１番興奮したサッカーの試合を教えてください。

僕は1997年の秋に新聞社を退職しました。そして自分の会社を設立する準備中、あらゆる作業を投げうって、日本代表とイラン代表がフランスワールドカップのアジア第3代表を決める試合を、マレーシアはジョホールバルの「ラルキンスタジアム」に友人と3人で観に行きました。忘れもしない1997年11月16日のことです。

思った以上に日本代表サポーターが多くて試合前の雰囲気はホームでした。ただこの時、マレーシア国内でリーグカップが行われていて、クアラルンプールのいいサッカースタジアムが取れなかったそうです。日程の都合上、ホーム&アウエーではなく、中立地での一発勝負になりました。

この試合、中田英寿のスルーパスを受けたゴン中山がゴールを決めて先制するんですが、後半、イランの名選手、アリ・ダエイの活躍で1-2に逆転されてしまいます。またドーハの悲劇に続いて、ワールドカップの道は遠いのかもと思い始めました。しかし後半中頃になって、岡田監督が三浦カズと中山を引っ込めて、城彰二と呂比須ワグナーを出します。そしてこの城が中田のクロスをヘッドで押し込んで2-2の同点にするんです。

もうこの辺では僕は冷静には試合が観られませんでした。試合は後半、結局2-2で終わり、先に1点決めたほうがフランス行きの「ゴールデンゴール方式」にもつれ込みます。率直に言うと「ナイスフットボール」の試合ではありませんでした。お互いがガツガツぶつかり合って、疲れ切ってピッチにしゃがみ込む選手も多かった試合です。でもこれがまさにワールドカップの本大会行きがかかった試合というものだと思います。

延長戦が始まって、疲れ切っていた北澤に替えて俊足の岡野雅行が投入されます。これはいい交代だと思ったんですが、その出来があまりよくありませんでした。シュートする絶好のタイミングでパスしたり、シュートをはるかに外したり。「何やってんだー、岡野」とか叫んでいたのを覚えています。

そしてイランに大チャンスが訪れて、またもダエイがシュートをします。「これは終わったか」と思った瞬間もありましたが、幸いにもバーをかすめます。延長後半になって、もうほとんどの日本代表サポーターが「ああ、これはPK戦になるのか」と考えた時、奇跡が起こりました。

中盤で呂比須がボールを奪って中田にパス。これをスルスルと中田がドリブルで持ち上がります。あれよあれよという感じでした。そしてペナルティエリアのあたりからミドルシュートを放ちます。しかしこれは相手キーパーに弾かれるんですが、そのボールがルーズになって、この日精彩がなかった岡野の前にコロコロと転がったんです。「決めろー、岡野ー」と僕は叫んでいました。それを岡野が滑り込みながら、右足でゴールに押し込んだんです。これで決まりです。

「ナイスフットボール」ではなかったかもしれませんが、「死闘の上の勝利」であったことは間違いありません。確か公式記録で岡野のゴールは延長後半13分だったと思います。ゴールデンゴール方式ですからそこで試合は終わり、岡田監督をはじめ全選手・全スタッフがピッチに飛び出して、みんなで祝福しあい、岡野をバンバンと讃えました。でもその頃、僕の目は涙で曇っていて、ピッチがよく見えませんでした。

これで「ドーハの悲劇」を払拭し、日本は初めてのワールドカップ本戦行きを決めました。俗に「ジョホールバルの歓喜」と呼ばれる試合です。これ以上興奮した試合は他にありません。