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投資法・投資哲学

財務省が保有している株が売り出されるとどの様なメリット、デメリットがありそうでしょうか

質問

2024年04月04日 回答

本日NTT法が廃止されましたが財務省保有分の株を20年かけて売却するそうです
そこで財務省が保有している株が売り出されるとどの様なメリット、デメリットがありそうでしょうか
また、政府が大株主である事の利点などもご教示いただけると幸いです
よろしくお願いします

回答

まず最初に踏まえておきたいのは、今回のNTT廃止が投資家視点も国民の利益視点も、基本的に考えられて行われたものではなかろうという点です。

NTTに取って、NTT法は重たい鎖、きつい縛りだったので、その廃止は悲願だったと思われます。しかしNTT法は総務省の通信行政にとってはなくてはならないものだったので、その廃止はそうそう簡単には考えられませんでした。NTTの課題の一つは、政府が株を保有していることにも起因する、株主数、特に個人株主が減少傾向にあったことでしたが、もしNTT法が廃止されることが予見できて、政府保有株が放出されることが予見できていたら、昨年やった株式の25分割はやらなくて済んだからです。

この予想できなかった話が突然一気に浮上して、いきなり廃止されるに至ったのは、岸田政権で浮上した軍備費の増大に対応した財源探しだった、というのが、もっぱらの評判です。自民党主導で話が進められて、さすがの総務省も、これには抵抗できませんでした。

ではなぜNTT法廃止がNTTの悲願だったかと思われるのは、1つにはいつまで経っても総務省の指示に易々諾々と従わなければならなかったこともあるでしょうが、キツかったNTT法の縛りがあったからです。今や携帯電話が普及して、固定電話を持っていない家庭が、若者を中心に増えてきました。しかしNTT法では。固定電話サービスの提供がNTTの「義務」になっていました。これがある限り、どんな僻地であっても、要望があれば固定電話サービスを提供しなければなりません。いつでもそれができる設備を維持し続けなければ、ならなかったわけです。そして自分都合ではサービスをやめることも許されていません。

NTTが今回、早速、過疎地の固定電話サービスを携帯電話を軸に置き換えればサービス価格を下げられる、と言い出したのは、この文脈で考えると理解しやすいでしょう。

NTT法は基本が1985年の電電公社民営化に伴う40年前近くにできた古い法律なので、通信技術の進歩で現状にそぐわない部分がけっこうあります。また民営化の目的は通信業界に競争原理を持ち込むことでした。これに沿って新電電と言われる企業がいくつか誕生したんですが、これまで独占でやってきた電電公社改めNTTと、できたばかりの新電電とでは象と蟻の開きがありました。

例えばNTTが電電公社時代に全国に持った7000ほどの局舎を新電電が持つことは不可能です。全国に設置された1000万本を超える電柱や管路と言われるケーブルを通す通路もそうです。そもそも110万キロと言われる光ファイバー網の多くも、最初は電電公社時代に張り巡らされたと言われています。NTTがやったのは、ラストワンマイルを繋ぐことです。さらに言えば、電電公社時代はほぼすべての通信技術を独占していました。法律で規制されていたので、他に研究できるのは国際電信電話、つまりKDDIぐらいだったわけです。

これらは電電公社時代の競争のない高額な電話料金と電話加入権を使って構築されたものであって、国民で共有すべき「特別な資産」だというのが、NTT法廃止に反対した人たちの主張です。NTT法ではNTTの局舎や光ファイバー網を競合他社も利用できることから通信技術の研究を公開してその普及を図ることまで、さまざまな縛りがNTTに課せられていました。これを根拠に、総務省がNTTの経営に口を出してきたわけです。

「電気通信事業法」という別の法律があるので、NTT法の廃止でこれが直ちに変わることはないにせよ、長期的に見た場合、NTTに課せられていたくびきが軽くなって、経営の自由度が上がる可能性があります。まず最初にやりそうなのは、過疎地への固定電話サービスを縮小して、これを携帯電話サービス置き換えることや、赤字なのに維持し続けている公衆電話サービスなんかが考えられます。

NTT法では一度提供した加入固定電話はもちろん、公衆電話、110番や119番などの緊急電話、それに災害時公衆電話の設置が「ユニバーサルサービス」として位置付けられていて、例えどんなに赤字を出そうと、自分都合での「撤退が禁止」されていましたが、法理的にはこれも不可能ではなくなるからです。

また競合他社が「特別な資産」と呼んでいるもののうち、光ファイバー網については、NTTの広報室は早速、あれはNTT民営化後にほぼすべて敷設したものだ、という反論を始めています。これは将来への布石でしょう。

ですから、NTT法廃止に競合他社や地方自治体がこぞって猛反対したわけです。一方、NTTはソフトバンクだって前身の日本テレコムを考えれば、旧国鉄の資産を受け継いでいるし、JRだって旧国鉄の資産をそっくり引き継いでいるじゃないか、といった反論を開始し始めた様子です。実は今回のNTT法とセットで、来年までに電気通信事業法の改正が予定されているので、それに向けて鍔迫り合いが続く、と思われます。

では今後のNTTの業績と株価がどうなっていくのか、私見を言えば、マイナス要因は「政府保有株の放出が、長期的な売り圧力になる」ことです。軍備費増強の財源確保という大義名分がある以上、出来るだけ株価へのインパクトを抑えながら、しかし保有株の放出は続くでしょう。これがいつどこまでにNTT株の株価に織り込まれるかどうかです。

ポジティブ要因は、明らかにNTTの今後の業績を押し上げる要因になることです。やりたくないことをやらずにすみ、儲かる事業に傾注できます。たぶん固定電話のウェイトを少しずつ落としていって、携帯電話会社、すなわちNTTドコモが中核会社になっていくでしょう。長期的にはNTT株は、NTTドコモ株を評価するつもりで評価するべきです。であればもう少しバリュエーションを上げてもいいんじゃないでしょうか。

このプラス要因とマイナス要因を勘案するのは難しいですが、相当の長期目線であれば、僕は買いだと評価しています。わかりやすいのは、来年の電気通信事業法改正でもしNTT有利になった場合、ソフトバンクなど競合他社の株は買いにくいということです。

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