吉田松陰のことがわかるおすすめの本などをご存知ではありませんでしょうか？

吉田松陰に興味を持ったなら、まずは吉田松陰のものを1冊読もうよ。「講孟余話」にいきなりはキツイだろうけれど、「留魂録」は頑張れば読める。これが吉田松陰が処刑される前に数日で書き上げた「遺書」であり、吉田松陰門下の志士たちの間で書き写され、回し読みされて、彼らを突き動かす原動力になったもの。

「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも、留め置かまし大和魂」っていう句で始まるんだぜ。熱いじゃないか。これは古川薫のまとめた単独のものと、「幽囚録」「回顧録」などとまとめられた松陰著作選が、どっちも講談社学術文庫で出ている。最初に読むなら前者が読みやすい。これは全訳注付き。さらに読みやすいのは、僕は未読だけど、PHP研究所で出ている新訳(現代語訳)の方だと聞く。「留魂録」も各社から出てるんだけど、変なのもあると聞くので、読むならこのどっちか。

ちなみに「講孟余話」もPHPや中公クラシックス、岩波文庫とかで出ている。PHPのやつなら、原文に現代語訳も添えられていると聞くから、読もうと思えば読めるだろう。もう一つ、松陰が松下村塾で高杉晋作や久坂玄瑞たちに講義したのは「孫子」がメインだったんだ。だって当時の世相を考えると、孫子のような戦略書は重要だったからね。

それをまとめたのが「孫子評註」という本。松陰の孫子研究に直に触れられる1冊、つまり松下村塾での講義の真髄に触れられる1冊だから「原典を読め」と言いたいところなんだけど、孫子を読んだことがない人にはいきなりは無理だと思う。幸い「『孫子評註」を読む」という本がPHP研究所から出ている。「孫子」を解説した松陰の解説書というわけだね。

森田吉彦という国際関係論や幕末・明治初期の日本外交を研究している大学の先生が書いた本だけど、これなら読めると思う。森田さんは他にも「兵学者吉田松陰　戦略・情報・文明」という本を書いていたり、「吉田松陰の対外戦略論　近代日本外交論の一原型」なんて論文も発表していたりする、政治学からの松陰の研究者だけど、先ずは「孫子評註を読む」で十分だと思う。

最後は岩波文庫で出ている「吉田松陰書簡集」あたりなんだけど、これは元々戦前に出版されたものの復刊だから、ちょっとタフかもしれない。

でもね、松陰のこの手の原典は、出ては廃版品切れになってきた歴史があるから、見つけておいた時には迷わず買っておいた方がいい。そうしないといざ原典にあたろうと思った時、全集本にあたるしかなくなることがある。これは相当大きい図書館でもないと置いていない。それに全10巻はキツイと思うよ。

吉田松陰の伝記であれば、徳富蘇峰が著した「吉田松陰」(岩波文庫)に勝るものはいまだないと思う。歴史的背景も含めて、きちんと解説されていて、信憑性もとても高い。徳富蘇峰の文章も格調高い。吉田松陰の研究者がまず頼る本。ただし、書かれた時代が時代だから、読みやすい本ではまったくない。これは覚悟を決めて読むべき本。

もっと読みやすい本ということであれば、先にも挙げた古川薫って言う作家が書いた「松下村塾」(講談社学術文庫)っていう本が、さすがに現代の小説家が書いた本だけあって、圧倒的に読みやすい。もちろん高杉晋作から伊藤博文までみんな登場する。まあこっちがオススメなんだろうね。

後は司馬遼太郎の「世に棲む日日」(文春文庫)は、まだ読んでいないのかな。これもさすがシバリョーという歴史小説。ただし全4巻で、松陰が登場するのは第1巻。2巻以降は高杉晋作など松下村塾の人の話で展開されていく。だから古川薫さんの本を読んでからの方が読みやすいと思う。でも「竜馬がゆく」のシバリョーが松下村塾を書いたんだから、読まない手はない。ただあえて言えばこの本の主人公は高杉晋作だと思う。

吉田松陰の語録はいろいろ出ているんだけれど、著者(選者)の思想的な偏りがある本が多くて、僕は読んでいて辛いものがある。その中では僕と同じ年の齋藤孝っていうテレビにも出ている明大教授の書いた「超訳吉田松陰語録　運命を変える」(角川文庫)が読みやすくて、比較的ニュートラルな立場からまとめられていると思った。

僕は「超訳」という類いの本は嫌いなんだけど、これは比較的まとも。でも語録はしょせん、いろんな松陰の著作や書簡なんかから引っ張ってきたもの。やっぱり「留魂録」を読んだ時ほどの熱さは感じないし、この本では幕末の志士の運命を変えられないと思った。まあとりあえず持っておいて損はないと思う1冊。

でも松陰と言うなら「留魂録」は読んでくれ。