サッカー観戦中に熱狂するフーリガンについてはどのように思いますか？

誤解されていると思いますが、欧州で言う「Hooligan」というのは、「熱狂的なサッカーファン」ではないんですよ。

日頃の生活が上手くいっていない人たちが、サッカーの試合経過や結果とはまったく無縁に、大酒を飲んで日頃の憂さ晴らしのために、火を付けたりしたり、乱闘したりなんかの騒ぎを起こす。最初っから騒ぎを起こすのが目的なんです。もう試合前から、何かやってやろうと企んでいるんですね。

有名な1985年の「ヘイゼルの悲劇」が起こったのは、試合中でも試合後でもなく、試合前です。それも試合開始1時間も前から小競り合いを起こしていて、ついにリバプールサポに紛れ込んでいたフーリガンがユベントスサポ席を襲撃しました。その結果、逃げ惑った人たちが将棋倒しになって39人が死んで、大勢の人が負傷したんです。イングランドではそれ以前にもブラッドフォードで60人近くが焼死する事件が起こっています。

当時のイングランドディビジョン1は、こうした日常に不満を持つフーリガンの巣窟になっていて、とてもまともにサッカーが観られる環境ではありませんでした。

「ヘイゼルの悲劇」の結果、UEFAは　イングランドのクラブチームをいったんUEFA主催の試合から永久追放し、最終的に全クラブに5年間、リバプールに10年だったか7年だったか、UEFA主催の大会への出場を禁じました。またBBCやITVがイングランド・ディビジョン1の試合中継を中止する措置をとっています。その結果、イングランドのクラブチームはその間、チャンピオンズリーグなどに出場できなくなって、クラブが有力選手を抱える資金が枯渇、イングランドの有力選手が海外に活躍の場を求めました。ですから「ヘイゼルの悲劇」以降、しばらくの間、イングランドのサッカーは低迷しています。

こんなもん、サッカーファンでもなんでもない害悪ですから、肯定的に捉える要素はこれっぽっちもありません。だってそれでサッカー界が衰退しているんですから。僕はこの頃から欧州のクラブチームの試合を観戦してきましたが、日頃の鬱憤を晴らすつもりで試合にやってくる人は、イングランドほどは酷くはなかったにせよ、他国でもあって、サッカー観戦がけっこう命懸けでした。

結局、イングランドでは1989年にもFAカップのヒルズボロスタジアムで行われた「リバプール対ノッティンガムフォレスト戦」でリバプールサポが100人近く圧死する「ヒルズボロの悲劇」が起きています。これはフーリガンが起こしたものではなかったようですが、怒った当時のマーガレット・サッチャー首相が命じて、イングランドのサッカー界に、事故とフーリガンの温床だった「立ち見席」をサッカースタジアムからすべて廃止するよう命じました。

1989年のこの悲劇を受けて、英国では「フットボール観客法1989」が成立、「サポーターが自重すること」を条件にUEFAは1990-91シーズンからイングランドのUEFA主催試合への復帰を認めました。そしてイングランドのサッカー界はいろいろな改革を行なった末に、「プレミアリーグ」を1992年にスタートさせ、これが現在のイングランドサッカー隆盛につながっています。

ただ警察から見るとフーリガンも一般サポーターも違いがわからないので、サッカースタジアムの警備警戒体制がやたら厳しくなってしまいました。ただサッカーを平和に観戦するためには、もはややむを得なかったと思います。昨今では欧州でも、女性がサッカー観戦するといった、かつてはありえなかったことが起こっているんですから。1980年代だったら、もし女性が行ったら暴行されるのは覚悟だったと思います。

ちなみに僕は大学時代から欧州を1人旅しては、サッカーの試合を観戦していました。ワールドカップを最初に観戦したのは、僕が大学4年の時に開催された1982年のスペイン大会です。サンチャゴベルナベウやカンプノウなんかで観戦したんですが、当時の記録をもし見られたら見てください。西ドイツとオーストリアの「ヒホンの恥」と言われる談合試合ありの、どう見てもクウェートの王子が審判を試合中に買収したとしか思えない試合がありの、もう問題がいっぱいあったワールドカップでした。

ワールドカップなんかのグループリーグ最終戦が同日開催になったのは、この「ヒホンの恥」を受けてのものです。僕は西ドイツのサッカーファンが談合に怒って西ドイツ国旗を焼いている姿を、スペインのホテルのテレビで見ました。

1980年代のサッカーというのは、今のようなお綺麗なスポーツではなかったんです。それをFIFAやWEFAがなんだかんだ言って改革してきて、今があります。僕はサッカーをスポーツとして観たいので、その障害になるフーリガンみたいな存在を認めることはできません。

もっともそのサッカー界のお偉いさんたちが、収賄スキャンダルを起こしてしまったわけですが😅。