どうしてクリスチャンになられたのかお聞き出来たら嬉しいです。

僕は50代で成年洗礼を受けました。僕は50歳で現役を引退しているからその後です。それから3年近く、鬱病の治療に苦しむんですが、ちょうどその最後の頃です。安直ですが、何か宗教にすがれば、今の気持ちが少しは救われると考えたんですね。

だから最初はまともな宗教なら、なんでもありでした。僕は読書家ですから、まずその関連書籍を濫読することから始めました。これは新旧の聖書から摩訶止観、禅宗の関連書籍、コーラン、老荘の思想書など、とにかくヒマにあかせて手当たり次第、読んだんです。ただし、もしかすると自分はそれで救われるのかもしれないと考えていたので、必死です。

この時に一番面白いと思ったのは、実は禅宗の教えです。ですからその門を叩くことをまず検討したんですが、その修行内容を調べていくと、その頃の心身の体調では、これに到底耐えられそうにありません。

そこで入門しても自分が耐えられそうな宗教に絞っていくことにしました。また家から通えることも重要です。それで探したところ、割と家の近所にカトリックの教会があったんですね。まったく安直ですが、まずはそこに行ってみることにしました。ですから行ったとき、信仰心なんてまるでありませんでした。

この時に出迎えた神父さまはお歳を召されたフランス人でした。この時、僕は信仰心なんてまるでないことや自分の置かれた状況、とりあえず新旧聖書や海外や日本の神父さまが書いた宗教書をそれなりに読んできたことは伝えました。そして「こんな自分ですが、この教会は受け入れてくれるのか」尋ねました。

神父さまの答えは「無理のない程度に日曜のミサに出席してください。また金曜に聖書の読書会をやっているので、それもよろしかったら、ご参加ください。まずは来ていただくことから始めましょう」でした。それで遠慮なくミサと読書会に出席させていただくことにしたんです。

僕はその後、大量のカトリックの宗教書を読み、研究したので、僕が所属する教会では、不確かなことがあったら神父さまかりおぽんさんに聞いた方がいいよと言われるぐらい、詳しくはなりました。でも信仰心というといまだにあやふやで、戒律破りをよくやっています。それでも許してくれるのが、カトリックのふところの深いところだと思います。ご存知のようにプロテスタントはいろいろ厳しいですから、もしプロテスタントの教会に行っていたら、今頃は破門になっているかもしれません。

ミサに出席するようになって驚いたのは、信徒の皆さんが穏和で優しいことです。僕はそれまで生き馬の眼を抜くビジネスの世界にいたので、こんな方々が今も世の中にいるのかと驚きました。僕よりご年配の方が多く、若い方は学生以下だったので、僕は年配組の若手として、いろいろ重宝され、そこに自分の居場所を見つけることができました。

ある時、神父さまは僕がフランス語が達者なことを知って、とても喜ばれました。宣教でフランスから赴任して長かったとは言え、どこかやっぱり寂しかったんでしょう。僕は教会に行く前、長期に渡ってフランスに滞在していましたから、その話も楽しみにされました。何より母国語であるフランス語や、自分が若い時に習ったラテン語でやり取りできることが嬉しかったようで、毎週2人でフランス語でやり取りしながら、最新のラテン語訳新ウルガタ聖書の読書会をやりました。まあ神父さまにとってはそれは口実で、お茶を飲みながらフランス語で会話したかったんだと思います。

この神父さまはもう亡くなられてしまいましたが、信仰心のいささか怪しいことがわかっている僕に、成年洗礼を授けてくださり、僕らしい洗礼名も考えてくれました。洗礼から少しおいて堅信式もやっていただいています。僕はミサに参加したり、この神父さまとお話しすることでだいぶ気持ちが救われたので、恩人と言ってもいいと思います。

こんな僕ですから、ミサで使徒信条を唱える時には、ちょっと面映いものがあります。僕が大好きなのは、アッシジの聖フランシスコの「平和の祈り」です。そして唱える射祷はやはり「キリエ・エレイソン」になります。

相変わらず信仰心はあやふやな僕ですが、今はミサに出席すると心が落ち着くことが半分、穏和な信徒さんたちのこれまでの親切に報いたい気持ちが半分という感じで、今なおカトリック教会に所属しています。ですから、教会にできることはしたいと考えていて、教会のシステムを1人で構築したり、自分が得意な広報の責任者を引き受けてきたりしました。現在は広報のためのインターネットサイト維持を担当しながら、教会の財務部門の責任者を引き受けています。これは現在の神父さまに直接頼まれました。これが信仰心が薄い僕のせめてもの償いなんです。