一般論として価格の本質って何なんでしょうか？

価格と効用の関係にはなかなか難しいものがあります。アダム・スミスが「国富論」で、次のような疑問を投げかけましたーー「ダイヤモンドは効用が小さいけれど価格は高く、水は効用が高いけれど価格は安い。これは何でだろう？」。これを「価値のパラドックス」と言って、それ以来、経済学で難問とされてきました。使用価値と交換価値に分けて説明したりするなど、経済学者はのたうちまわってきたんです。

「消費して得られる満足度の合計」を「総効用」と言いますが、これはモノの価値、つまり価格とは相関関係がありません。これが現代の経済学の「常識」です。ではいったい何が「価格を決める」のか？

この議論に決着を付けたのが「限界効用」という考え方です。「総効用」に対して「もう一つ多く消費すること」による効用を「限界効用」と言います。そして水は総効用は大きいけれど限界効用は小さい、一方、ダイヤモンドは総効用は小さいけれど限界効用はでっかい。つまり価値は限界効用と関係アリっていうわけです。

長年の課題に決着がついたので、経済学ではこれを「限界革命」なんて呼んでいます。ワルラスだとかジェボンズだとかメンガーといった連中がほぼ同時にこの発想にたどり着いて、これがアダム・スミス以来の古典派経済学が近代経済学になった瞬間とされています。

ちなみに「限界効用」を持ち出したおかげで、経済学には「微分」という厄介なモノが持ち込まれてしまいました🤣。単純に言うと「効用関数を消費量で微分したモノが限界効用」なんです。限界効用が逓減するのは有名な話です。

限界革命以来、経済学者はこの「一つ増やした時の変化」にやたら注目するようになって「限界費用」だとか「限界生産力」「限界利益」「限界福祉」なんていう分析が次々となされました。こういう「限界」に着目する考え方を「限界主義」って言います。

こうしてミクロ経済学では限界効用を用いて「価格」を説明することに成功しました。この場合、価格は「購入されるモノやサービス1単位に必要な貨幣の量」と定義されていました。こうして需要供給曲線で話が綺麗に決まる、だから市場原理にまかせておけっていうわけです。

ところがですね。大恐慌が起こってしまって、どうにもこのミクロ経済学の「価格」の理論では説明できなくなってしまった。そこで　ジョン・メイナード・ケインズが1936年に「雇用・利子および貨幣の一般理論」の中で新しい「価格についての概念」を唱えます。「いろんなモノやサービスの価格の異なる時点での価格を比較して考える」ーーこう書くと難しそうですが、有り体に言えば「物価」のことです。

これがマクロ経済学の始まりで、経済学にはもう一つ、価格についてややこしい考え方が持ち込まれます。それが「名目価格」と「相対価格」です。「名目価格(nominal price)」は貨幣で計ったモノやサービス、つまり財に付けられているお値段のことです。なので「貨幣価格」とか「絶対価格」とも呼ばれています。で、これがインフレの影響を被っているんじゃないかって書いたわけですよ、ケインズは。これでインフレの影響を除して割り出す「実質価格(real price)」っていう考え方が生まれました。

これ以来、マクロ経済学で扱う場合の「Price」は名目価格、すなわち一般物価のことになって、ミクロ経済学でいう「Price」は財やサービスの価格を貨幣の金額で表すものではなく、「他の財との交換比率」で表しているんだっていうことになりました。これを「相対価格(relative price)」と呼びます。単純に言うとマクロ経済学の教科書に出てくる「P」とミクロ経済学の教科書に出てくる「P」はおんなじPだけど、実はまったく違うものっていうことです。

いやはや、わかりやすく「価格」について説明しようと思ったんですが、かえってややこしくしてしまいましたね😅。経済学で出てくる「価格」はそうわかりやすい概念ではないってことが、わかっていただければ幸いです。