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知財立国日本として進むべき方向として、どのようにお考えでしょうか?

質問

知財立国のお話、とても興味深かったです。
モデルとなりうるのは、LVMHなどのブランドを有するフランスや、Appleなどのプラットフォームを持つアメリカでしょうか。

日本の強みを活かすとすれば、イチゴや夕張メロンなどの種苗や、無駄に人材が集まっている医療技術分野での再生医療などの技術が思い浮かびます。アメリカのOishii Farmの古賀大貴氏が前者のような活動を、後者のiPS細胞等の研究に関しては日本中の大学で行われていますよね。

ただ、これについて考えると、日本はアメリカのプラットフォーム型というよりもフランスのブランド型に進みそうに思えますが、

アメリカ式の方は手堅いと思うものの、フランス式のブランド型はコピー品等の弱さを抱えているように思えます。また、特許に関しても、特許使用料を払わないイメージのある国が頭に浮かびます(本当はどうなのか知りませんが)

具体的な国・企業名は避けるにしても、知財権を無視した活動をする組織がある以上、日本はブランドや特許等を目指すのではなく、アメリカのようなプラットフォーム型を目指すべきだと僕は思うのですが、りおぽんさんは知財立国日本として進むべき方向として、どのようにお考えでしょうか?

回答

知的財産(IP)のコピー問題については、世界的にどんどん厳しくなる方向にありますし、そう致命的な問題にはならないと考えています。

当の日本が「ものづくり大国」として経済大国になった背景には、米国やドイツの優れた製品を分解して中身を精査するというリバースエンジニアリングを散々やり、研究開発コストをあまりかけずにその精巧なコピーまがいの製品を低価格で販売することをやったからでした。今であれば徹底的に訴訟を起こされて潰されると思います。1970-80年ぐらいまでの日本は、意匠などのデザインに対する意識も低かったので、車などの工業デザインでは欧米諸国のモノマネをしまくりでしたし、ブランド物のコピー品の天国でした。また日本では大企業も含めて、コンピュータソフトはコピーしてみんなで使い回すのが常識でした。

高級ブランド品についても、コンピュータソフトについても、模倣品や違法コピーを取り締まるBSA(ビジネスソフトウェアアライアンス)などのような業界団体があります。またWIPO(世界知的所有権機関)もあります。

僕は興味があったので1980年代初めに虎ノ門にあった高級ブランド品のコピー対策組織の日本駐在事務所の代表にインタビューしに行ったことがあるんですが、フランス人だったその事務所長は明確に「日本が世界最大のコピー大国だから、厳格に取り締まっていきたい」とおっしゃっていました。

またBSAはマイクロソフトなどが旗を振って、1988年に米国で誕生したんですが、1992年には早速日本事務所を開設、内部通報などを呼びかけて、積極的に日本における違法コピーの取り締まりや訴訟活動を行なっています。僕はこのBSAにもこの頃取材に行っているんですが、やっぱり「日本が世界最大の違法コピー国だ」とおっしゃっていました。

20世紀においては、日本が知的財産権侵害の大国として、世界中から目の敵にされていたんです。それが21世紀になって取り締まられる側から取り締まる側になり、代わって中国が世界最大の知的財産権侵害大国として、世界から目を付けられるようになったわけです。

ではその中国が今後どうなっていくのかですが、中国は知的財産権侵害大国であると同時に、世界でもっとも模倣品対策市場が急成長している国でもあります。現在、模倣品対策市場は約5兆円あると推計されています。それだけ模倣品が多いということで、イタチごっこでもあるんですが、いずれ知的財産権侵害は収束していく方向にあると見ています。こうした問題は著作権意識が低い経済開発途上にある国で起こりがちな問題ですから、別の国がそれに代わるとは思いますが。

高級ブランド品の模倣品問題がなかなかうまく功を奏していない問題については、僕みたいな人間がこんなことを言って良いのかわかりませんが、ブランド名とブランドロゴがくっ付いている以上の価値がない製品を、アホみたいな高価格で売っているのが主因です。とうてい真似ができない高品質の製品を手間暇かけて作っていれば、チープな模倣品はともかくホンモノと見紛うような模倣品は作られない理屈です。

