銀座の「二葉鮨」さんに行かれたことはありますか？

「二葉鮨」というのは現存する最も古い江戸前鮨屋の一店で、現在のいろんなお店の源流とも言えるお鮨屋さんです。銀座の木挽町にお店を構え、かつてはいろんなお鮨屋さんに抱えた職人さんを派遣する「二葉会」という組織まで持っていました。

鮨好きの間で有名なのは、かなり古い話ですが、「二葉鮨四天王」と呼ばれた職人さんたちです。銀座の「きよ田」を開いた藤本重蔵さん、銀座の御三家とも言われた「奈可田」を開業した中田一男さん、八重洲の「おけい寿司」初代の新家安蔵さん、銀座の「源」の岡田源四郎さんの4人を指してそう呼びます。皆さん、伝説の鮨職人さんたちです。

1950-60年代に創業して、今でもやっている「きよ田」がもう四代目ですから、二葉鮨がこれらの職人さんを抱えていたのは、それより前ということになります。この4人以外でも、この「二葉鮨」が輩出した名職人さんはパッと考えただけでも10人は思い浮かびます。

「きよ田」は赤坂の「喜久好」だとか、大阪の「大喜本店」、要町の「すず木」、京橋の「初音鮨」、六本木の「山路」などを開いた職人さんを輩出しています。「奈可田」からは六本木の「奈可久」、銀座の「青木」、向島の「うを徳」、帝国ホテルの「奈可田」などの著名店が誕生、この帝国ホテルの「奈可田」で修業して独立したのが、銀座の「からく」や「しらはた」、「からく」で修業したのが、銀座の「野じま」の大将といった感じで「二葉鮨」の系譜ができあがります。

現在の形の江戸前鮨は、「江戸の三大寿司」と言われた両国の「與兵衛鮨」の華屋與兵衛という鮨職人さんたちが大きく関わったと言われているんですが、ここからは日本橋の「吉野鮨本店」、人形町の「喜寿司」、谷中の「乃池」など老舗と呼ばれる数々の名店が誕生しています。

このように、現在の江戸前鮨の名店の数多くは、修業先を辿ると、「與兵衛鮨」「二葉鮨」、それに銀座木挽町の「美寿志」(銀座の「久兵衛」を創業した今田壽治さんらが修業、「久兵衛」で修業した職人さんたちからは数々の名店が生まれています)、「與兵衛鮨」で修業された千住の「みやこ」(浅草の「弁天美家古寿司」、新橋の「新橋鶴八」などがこの系譜です)、それにかつては銀座にあって、今は中野にある「与志乃」(「すきやばし次郎」の小野二郎さんや「鮨　水谷」の水谷八郎さんなど)という5つの伝説のお鮨屋さんに辿り着くと言われています。

中でも「二葉会」があった「二葉鮨」は一大源流と言えます。まあ、鮨好きにとっては聖地のようなお鮨屋さんです。

この流れを汲むお鮨屋さんを見ればわかるように、「二葉鮨」のお鮨は、何の衒いもない本格的な江戸前鮨です。現在ではむしろオーソドックス過ぎるかもしれませんが、現在では4代目が老舗ののれんを守っています。行ってみればわかりますが、今どきの高級鮨屋ではまったくありません。お鮨のお値段も昨今の高級鮨屋に比べればリーズナブルです。

現在の大将は特に天才的な鮨職人だとも思いませんが、きちんとした江戸前鮨を握ります。これを鮨好きの近所のサラリーマンなんかがやってきて、静かに食べるお店です。

鮨を出されて写真を撮ることを優先しているような、ちゃらちゃらとした、しょせん鮨の味なんてわかるはずがない連中がやってきて、荒らして欲しくはないお店です。鮨屋が写真撮影を断るのはむしろ当たり前だと僕は思います。ただ昨今はサイトの情報を見て、行くお鮨屋さんを決める方が数多くいるので、営業政策上、仕方なく撮影を許可しているお鮨屋さんがあるだけです。

ちなみに僕の行きつけのお鮨屋さんのほとんどは店内の撮影禁止です。お客さんに写真を撮ってもらって、「食べログ」って言うんでしたっけ、ああいうものでど素人に写真付きであれこれ変な評価をされて紹介されなくても、現在付いているお客さんの予約をこなすので精いっぱいだからです。「ミシュラン」への掲載を拒否した大将も何人かいます。常連客はみんなでホッとしたものです。

もうわけがわからないお客さんたちに荒らされたお店は諦めますから、そっとしておいて欲しいお店はそっとしておいていただけるとありがたいです。行くなら、お店の雰囲気を壊さないように行ってください。別に特別気取る必要はまったくありませんが、せめて周囲のお客さんに溶け込んでください。でも「二葉鮨」で格別の接客は期待しない方がいいでしょう。デート向きでも接待向きでもありません。ふつうにお鮨を食べるお鮨屋さんです。