美術品は節税にはならず時価で評価されてしまいますか？

別に美術品に限らず、相続財産は「相続した日の時価」で評価するものです(相続税法22条)。ただ上場有価証券なんかはハッキリと「時価」で評価できます。これに対して美術品は時価評価するのがそんなに簡単ではありません。

美術品の時価評価は適当にすればいいものではなく、大きく分けて2つの方法で評価する決まりになっています。

一つ目が「実売実例価格方式」と呼ばれるもので、自分で「だいたい同じような価値と思える美術品の販売価格を調べ」て、それを「時価」の証拠にするものです。ただ僕みたいに大量のコレクションを持っている場合、これをイチイチ調べるのは膨大な手間がかかります。一品ものなどの方が多いので、適当な比較品がない場合の方が多いです。モノによってはオークションでとんでもない価格がついた事例しかなく、そんなものを時価としたら、とんでもないことになります。だからこの方式は現実的ではありません。

もう一つが「精通者意見価格方式」と呼ばれるものです。簡単に言えば、専門家の鑑定を受けてその鑑定価額をもって「時価」だと主張するものです。これは鑑定費用がかかりますが、相続者の負担は小さいので現実的な手法です。僕もこの手法でコレクションを相続させるつもりです。

ここでよくあるのは「ちゃんと評価できない人に鑑定させる」手法です。例えば僕の古書籍のコレクションを「ブックオフ」に持っていって買取価格を評価させればバカみたいな安値で評価してもらえるでしょう。でもこれをもって時価として相続すれば、税務調査が入った時、「不当に低い」のではないかということになって再鑑定され、その落差があまりに大きければなんらかのペナルティを受ける可能性が大です。

だからその美術品やコレクション品の価値を「税務署を納得させられる」だけの専門家に鑑定してもらって、鑑定価額を弾き出してもらい、「鑑定評価書」というものを鑑定料を払って作成してもらう必要があります。これが「時価」になります。

では美術品はこうして専門家の手で時価評価されるので相続財産として魅力がないかというと、そんなことはありません。美術品やコレクション品というのは販売価格と買取価格の落差が非常に大きい世界です。骨董商の店頭で60万円で売られているので勇んで同等品を持ち込んだら買取価格は数万円と言われたというのはよくある笑い話です。さすがに僕のコレクションはそういうことはないですが、例えばクリスティーズやサザビーズでコレクターに好き勝手にビッドさせたらいくらになるかわからないものが、僕のコレクションにはそれなりにあります。

でも鑑定家は僕らに巨額の相続税を払わせたいわけでも、その結果としてコレクションを散逸させたいわけでもないです。ましてやテレビの鑑定番組ではありません。そんなオークションの落札予想価額で評価するとは到底思えません。僕が鑑定価額に介入するわけにはいきませんが、おそらく税務署が納得してくれる範囲の「もっともコンサバな美術商の買取価格」を想定して評価してくれると思います。

質問者さんはもしかすると勘違いしているのかもしれませんが、よく節税効果があるとされる不動産であっても、「時価」では評価されてそれに相続税が課せられているんです。ただ不動産の相続税評価額という「時価」の計算方式と、実際に売買されている実勢価格という「時価」の間に大きな開きがあるので、節税効果があるとされるんです。不動産の地面は通常、路線価をベースに算定されて、建物は固定資産税評価額を用いるのが原則ですが、これがすでに実勢価格と大きな落差があるだけでなく、いろんな条件によって評価額を減額できます。

美術品にも似たような効果が実は期待出来ます。つまり美術品には節税効果があります。なおそんなに高価ではない美術品やコレクションであれば、家財道具と一括評価して問題ないので、ご心配なく。