日本のマスコミの人はどのようにして記事の客観性を担保しようとしているのでしょうか？

客観性の問題は日本の記者に限らず、あらゆるメディア関係者が向き合っていかなければならない難しい問題です。特にサンプル数がいくらあれば客観的であると報じてよいとルール化してるメディアなんてありませんから、報じる記者の「良識」というものに多くを依存しています。また自分の思想主張を反映した記事を書きやすく印象操作がやりやすい部分でもあるので、これは記者にとって踏み絵にもなります。

例えばあなたは「自分に取材してきた記者」をもって、「日本の記者は」という主語でお話しされているわけです。これを「主語を大きくする」と僕らは言います。この「主語をどんどん大きくする」というのはもっともよくある客観性のない記事の書き方です。

例えば自分の友人男性の意見を聞いて「日本人男性の考えは」という記事を書いてしまえば、こんなものに客観性はありません。ですから自分が書こうとする内容を裏付ける事象が他にもないのか、あるいは世論調査やアンケート結果といったデータがないのかあれこれ探すことになります。

こうやって記者というものは、書く記事に「自分が考えうる限り精いっぱいの客観性を持たせる作業」をしている訳です。この努力をするのが「記者の良識」というものです。この努力を放棄することは容易なので、記者はこの誘惑と常に戦い続けることになります。「自分が思った通りのデータがどんどん集まれば、どんなに楽しくて楽なのか」と思わなかった記者はいないと思いますし、実際この誘惑に身を委ねた記者も多いというのが現実です。

またあなたの「日本のマスコミの人は」という書き方に「世界中のマスコミの人は違うけれど、日本のマスコミの人だけは」という意味が含まれているのであれば、「世界のマスコミの人に比べると日本のマスコミの人だけは特殊」という部分にはまったく根拠も客観性もありません。これもよくある「偏向報道の手口」です。

僕の知る限りでは、海外の記者もこの面ではさして変わりありませんし、むしろ数少ないサンプル数で記事を書く傾向は米国の記者に強いと感じています。例えば日本人の誰か1人が発言したことを「日本人は」という主語で記事を書いて、それが物議を醸したことは少なくありません。

日本人記者の書く記事でも「海外に比べて日本では」という文脈で記事が書かれた場合、しばしばこの「海外では」という部分がアプリオリになってしまっていて、根拠を欠く場合がしばしばあります。「海外の男性は◯◯なのに日本人男性は」といったいわゆるフェミニスト系の女性記者が書く記事には、しばしば「この海外の男性は」という部分に根拠がなかったり、あっても欧米の一部の男性の話であったりするといった具合です。

以上のようにあなたのこの短い質問文だけでも、客観性を欠く偏向的な内容がさまざまある訳で、これをそのまま記事に書いてしまえば「客観性を欠く偏向的な記事」ということになります。

記者と言っても特殊な教育を受けた人がなるわけではありません。早い話が昨日までそこらへんの大学生だったのが、新聞社やテレビ局の看板を背負って記事を書く訳です。

ですから客観性を持った記事を書くのはデスクやキャップ、先輩記者の指導のもと、個々の記者が自分の良識に照らし合わせながら、戦い続けることになります。誘惑に身を委ねるのは簡単です。