1990年代の話ですが、僕はみんなが高級腕時計だと思っているスイスの某高級腕時計メーカーの腕時計の精巧な模倣品が出回っているという話を聞いて、香港にあった闇マーケットの取材に行ったことがあります。闇のコピー品販売屋では店頭にその腕時計のコピー品を並べていたんですが、それは僕が見ても偽物と分かるチープな物でした。で、案内してくれた中国人にそのことを言うと、その彼が「我々が欲しいのはこれじゃないから、違うのを持ってきてくれ」と店主に言いました。

すると店主がゴソゴソっと店の奥に行くと、今度はどう見てもホンモノにしか見えない模倣品をいくつか持って出てきました。店主が言ったお値段もチープな模倣品よりはずっと高く、しかしホンモノと比べればはるかに格安でした。

ただ模倣品を日本国内に持ち込もうとして発見されれば空港で没収されます。当時その腕時計メーカーが内部機構に特殊な仕掛けをして模倣品対策をしていることを、僕はその腕時計メーカーの方から伺っていたので、店主に「もしメーカーに調べられたらどうするんだ?」と尋ねたら、店主の答えは「問題ない。その仕掛けもちゃんとついているからメーカーが調べても模倣品とはわからないはずだ」と言うものでした。

店主の説明では、「その腕時計メーカーは中華圏の工場で生産ラインを持っていて、その工場ではホンモノを作る製造工程に加えて模倣品を作る製造工程をもう1ライン設けてある。メーカーから支給されている模倣品対策の仕掛けも余分に支給されているので、製造過程で不良が出たことにして、模倣品にその仕掛けを取り付けて自分たちの小遣い稼ぎのために売っているんだ。だからこの腕時計はそのメーカーが売っているんではないという以外限りなくホンモノなんだ」というものでした。

僕は「取材資料」ということで、この腕時計を1つ買い求めてみましたが、税関は問題なくすり抜けられたどころか、メーカーにオーバーホールに出しても問題なく返って来ました。そこから先の取材は出来なかったので記事にはしませんでしたが、少なくともその時点では、そのメーカーは製造工程の一部を中華圏に移管していて、それを「Swiss Made」として売っていたわけです。これはメーカー自らがブランド価値を毀損しているようなものでしょう。

昨今、有名な高級ブランドが自国での生産を中華圏や東南アジア圏に移管するようになっています。取材をしていないのでファクトチェックをしているわけではないんですが、似たような「噂」を時折小耳に挟みます。

さらに問題発言かもしれませんが、若い女性がキャーキャー言っている高級ブランドの皮革品の「本物」の中には、素材の品質や縫製などもろもろから見て、僕から言えば「これは粗悪品だよなぁ」と思う高級(?)ブランドもあります。それを昔からのそのメーカーのブランドイメージとブランドロゴでとんでもない価格で売っているわけですから、それは簡単に模倣品は作れるし、儲かりますから、いくら法務部門に人を増やして模倣品対策を講じても、模倣品を作るところを根絶できないわけです。

高級ブランドという名前に相応しく、その価格が妥当である製品を作っていれば、一目でアホなコピー品とわかるものはともかく、メーカーが対策に苦労するような精巧なニセモノはなかなか流通させられないと、僕なんかは思うんですが。

ということで、ご質問の「どういうタイプ」ということなんですが、「僕のブランドロイヤリティ戦略論の講義を大学院で聴け」っていうのは冗談にして😅、それは基礎特許などのIPをガッチリ抑えてしまう「プラットフォーム型」の方が良いっちゃいいですが、これは世界各国が目指すところなので、容易な話ではありません。

別にフランス的なハイブランド型でも良いから、「日本はもう労働集約型産業で世界と勝負するのはムリだから、知恵を絞る頭脳集約型産業で、特許や著作権、デザインなどの意匠権などのIPで稼ぐ産業構造に変えることが先決」と言いたいわけです。それが「老経済大国」の生きる道です。

フランスなんてそれがなかったらとうにもっと没落しているんじゃないですか。そもそも「フランス」という国のブランドイメージに対するブランドロイヤリティ戦略は見事です。少子高齢化対策を含め、フランスには参考にするべき点がいろいろあります。米国を参考にするのにはちょっとムリがあります。

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