質問
2024年11月19日 回答
Blackwellがサーバーラック内の過熱問題により出荷スケジュールに遅延が生じるかもしれないとの報道がありました。仮に事実だった場合、NVIDIAの技術力に対する懸念を生じさせるような事象だと考えられますか?
回答
このBlackwellの過熱問題は、「The Information」という、米国の中堅どころのテクノロジー媒体が独占記事として報じて、これをBloombergが「The Informationによれば」という形で報じ、この記事からReutersなどが「報道によれば」といった形で報じたものです。
他の米国のハイテク・半導体情報媒体で自社取材記事として報じたものはまだ見つかっておらず、現状ではThe Informationの独占記事ひとつしかありません。Nvidiaもこの記事に対するコメントを行っていないので、真偽のほどがわかりません。Nvidiaは決算を控えて非常に注目されています。8月の決算前にもBlackwellの遅延という報道がありました。
また今回の記事で問題にされているのは、BlackwellベースのGPU単体で過熱の問題が起きているという話ではなく、データセンター向けにこのGPUを72個積んだハイエンド製品「GB200 NVL72」という製品がサーバラック内で過熱状態になるので、サーバラックの設計見直しが必要になる、というお話しです。
ですからこれ自体がBlackwellのディレイを意味しません。ただこれとは別に、すでに夏頃からGB200などに搭載されているTensorコアベースのB200 GPUは、予定通りには供給されないのではないか、という観測が出ていました。
BlackwellのB100及びB200というTensorコアのGPUは、Nvidiaに取って新しいプラットフォームを用いた製品というだけではなく、製造する台湾TSMCにとっても新しい挑戦になる製品です。TSMCは「CoWoS(コワース)」という半導体パッケージング技術を2011年に実装し、これまで進化させて来ました。しかしB100/B200では次世代版のCoWoS-Lに移行します。いろんな意味でこれらの製品はチャレンジングなんです。
Blackwellが発表されたのは今年3月18日ですが、この時点では10月ごろの供給開始が示唆されていました。これはすでにディレイしています。
米国の半導体業界アナリストたちの間では、夏ごろの時点で、「アルファクライアントはMicrosoftになる見通しで、12月第1週の供給を目標にしているけれど、おそらくディレイするんじゃないのか」と噂が流れていました。証券アナリストたちは楽観的でしたが、技術系のアナリストたちは元々そう楽観的ではなかったんです。
これまでも回答で触れて来ましたが、NvidiaのGPUの弱点は省電力性能です。高性能を追求して来たので、省電力にあまり配慮されていません。
ちなみに今回問題とされている「GB200 NVL72」に実装されるB200の消費電力は1200Wだそうです。1200Wの電力を消費するGPUコアを72個も積んだ製品がサーバラック内で過熱を起こすって、先端的な半導体技術には素人の僕は、むしろ深く納得してしまいました🤣。
この手の先端的な製品がローンチでディレイするのは「よくあること」ですから、NvidiaにもクライアントになるAIベンダー側にもサプライズはないと思います。ハイテク技術に疎い投資家たちは右往左往するかもしれないので、短期的には株価下落要因になり得ますが、主たるAIベンダーが他社に乗り換えるという選択肢が現時点ではない以上、ディレイを起こすだけです。Nvidiaの将来的な見通しに問題はありません。むしろBlackwellは先端的過ぎて製造コストが高く、Nvidiaの収益貢献が悪いことが問題だったので、ちょっとディレイした方が良かったという可能性さえあります。
ただまったく問題がないわけでもありません。現在の過熱問題はサーバラックの仕様変更や半導体冷却技術を工夫するといった対応策でディレイしつつも解決されていく可能性が高いんですが、もし解決がつかなかった場合です。B200をたくさん積むとどうあっても熱暴走なんかを起こすとなれば、これは悩ましいことになります。
こうなるとNvidiaはBlackwellというプラットフォーム自体を見直すか、現在TSMCが3ナノの半導体製造プロセスで製造しているBlackwellを、TSMCがより微細化する来年後半の「N2(2ナノ製造プロセス)」や、2027年の「A16(1.6ナノ)」まで待たなくてはならないということにもなり得ます。そうなればNvidiaは成長戦略を大幅に見直さなくてはなりません。ただし現時点ではその可能性は非常に低いと見ています。
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