質問
2024年02月15日 回答
ケインズ経済学は1970年代初頭のスタグフレーションと、ルーカス批判によって死亡宣告を突き付けられたと認識しています。
それにもかかわらずなぜ90年代以降の日本は、うまく行くわけなんて最初からなかったケインズ政策を実施し、財政赤字ばかりを積み上げて行ったのでしょうか?
回答
第一に経済学には「流行」があります。確かにケインズ経済学は1970年代にルーカスに「もう死んだ」と言われてしばらくの間、流行遅れの経済学になりました。しかし新自由主義がリーマンショックに帰結した結果、ケインズ経済学が見直されて「復権」と言われるようになりました。本来、「危機の経済学」であるケインズ経済学は、確かにリーマンショック後の世界経済をそんなに酷いことにはしなかったという点で、一定機能したと思います。つまり「死んで」はいません。
昨年暮れ、日銀の政策委員である野口旭さんが講演で、1950年あたりからのポール・サミュエルソンなどを通じた初期ケインズ経済学とその政策は、1970年代ニクソンショックの結果やフリードマンらによって批判されて1980年代から金融政策が主体になった。これは先進諸国にバーナンキが自賛した「大安定(Great Moderation)」をもたらした。しかしその後はローレンス・サマーズ批判するところの「長期停滞(Secular Stagnation)」をもたらしてしまった。その結果、先進諸国は「大規模な財政出動と大胆な金融緩和を実行した」と整理されていました。野口さんの現状認識は「マクロ経済政策を通じた経済の安定化というケインズ主義の中核的コンセプトは、各国政策当局や中央銀行におおむね共有されて現在に至っている」という見解でした。やはり死んではいないんです。
第二に1990年代のケインズ的政策と言われるものが、真にケインズ経済学の理論に基づくものだったかどうかです。日本では一般的に「財政政策重視で金融政策をないがしろにした経済政策」であると、勝手にケインズ経済学というレッテルを貼られてしまいます。日本の1990年代の財政支出の野放図な拡大は、何らかの経済理論に基づいたものではなく、単に1990年代の自民党分裂などの政治的不安定性に惹起されたものではなかったのか?
財政支出を拡大するのはバブル破裂後の低迷する日本経済にあって、経済理論以前のわかりやすい「民の救済策」だった。これには面白いデータがあります。内閣府の経済社会研究所が行った分析では、1990-2000年代の日本の実質GDP拡大の乗数効果について検証したものなんですが、それによると乗数効果は高い年でも1.3程度、低い年では1を切っています。確かに財政出動策は機能していなかったんです。ただ当時の日本の政治の不安定性から、経済学の原理ではなく、政治的な人気取りのために財政支出を拡大せざる得なかった側面は確かにあったんではないでしょうか。
「マクロ経済の合理性が政治過程によって歪められる」のは、常にケインズ的な経済政策に付きまとう課題ですが、特に1990年代以降の日本においては、「財政が非対称的に出動された」可能性が否定できません。
加えてバブル破裂後の日本の置かれた特殊性も考慮する必要があります。当時、バブルを発生させた「戦犯」扱いだった日銀の積極的な金融政策は、もはや取りにくい政策だった。ではかつてのように円安誘導で貿易拡大を計れたかというと、これも1980年代の日米貿易摩擦などを考慮すると、ちょっとできない。ということで1990年代の日本の政治は深刻なデフレに対する政策で、もはや財政政策しか取る手段がなかったという可能性を考える必要があります。
第三に、1990年代の日本の置かれた経済環境の問題です。1970年代にケインズ経済学が「死んだ」と言われた背景には、当時はケインズ理論の言う通りには流動性の罠もデフレも発生しなかった、ということがあります。つまり理論と現実の間に齟齬があったんです。ところが日本の1990年代は、まさにデフレも流動性の罠も発生していた。つまりケインズ経済学が前提にしていた「異常事態」にあったんです。
では、なぜ1990年代の積極的な財政支出は効果的ではなかったのか。これにはさまざまな推測をすることができます。まず財政支出の拡大が効果を生むほどには十分ではなかったという可能性です。いわゆる「too small too late」の議論です。これは検証のしようがありません。
あるいは「財政赤字が増えると、国民は将来世代の税金が増えることを予想するため、将来の支出に備えて消費を控える」というネオリカーディアン効果が発生したのかもしれません。また開放経済では財政支出策の効果は減殺されるというマンデルフレミング効果についても検討する必要があるでしょう。その後指摘されたような日本経済・社会の構造的な課題だった可能性もあります。
