レーザーテックのCFOが交代となったのが、スコーピオンの不正会計の疑いを指摘するリポートとの関係で話題となりました。

Scorpion Capitalは、自らをActivist Short Sellerという空売り屋です。目を付けた企業の財務を徹底的に分析して、空売りを仕込むとともに、調査レポートを発表して、その銘柄の株価を下げさせて爆益を得る手法です。

Scorpionのレポートを読んだ限り、その主張は①棚卸し資産高が大き過ぎる、②時価総額に対してキャッシュフローが少ない、③棚卸し資産に占める完成品がゼロで仕掛品や原材料、貯蔵品ばかりである、④EBIT/売上高が高過ぎる、⑤製品の出来が悪く、本当は売れていない。TSMCにも見放されている、⑥ここ5年で株価が急成長し過ぎている、⑦長年社長を務めてきた岡林理CEOが突然辞任した、⑧レーザーテックが近年突然監査法人を交代しているーの8点に集約されそうです。

読めばわかる通り、レーザーテックの明確な不正会計の証拠をつかんだわけではなく、①-④は状況証拠と同業他社のKLACなどとの比較です。⑤については根拠はやはり棚卸し資産からの推測のようです。⑥はなんとも言いようがなく、⑦は15年近く社長を務めてきた岡林社長が会長に退いたもので、さほどの不自然はありません。

ただこのレポートが発表された直後、CFOの三澤祐太朗氏が交代したことで疑いを深め、三澤氏はその後、取締役も退任しています。また岡林問題が会長も代表権のない取締役になっています。これらの状況はレーザーテックの会計、特に棚卸し資産の処理になんらかのあったことを疑わせるものです。実際CFO交代を受けて株価が急落しています。

ただScorpionの主張はあくまで「疑い」です。Scorpion のこのショートレポートがもし入手可能であれば、200ページを超えるこのレポートは「カチカチと秒読みを始めた時限爆弾。場所は日本」で始まるかなり扇情的な文章と内容です。その一方、ショートレポートでScorpion自身がショートしていることを明かしながら、このレポートは「善意で書いたものであって、一切の投資判断には責任を負わない」とするなど、周到にリーガルチェックを受けて、風説の流布などで自らが訴訟をこされないように準備してきたことがうかがえました。

Scorpionの創業者でCIO(最高投資責任者)であるキル・カロン氏は、企業乗っ取り屋にしてグリーンメイラー(買い集めた株式を発行会社に高値で買わせるプロ)として名を馳せたカール・アイカーン氏の弟子です。儲けるためなら、相当荒っぽいことも辞さない人と見ることができます。そしてこの手の荒技のプロでもあります。

その後のレーザーテックの株価の推移を見れば、Scorpionは相当の利益を出したと思われます。しかしScorpionからは「疑い」以上の第二弾のレポートは出されておらず、今のところそれ以上の不正会計の情報は出ていません。ただ今後の決算には投資家が厳しい目で見ますから、過去の決算との連続性は見られるでしょう。それ以上の審議のほどは現在不明です。

僕が決算を再度調べ直したところ、棚卸し資産の処理には問題があり得る可能性を感じはしましたが、それ以上はわかりませんでした。これでショートレポートを出すScorpionの荒技に関心しました。

Short Sellerが日本企業を標的にするのは比較的レアですが、例がないわけではなく、過去にはMuddy Watersがニデック(当時は日本電産)、Citron Researchがサイバーダインの、それぞれ不正会計を疑わせる扇情的なショートレポートを出し、株価を暴落させて大儲けしています。Glaucus Researchが標的にしたのは伊藤忠商事でやっぱり大儲けしています。Well InvestmentsはSMCでした。さてその後、不正会計になったでしょうか。

日本の投資家、特に株クラやヤフ板にいるような個人投資家は、この手の話に無知な所詮は素人ですから、ショートレポートが出るとびっくりしてしまうんだと思います。Short Sellerに乗って儲ける人もいますけど😅。