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政治・経済・社会

水道事業の民営化についてどう思われますか?

質問

Twitter(X)では良い意見の聞かない水道事業の民営化ですが、
りおぽんさんは水道事業の民営化についてどう思われますか?
また日本でも水道事業の民営化が進んでいくと思われますか?

回答

日本で水道の民営化はありえんですよ。メリットは少なく、デメリットは多いです。

日本では「水と空気はダダ」という意識が根強くあります。実際、水道料金はかなりお安く抑えられています。山林を開発して自分用に水道管を引き込んでもらうといったことをしない限り、水道料金は低廉です。ただその結果、公営事業である地方自治体の「水道局」の経営は苦しく、水道管の取り替え工事も進んでいません。そこで民営化して民間活力を導入してサービス競争させて、この水道管取り替え工事を推進させたらどうか、という主張が出てくるわけです。

ただよーく考えてみて、水道料金はかつての電電公社時代の電話料金や国際電信電話時代の国際電話料金のように、世界水準でみてバカ高いわけではないです。またかつての国鉄のように労組が蔓延っていて、サービス水準が低いわけでもないです。

ゴミ処理をする清掃事業とともに、ちょっと事業効率は悪く、利権がいろいろあるんで、民営化でこれは少しマシになる可能性はあります。

ただ水道料金はまず間違いなく上昇します。水道事業を民営化した欧州の例を参考値にすれば、少なくとも40%、ひどい国では3倍前後の上昇です。そして現在は公共事業なので、市街地であればそんなに無理な水道料金を設定しませんが、民営化されればそんな経済原理に反したことができなくなるので、過疎地域の水道料金はもっと跳ね上がると思います。国鉄が民営化されて起こったのは、地方の赤字ローカル線の廃止です。鉄道の場合はモータリゼーションがあったので、これが補えましたが、水道となるとそうは行きません。住みたいのであれば、とんでもない水道料金を設定されても泣く泣く支払うしかありません。

もう一つ大きな問題は、水道が民営化されたとして、誰がその民営企業を経営するのかでしょう。日本では長らく水道事業は公共事業だったので、いきなりその経営ができる日本企業はありません。たぶん商社なんかが取り組むことになると思いますが、単独ではできないので、水道事業の運営ノウハウを持った企業をパートナーにするはずです。

世界には「水メジャー」と呼ばれる巨大企業があります。フランスのヴェオリアアンビロヌマン、英国のテムズウォーターなんかが一例です。ヴェオリア社は2022年のグループ売上高が428億ユーロ、従業員が22万人という超巨大企業で、ナポレオン3世時代からという150年ほどの水道事業ノウハウがあります。このヴェオリア社が世界的な水道事業民営化の波に乗って、事業を拡大してきたという歴史があります。

この結果、水道料金の爆上がりなど不都合なことが起こったので、世界的に見れば、水道事業の再公営化がトレンドのようです。それではヴェオリア社は困るので、新たなメシのタネとして、今になって水道事業民営化に乗り出した日本に目を付けているわけです。

ヴェオリアジャパンはすでに日本で20年ほどの歴史があって、グループで4000人ほどの従業員を抱えているとされています。そして日本の水道事業民営化の議論があるところには、必ず参画して、その議論を推進しようとしてきました。現会長の野田由美子さんは、女性として2人目の経団連副会長になったり、「デジタル田園都市国家構想会議」のメンバーになったりしています。野田さんを僕は少し知っているんですが、相当のやり手だという印象を持っています。横浜市副市長などを歴任された日本有数のPFIの専門家です。

日本で先行して水道事業民営化を図っているのは宮城県で、「宮城県上工下水官民運営連携事業」、通称「みやぎ型管理運営方式」でも、総合商社なんかに混ざってヴェオリア社の役員が議論から参加していて、結果的に事業を受託したのは、メタウォーター社が議決権を握る「みずむすびマネジメントみやぎ」という特別目的会社です。ところが実際の水道事業の運営とメンテナンスを行う「みずみすびサービスみやぎ」という特別目的会社になったら、ちゃっかりとヴェオリアジェネッツ社が筆頭株主になっていて、しかも51%の議決権を握っていたわけです。

これはある意味で仕方ありません。日本で大掛かりな水道事業の運用ノウハウを持っている企業は他にはないんですから。たぶん日本各地で水道事業の民営化が進めば、同じようなことが起こって、日本におけるヴェオリア社のプレゼンスが拡大して、気が付けば日本における水道サービスは、ヴェオリア社抜きでは語れなくなると思います。

水は生命に直結しますから、これは昨今の経済安全保障の議論の比ではありません。水道料金を勝手に上げられても何をされても、その時になってはもう何も文句は言えません。ヴェオリア社は自分たちの資本の論理で動くでしょう。でも外資規制を設けては水道事業民営化議論は進まないのが現実です。もちろんヴェオリア社は自分たちは日本の水を支配して何かしたりしないと言うでしょうが。

でも、僕は水道管が新しくなるといった少々のメリットより、「日本の水」を外資の手に委ねない方が良いと思いますよ。現状でそれほどまでに大きな不都合はなく、水道管を交換したいんだったら、地方自治体の行政首長自らが、ちゃんと住民に事情を説明して、合理化を図ってから、水道料金を値上げしてやるべきです。それを嫌がって民営化して、外資の手を借りて水道料金を値上げしてやってもらうべきではないです。それは行政首長の怠慢というものです。なので僕は「ありえない」というわけです。

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