日本の総理大臣でどなたが一番の功績を残したと思いますか？

森さんは僕もよく知っているし、悪い人じゃないんですが、なにぶん首相在任期間が短すぎて、これといった業績を残していません。戦後の首相という括りで言えば、吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘の4人の中のいずれかだと思います。

佐藤栄作さんは僕がものごころついてから小学校を卒業するまで首相だったので、幼い頃、「首相って佐藤さんのお仕事なんだ」と思っていたところがあります。東京オリンピック後のいわゆる昭和40年不況に果敢な財政出動で応じ、長期に渡る「いざなぎ景気」をもたらしたことと、沖縄返還を実現させたのが大きな功績です。

学生運動の悪のシンボルにされたり、革新系のマスコミの標的にされたりしましたが、それも佐藤さんの安定感ゆえだと思います。首相退陣の際、記者とケンカして記者が全員退席、無人の会見上で佐藤さんがテレビに向かって話す姿が目に焼き付いています。

中曽根康弘さんは、僕が番記者としてぶら下がった方です。はっきり言って人柄は大嫌いです。でも、勉強家であったことは認めなくてはなりません。戦後最悪だった日米関係を「ロンヤス外交」で打開したのが最大の功績。国鉄や電電公社、専売公社の民営化を成し遂げました。

この民営化、特に国鉄民営化で総評が弱体化、それが日本社会党の分解につながったので、相当の策士だと思います。他に「国防費をGNPの1%に抑える」という制約を撤廃するなど、戦後のタブーに挑みました。本当に嫌いな人なんですが、中曽根さん以降、彼を超える総理は現れていないと思います。

吉田茂さんは僕にとって歴史上の人物ですが、戦後日本の枠組みは彼が作ったと言って過言ではありません。サンフランシスコ講和条約や日米安全保障条約を取りまとめました。外交手腕では右に出る人がいないと思います。特に全面講和論という理想論に世論が流れていた中で、米国の単独講和という現実論で押し切った政治力は優れていると言わざるえません。マッカーサーとのやり取りを検証すると、吉田さんが首相であって本当に良かったと思います。

日本の戦後政治史にあっては、初の長期安定政権を築き、国情を安定させたことも大きな功績です。政治スタイルはワンマンと呼ばれましたが、教養人かつ趣味人で、敗戦で自信を失っていた日本人が誇れる「総理の器」だったと思います。

池田勇人さんは「経済の人」でした。戦後の日本経済のあり方を変え、高度成長を実現させました。官僚が年の経済成長率を5%という現実論を出してきたのに対し、池田さんはこれを認めず、9%で押し切りました。これが後の「所得倍増計画」につながります。大蔵官僚出身でありながら、日銀を押さえつけ、大胆な金融緩和で景気を刺激し続けたのも、池田さんの政治手腕だと思います。あと、忘れてはいけないのは、東京オリンピックに向け、さまざまな社会インフラの構築を実現させました。

政治面があまり語られることがない池田さんですが、岸信介首相時代に悪化した野党との関係を修復したことは見逃せません。労組との対話路線さえ打ち出すなど、柔軟な政治家でした。「忍耐と寛容」が池田さんのモットーでしたが、その看板に偽りはないと思います。

みんなが大好きな安倍晋三さんは次点です。たぶん安倍さんは「経済は池田さんのように。外交は中曽根さんのように」ありたかったんだと推測します。「空白の30年」が続く中、日本経済を上向きにさせたこと、日本の世界的なプレゼンスを高め、信任を失いかけていた日本の世界的な地位を回復させたことが功績だと思います。

ただ公平に見て、先に挙げた4人の首相には、政治的功績という面で一歩遅れをとると思います。