将棋の森信雄先生、もしくは森一門の印象・イメージをお聞かせください。

質問

先日縁あって、森一門の祝賀会に参加させていただきました。
指導対局では坂上七段・石川五段と指す機会があり、充実した時間を過ごすことができました。

祝賀会では村山聖九段と一生歩んでいってる、と思う貴重なエピソードをお聞きしました。（そう言った発言ではなく、あくまで個人的な感想です）

私の森信雄先生への印象・イメージはお弟子さん達への思いが深く、身を投げて指導しているお方であります。

ゲストとして参加しましたが、一門皆様が日頃研究で忙しい中、参加者へ精一杯おもてなしをしていただき嬉しいと同時に心苦しい会でした（日頃とは立場が違い、迎えられる事に心苦しさを感じた次第です）

改めて将棋の世界の厳しさ、プロとしての迎える立場を感じる事ができた、素晴らしい会でした。

回答

森信雄先生とは面識がないんですが、将棋界には、比較的早くに自分の棋界での活躍に見切りをつけて、後進の育成に努められる方がいらっしゃいます。関東ではA級に在籍した経験もありながら、43歳で引退して中原誠十六世名人ら多数の棋士を育てた高柳敏夫名誉九段がいて、現在は渡辺明九段などを育てた所司和晴七段がいます。

関西では坂田三吉の弟子で、内藤邦雄九段や森安秀光九段を育てて、孫弟子に谷川浩司十七世名人がいる藤内金吾八段の「神戸組」がいました。森信雄七段が現在の関西でこのポジションにいらっしゃるのだと、僕は理解しています。

申し訳ないですが、森先生の現役時代の将棋については、振り飛車党であったこと以外、ほとんど記憶がなく、棋譜を並べたことがあるかどうかも定かではないです。森先生の口癖が「冴えんなぁ」ということですが、ほんと「冴えないプロ棋士」でした。

しかし後進の育成になると、途端に才覚を発揮され、亡くなられた村山聖贈九段のほか、山崎隆之八段、糸谷哲郎八段、千田翔太八段などを輩出されています。最近では高田明浩五段が楽しみな存在です。

おそらくですが、人格者なんだと思います。これら多数の才能の目標になるほどの、プロ棋士としての才能はないと思います。しかしそれにかえてあまりある、後進を育成しようという情熱をお持ちなんじゃないでしょうか。

村山、山崎、糸谷、千田と名前を並べれば、棋界に詳しい方なら直ぐわかるでしょうが、居飛車党あり、振り飛車党あり、そして現在の棋界を代表する個性的な棋風の持ち主揃いです。ですから、森先生は弟子の良いところを殺さずに、うまくそれを伸ばしたんでしょう。その人柄を慕って、プロ棋士としてはたいした実績もなかったのに、弟子入りを希望する人が引も切らないんでしょう。

将棋のプロの世界では、大山康晴永世名人も中原誠永世名人も谷川浩司永世名人も弟子はわずかですし、羽生善治永世七冠に至ってはプロ棋士の弟子はいません。森内俊之永世名人も野原未蘭女流だけです。こういった「自らが活躍することに注力する棋士」がいると思えば、自らの活躍には早くに見切りをつけて、弟子でそのリターンマッチを目指す方がいらっしゃるのが、将棋界の面白いところです。

目下、藤井八冠の牙城をもう少しで崩すところに来ている伊藤匠七段の師匠の宮田利男八段なんかもその1人でしょうね。宮田先生もたいした棋士ではなかったですが、伊藤七段のほか、斎藤明日斗五段や本田奎六段が楽しみな将棋を指しています。

森門下や所司門下、そして宮田門下に共通しているのは、弟子たちの将棋が生き生きとしていて、よく手が伸びていることです。この「手が伸びている」という感覚は、将棋がある程度強い方ならわかっていただけると思います。