ここで僕の立場を明確にすると、僕は経済学の理論なんてしょせんは理論に過ぎず、あるいはイデオロギーだと考えています。大事なのは政策の結果であって、理論の美しさでも整合性でもない。そんなもんのために殉死する必要はさらさらない。
経済政策は財政政策だけでも上手くいかないし、金融政策だけでも上手くいかない。財政政策はリカードの中立命題が成立することもあれば、金融政策で流動性の罠が生じて効果がないこともある。だから経済政策は臨床医のようにどの治療法が効果的なのか、患者の病状に応じて匙加減を変えるべきであると。経済学者が自分の経済理論の正しさを主張して、死んだとか生きているというのは勝手ですが、そんなもんの実証実験に使われたら、たまったもんじゃありません。何を取るかは政策決定者の腕次第です。
この辺はわかってる経済学者はわかっていても、ポール・クルーグマンはデフレ下の日本に対する政策的処方箋をたびたび進言していますが、それを追うと必ずしも理論的には一貫していません。あるところまでは支持しているのに、ある時点から離れたことがあります。例えば2000年代の日銀の金融政策について日本の政策当局者が「日銀はよくやっている」と言ったのに対し、クルーグマンは「まだまだできることがある」と切り返しました。これは金利が極めて低い場合、非伝統的な金融政策が効果的な場合もあるからです。
もし日本の政策当局者が「財政政策は効果的だけど、金融政策は効果がない」というステレオタイプなケインズ風の考えで政策の舵取りをしていたのであれば、僕も確かに愚策だったと思います。クルーグマンはリーマンショック後の日本の経済政策について「政策がこのままなら、日本は今後10年以上にわたって不況に喘ぎ続けるだろう」と手厳しいことを言っています。「デフレ対策の効果は財政当局と金融当局の協力によって著しく高めることができる」(バーナンキ)んです。1990年代の日本の経済政策について苦言を呈していたバーナンキも、リーマンショック後の世界において、1990年代の日銀が取った政策は政策当局者の間で「なんらかの形で採用された」ことを認めています。
この辺の政策的な葛藤は今なお続いていて、アベノミクスの「3本の矢」は「大胆な金融緩和」という金融政策(第一の矢)と「機動的な財政政策」という財政政策(第二の矢)のポリシーミックスでした。その上で「民間投資を喚起する成長戦略」という第三の矢を期待したわけですが、この矢は期待通りには放たれませんでした。なぜ上手くいかなかったのかは、これから実証的な研究が行われると思いますが、僕はアベノミクスは「デフレ時には政策当局者はあらゆる手段を講じるべき」だという点では正しかったと考えます。
ほんと経済政策は「さじ加減」なんです。米国では積極的な財政政策を主張していたローレンス・サマーズが、明らかに財政支出拡大に熱心なトランプの経済政策について、ある時点から批判を始めています。コロナ禍による世界不況に対する処方箋は「高インフレ・低失業率」の高圧経済をあえて受け入れるスタンスで進められましたが、インフレが過度に進行した結果、現在ではそれをいかにランディングさせるかが政策的な課題になっています。
冒頭に挙げた日銀の野口さんの講演では、日本の現状について「現在の日本のインフレはコストプッシュであり、賃金が上昇するようなインフレにはなっていない」ことを認めており、その点で欧米諸国と状況は異なるとおっしゃっていました。日本の物価や賃金に見られるゼロノルムをどう打破していくのかが課題ということです。
「コロナ禍以降の各国の政策的な実践は、そのケインズ主義の思考枠組みに、新たな確証と教訓を付け加えた」「マクロ経済政策は結局のところ、経済への負のショックを和らげて、経済を成長軌道に乗せるのに大いに役立つというケインズ主義の基本ビジョンが、改めて裏付けられた」というのが、現役の日銀政策委員である野口旭さんの認識でした。
植田日銀の登場によって、大胆な金融緩和は若干の見直しが予想されます。ここで財政支出だけを野放図に拡大すれば、かつての二の舞を踏むかも知れません。ただ明らかに赤字による財政支出拡大論を取るMMTの信者もなんだかんだいって増えています。「失敗するのがわかっていて」と簡単に言い切れるほど、経済政策は単純なものではありません。
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