金価格がドル建てで強いです。

以前、金価格が上昇するメカニズムについて回答しましたが、世界最大の金産出国である中国の中央銀行、中国人民銀行の金準備高はここ何年か、月当たり何十トンという水準で増加しており、2000トンを大きく超えました。これだけなら自国で生産した金を外貨準備の一部に充てているとも取れるんですが、それでは説明が付かない不思議な事実がいくつかあります。

まず中国が米国債の保有を減らしてきたことです。外貨準備に占める米ドル依存を軽減する目的とも取れますが、では代わりに何を増やしているのかと言えば、それは「金ではないのか？」という推測です。

次いでロンドンに「ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)」という金市場を専門に調査している機関があります。このWGCの調査で2022年前後に年1300トン超の金の輸入国があったことが判明しています。この国の正体は不明です。通常はIMFに報告するものなので、その調査協力を怠るこの巨額輸入国は、米国債を売って購入資金を調達した中国ではないかという推測がありました。

ただ3番目の問題は、中国人民銀行の金準備高保有増と、もし以上がぜんぶ中国の輸入であると仮定すると、量が合わないことでした。中国の金の輸入実需は年800トンぐらいだと推計されているので、どこかに年500トンほどの金が消えたことになります。僕は当時、国際的な金市場を追うアナリストなんかと意見を交換したんですが、「中国人民銀行単体であんまり増やすと風当たりが強いので、その他の国有商業銀行4行に保有させて、金準備を増やしていることを隠しているんじゃないのか？」という結論に至りました。ふつうはあり得ない手口ですが、相手は中国ですからあり得ると考えました。以上はすべて推測です。

もう1ヶ国、焦点はロシアでした。金の生産量は中国、オーストラリア、ロシアの順なんですが、この3ヶ国はほぼ同レベルです。これにカナダが次ぎます。

このロシアがウクライナ戦争による制裁の影響で、ドルを得る手段を大きく毀損しました。かと言ってユーロも増やせません。しかしロシアは何かで通貨準備高を維持して、さらに原油なんかを購入しなくてはなりません。中国と異なり金を輸入する余裕はロシアにはさしてないと考えましたが、自国で生産している金であれば別です。

実際、ロシアは通貨準備高に占める金準備高を2017年ぐらいから段階的に増やしており、現在ではかなりのウェイトになっています。これは2014年のクリミア併合による国際的な制裁でロシアは大きなダメージを受けたので、ウクライナ戦争に向けて周到に準備して来たのかもしれないと、戦争開始後には納得出来ました。この金準備を積み増すことで、ロシアは今も持ちこたえています。

僕は金現物を20年ぐらいかけて買ってきましたが、以上の構造を2018年から分析を始めて、「これから金は上がる」と確信して、2018年から2022年にかけて大幅に積み増しています。最近は中国の政府系の輸入が一段落した様子なので、今は様子見モードです。

現在、金価格が上昇しているのは、こうした中国やロシアの政府系の金準備高積み増しより、金価格が上昇したので、「これは金を買えば儲かるわい」と考えて金現物を買ったり、金ETFを買っている世界中の個人投資家のインパクトの方が大きいと推測しています。中国も今買っているのは個人投資家と分析されています。