ひいてはMBS(抵当証券)の価格暴落だと考えているので、MBSには一切触らないことに決めています。

これはあくまでも僕の個人的な考えです。よくどんな商品なのか相手に聞いてください。利回りだけで金融商品を選んじゃダメです。