これまでに目にされたもので印象に残っているものや、好きな作品はありますか？

我が家で実際に隣室との壁やドアの窓の嵌め殺しになっているステンドグラスは、アールヌーボー調のステンドグラスが制作できる工房に新たに制作してもらったものです。

「和を感じるステンドグラス」がお好きということですが、であれば小川三知、そして宇野澤辰雄というステンドグラス作家はご存知でしょうか。日本の建築物で明治・大正・昭和の戦前のステンドグラスの多くは、この2人の作家の手になるものが多いです。後は岩城滝次郎あたり。

白揚社という出版社から「小川三知の世界」「宇野澤辰雄の世界」という本が出版されています。もしお持ちでなければ、秋に東京にいらっしゃる前にぜひこれらの本を取り寄せてください。中には現存する小川三知や宇野澤辰雄の作品がたくさん紹介されています。

「非公開のものが多い」とお嘆きですが、日本全国はもちろん、東京にあるこの2人の作品がかなり細々としたものまで掲載されており、東京でステンドグラス探訪の旅をされる時の良いおともになると思います。ちなみに鳩山会館も小川三知です。この他、宇野澤辰雄の弟子の別府三郎や木内真太郎といった人たちの作品を追いかければ、日本の「和のステンドグラス」はだいたいカバーできるでしょう。

宇野澤辰雄の現存する代表作は「国会議事堂」と「横浜市開港記念会館」でしょう。東京から横浜は近いですから後者はぜひ訪れてください。前者は国会議事堂の内部見学があるので、それで見られるか確認するといいでしょう。横浜では「氷川丸」の一等客室のステンドグラスが小川三知なんですが、これって今公開されていましたっけ？調べてみてください。

新宿区の河田町にある「小笠原伯爵邸」というスペイン料理屋さんは旧小笠原長幹伯爵邸で、ここのステンドグラスが小川三知です。どうせ東京に来て食事をするなら、一食はこのレストランを予約してお店の方にステンドグラス拝見をお願いしてみてはいかがでしょうか。

元麻布にある日本基督教団の「安藤記念教会」も小川三知なんですが、牧師さんに事情を話せば見せてもらえるかもしれません。少なくともミサに出席すれば誰でも入れます。ステンドグラスが印象的な教会です。この他、明治大学の記念講堂にあった小川三知が同大学の「リバティタワー」に移設されていたり、芥川賞の選考会の会場として有名な築地の「新喜楽」という料亭の小川三知は取り外し保存されているなど、探せばまだまだいっぱいあるはずです。

僕自身は高輪にある「開東閣」(旧岩崎家高輪別邸)のステンドグラスが、ジョサイア・コンドル設計の洋館ともマッチしていて好みなんですが、ここは残念ながら三菱主要企業の部長職以上にツテを作らないと入れません。もう一つの三井グループの「綱町三井倶楽部」のステンドグラスは宇野澤辰雄です。こっちは縛りが比較的緩いので、三井グループ関係者を探しましょう。

「和のステンドグラス」ではないですが、東京に来たのであれば、代々木上原の「東京ジャーミィ・トルコ文化センター」のステンドグラスは、一般見学の時間を利用して見て行ってください。もう一つ、碑文谷にある「サレジオ教会(カトリック碑文谷教会)」のステンドグラスもぜひ。

まさか東京にステンドグラスを観に来て、上野の「国立科学博物館」にある小川三知を忘れてはいないでしょうね？

東京以外では、京都に「柊家」という古い旅館があります。ここの旧館には小川三知の大原女の図など、いろいろあります。泊まれば間近で観られます。神戸の「神戸迎賓館(旧西尾邸)」は観られているでしょうか？

先述の白揚社という出版社からは、もう1冊、「日本のステンドグラス　明治・大正・昭和の名品」というものも上梓されています。日本のステンドグラス好きであれば、この3冊は必携でしょう。日本におけるステンドグラス史の研究の第一人者は、田辺千代さんという方ですので、この方をチェックするといいと思います。