好きな詩はありますか？

なんか定期的にこの質問が入るね😅。前回は草野心平の「冬眠」って回答したんだよなぁ。。。

今回はエドガー・アラン・ポーの「大鴉」の日夏耿之介訳って回答しておく。他の訳ではダメだからね。

酔っ払うとガルシア・ロルカの詩をスペイン語で詠唱するのは僕の悪い癖😅。

例えば「Espedida」(別れ)を邦訳するとこんな感じ。

ぼくが死んでも
バルコニーは開けておいてくれ。
子どもがオレンジを食べている
(バルコニーでそれを眺めるんだ)

農夫が小麦を刈っている
(バルコニーでそれを感じるんだ)

ぼくが死んでも
バルコニーは開けておいてくれ

あるいは「ジプシー歌集」の「夢遊病者のロマンセ」っていう詩とか。

緑色わたしの好きな緑色
緑の風、緑の枝よ
海の上には船
山の中には馬
腰には影をおき
娘には欄干で夢を見る
緑の肉体、緑の髪、
冷たい銀色の眼
緑色わたしの好きな緑色
ジプシーの月の下で
物みな娘を見つめているが
娘にはそれらを見ることはできない

っていう詩なんだけれど、これをスペイン語で

Verde que te quiero verde.
verde viento.Verdes ramas.
El barco sobre la mar.
Y el caballo en la montana

っていう感じで朗読していくと、めちゃくちゃ気持ちがいいんだよ。ロルカはやっぱり目で追うんじゃなくて、朗読しないと良さがわからないね。

仮面ライダーの「死神博士」訳で知られる天本英世さんは東大法学部に入学して外交官を目指していたのに、いろいろあって大学を中退、俳優座に所属して俳優になったという変わり種だったけれど、天本さんもロルカの詩の朗読活動をされていた。「スペインで死にたい」と言っていたのも、僕と一緒。

でも天本さんと違い、一転して漢詩を吟じ始めるのも僕の特徴🤣。

日高く眠り足りてなお起くるに慵し
小閣に衾を重ねて寒さを怕れず
遺愛寺の鐘を欹てて聴き
香炉峰の雪は簾を撥げて看る
匡盧はたちまちこれ名を逃るるの地
司馬はなお老いを送る官となす
心泰かに身寧きはこれ帰する処
故郷独り長安にあるのみべけんや
(白居易)

なんていうのは、今の僕の心情には染み入るねぇ🤣。

ちなみにこの詩の中に出てくる「香炉峰」がネタもとになって
清少納言の「枕草子」の中の
「雪いと高う降りたるを例ならず御格子まゐりて、炭櫃に火をおこして、物語などしてさぶろうに」
という状態で中宮の定子が
「小納言よ、香炉峰の雪はいかならむ」
と清少納言にお尋ねになったのに対して、清少納言が
「と仰せられるば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせたまう」という対応を取る。
それで周りにいた女房たちも「さることは知り、歌などにさえ歌へど、思いこそよらざりつれ。なほ、この官の人にはさべきなめり」
と感心したっていう有名な一節がある。

中宮が「香炉峰の雪はどうなってるのかしら」とシャレで尋ねたのに対して、清少納言が御簾を上げさせて部屋から見える雪山を香炉峰に見立てる機転を働かせたっていう、いわば清少納言の手柄話なんだけれど、これは元の白居易の「香炉峰の雪は廉を撥げて看る」という一節を中宮の定子も清少納言も、そして周囲にいた女房たちでさえも知っていなかったら成立しない、極めてハイブロウなやり取り。平安時代のこの層は、当たり前のこととして、この白居易の詩を知っていたんだろうねぇ。

ちなみに白居易は優秀な人物で一時は中央官僚のエリートとして力を振るうんだけれど、政争に巻き込まれて地方へ左遷されてしまう。この失意にあった時の「閑適詩」に素晴らしいものが多い。中宮の定子も家柄にも美貌にも才能にも恵まれ、一条天皇の寵愛も一心に集めていたのに、藤原道長の権力闘争に巻き込まれて25歳で非業の死を遂げた平安時代随一の悲運の姫君だから、この白居易の詩には思うところがあったのかもしれない。

もっとも紫式部が書いた「源氏物語」でも、「桐壺」の巻のモチーフになっているのは白居易の「長恨歌」だっていうのは有名な話だから、当時の教養人にとって白居易は基礎教養だったとも言えそうだね。