質問
アメリカの大統領選挙ニュースを見て疑問に思ったのですが、アメリカにおける黒人である事の定義とは明確にあるのでしょうか?
両親共にアフリカ系米国人
白人とアフリカ系米国人のハーフ
白人以外の人種とアフリカ系米国人のハーフ
ご先祖様にアフリカ系米国人のいる人
みな黒人になるのでしょうか?
回答
これは米国にとって非常に微妙な問題で、時代ともに変遷したり、州によって異なってきたりしました。
僕が知っている米国の国勢調査では、区分は「White」「Black or African American」「Hispanic or Ratino Origin」「Asian」「American Indian or Alaska Native」といった具合に、人種についてズラズラと選択項目が並んでいて、記入者が自分で選ぶスタイルだと記憶しています。人種項目は正確ではないかもしれませんが、とにかく「自分で選ぶ方式」だと思います。
ですから見た目、肌が真っ黒でも「White」を選ぶことは可能ですが、偽れば罰則があったはずです。
例えば「米国初の黒人大統領」であるバラク・オバマ大統領は、お父さんがケニア出身のアフリカンアメリカン、お母さんがネイティブアメリカンの血も混じっていると言われるホワイトの、いわゆるハーフでしたが、ご自身でブラックを選ばれています。
米国は人種について「出生地主義」というものを採用しています。どこで生まれたのかで人種を分ける考え方で、これによれば「黒人(Black)」とは「アフリカ大陸のサハラ以南のいわゆるブラックアフリカから、奴隷解放宣言以前に米国が関与して米国に連れて来られた人々の末裔」ということになります。
アフリカ大陸出身でも、サハラ以北のアラブ系は含みませんし、米国が奴隷として連れてきたわけではない、アフリカ大陸→欧州→米国という欧州系黒人や、カリブ海諸国や南米諸国から渡って来た黒人は、厳密には「Black or African American」に含まれないという学者の主張が多いです。この辺が時代や州で判断が分かれるので、「黒人(Black)」を米国で定義するのは容易ではなく、現在はほぼ自己申告制に近いことになっているんだと思います。
ただ僕の知っている範囲では、奴隷解放宣言以降にブラックアフリカから来た移民も、ブラックアフリカに起源を持つ欧州からの移民も、起源はブラックアフリカにあるということで、人種として「Black」を選んでいるようです。カリブ系(Caribian African)だけ、時としてHispanicを自分の人種として選択している場合がありました。
もう一つややこしい問題として、かつて米国には「One Drop Rule」というルールが南部諸州を中心に多くの州であったことです。これは祖先に一滴の血でもブラックアフリカ系の血が流れている人はすべて黒人として扱うというルールです。実際には16分の1、つまり曽祖父母の誰か1人がブラックアフリカ起源であれば、黒人として扱うわけです。
公民権運動以前の米国には、明確に黒人に対する人種差別がありましたから、これで黒人と認定されれば、白人とは結婚できませんし、性交するだけでも処罰される州が数多くありました。古い話ですが、ルイジアナ州みたいに黒人が白人と同一の鉄道車両に乗ることを禁じた州もあったぐらいです。20世紀前半までの米国は、このように白人の血と黒人の血が混交しないように必死に対策を取ったわけです。
これがマーティン・ルーサー・キング牧師らの黒人公民権運動(Civil Right Movement)があって、徐々に廃止されていったわけです。
でも米国に長期滞在すればわかりますが、米国の白人、特に南部諸州や貧困白人層(Poor White)と言われる層の有色人種に対する差別意識には根強いものがあります。僕も2年間ほど米国にいましたが、北部諸州やカリフォルニア州はまだともかく、工業が盛んな州や南部諸州に行って観光地を外れると、突然意味もなく殴り掛かられたり、ライフルを向けられてホールドアップするように言われた経験があります。
でもこの20-30年で米国でも白人と有色人種の混交がどんどん進んでいます。自分の人種認識が明確ではない人も増えていて、自分を「黒人(Black)」と自認しない人も増えています。実際、純粋なAfrican American はもはや5-6%だという推計を読んだこともあります。変わって米国の白人に次ぐマイノリティがヒスパニックになったのは知られた通りです。
ただこの結果、米国では黒人とヒスパニック系住人やアジア系住人と争うという新しい形の分断が発生しています。
特にトランプ大統領の「Make America Great Again(米国を再び偉大な国に)」と訴えかけたのは、主に白人でした。当時、米国では若年層の白人が50%を切る見通しになって、白人にショックが起こっていたんです。将来的にはヒスパニック系が米国のマジョリティになり、白人はマイノリティになるという予測もありました。
このためトランプ大統領は白人の労働者層や貧困層を主たる支持基盤とするとともに、ヒスパニック系のこれ以上の流入を避けるため、メキシコ国境に壁を作ろうとしたり、正規移民か不法移民かを問わず、ヒスパニック住民には住みにくい国にしようとしたわけです。
南アフリカ共和国の人種差別政策でもそうでしたが、この時、有効なのは、最も上位にある層以外の層を分断して対立させることです。この意味でもトランプ大統領の4年間は米国民の分断が進行しました。
トランプ大統領が再び大統領に就任すれば、またこの政策が取られるんじゃないでしょうか。ただ上記のような構造なので、スペイン語を話すという点で自分の人種認識が明確なヒスパニックが増えて、混交が進む黒人のウェイトが下がっていくという潮流は変わらないと思います。
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