フランス企業に就職し、フランスに住みたい。｜東大ぱふぇっとの米国株投資ブログ

質問

私の甥の進路の話しなのですが、金沢大を卒業しこの春より院の方に進学したのですが、フランスの企業に就職したいという夢の為、フランスのロレーヌ大学院の試験に合格し2年生への編入が決まったようです。本人は合格と同時に退学届を提出してしまいました。
叔母の私としてはフランスの大学院を卒業出来なかった時の為に退学届ではなく休学としたらどうかと考えましたが、変でしょうか？本人は何が何でもフランス企業に就職し、フランスに住みたいとの意思があるようです。

ご意見を頂戴したいです。
宜しくお願い致します。

回答

へぇ、ロレーヌ大学の院に合格されたんですね。素晴らしいです。周囲、特に母親やご親族のご婦人は何かと心配して安全策を取らせたくなるものですが、人生には保険をかけない方が良い場合もあります。これはまさにそういうケースだと思います。

「何が何でもフランス企業に就職して、フランスに住むこと」が甥ごさんの夢であれば、ここは心配を我慢して送り出すしかないです。休学云々より、留学生活を資金的に少しでもサポートしてあげてください。

フランスはEC加盟国やスイスなどのEEAの国民であれば就労も居住も容易ですが、かつての宗主国以外の外国人が就労ビザや永住権を取るのがとてもとても難しい国です。しかし自国の大学院を卒業しているのであれば、まだ取れる可能性があります。

もともと日本人には永住権を取る方法がなかったんですが、「10年滞在許可証」を2回更新すれば、取得できる制度に変わりました。ただこの「10年滞在許可証」を申請することにも、「5年以上継続してフランスに滞在していること」「フランス社会に溶け込んでいること」などいろいろ条件があります。移民局の職員のフランス語での面接試験も受けなくてはなりません。フランスの文化や歴史についての授業を受ける必要まであります。フランスで滞在許可証を取る上で英語はほとんど役に立ちません。フランスの役所の窓口は日本の役所の窓口のように、書類に何か不備があってもなんとかしてあげようという気はまったくありません。その癖、とても細かいです。

フランスは例えフランス人と結婚して配偶者ビザで移住しても、最初に発給されるのは1年滞在許可証で、結婚生活が3年続いた段階でようやく10年滞在許可証の申請資格が取得できるなど、本当に旧宗主国以外から移住することにとても厳しいです。僕と妻は海外移住を検討した時、お互いが言語に不自由がなくて、友人が多いフランスも検討し、僕は投資家枠で、妻は芸術家枠で後述するパスポートタランをまず取得することを考えました。フランスの高官にも友人がいるのでこの取得はなんとかなりそうだったんですが、その後の永住権取得まであまりに大変だったので、早々に候補からフランスを外したぐらいです。

長期の就労ビザは、日本企業の駐在員としてフランスに転勤した場合、一般的に「サラリエ・デタッシュICT」という3年間滞在できる就労ビザが発給されますが、これは更新が出来ません。つまり最大でも3年間しか駐在できません。一番単純なのはVLS-TS という長期滞在ビザを取得することですが、長期といっても1年更新で、別途、労働許可証が必要であるなど、フランス企業に正社員として雇用されて、長期に渡って働くには現実的ではありません。

しかしフランス企業に採用されて雇用契約を結んでいる場合、「パスポートタラン(いわゆる才能ビザ)」というフランスにとって有用な人材に発給される最大で4年間有効なビザが取得できる可能性があります。これは更新可能です。この才能ビザがあれば労働許可証も不要であるなど、非常に優遇されるんですが、この取得にもいろいろ条件があります。

一般的な会社員であれば、「1年以上フランス企業に雇用され、高等教育を受けた証明書を保有する高資格の有給従業員」に発給されます。ロレーヌ大学院という学歴と成績証明書があって、現地でフランス企業に採用されれば、この「パスポートタラン」をまず取得できると思います。一応日本企業の現地法人で採用されてもこのパスポートタランのサラリエ・アン・ミッションの対象ではあるんですが、日本の本社からの転籍以外、現実にはいろいろ高いハードルが待っています。当然ですがフランス人を雇用させたいためです。

「パスポートタラン」は芸術の国、フランスらしく、アーティスト活動をフランスでする人には比較的取りやすいんですが、フランス企業に雇用されて取得するのはけっこう大変です。

フランス企業にとって日本人と雇用契約を結び「パスポートタラン」の取得を援助するのはとても負担がかかることなので、フランス人が知らない大学院(金沢大学院)を卒業していても、フランス企業はまず雇わないと思います。しかしロレーヌ大学院卒であればまだ可能性があります。フランスの大学院で修士号を取得して卒業すれば、1年間の就職活動のためのビザも発給されます。

また最近は「フレンチテックビザ」というIT産業などを奨励するため、フランスのIT企業に勤務する人やITベンチャーの起業家や投資家に対する就労ビザが新設されて、これも更新可能です。

日本人がフランスで90日間以上滞在して働くためには、これらの就労可能な長期ビザを取得した上で、さらに現地で滞在許可証を取得する必要があります。最初はおそらく滞在許可証は1年更新でしょう。

以上のように、例えロレーヌ大学院を卒業しても、甥ごさんの夢への道のりは長く厳しく、永住権が取得できるのは、早くても現行制度ではほぼ四半世紀後です。もし甥ごさんが日本国籍を捨ててフランス国籍を取得して帰化しようとした場合、フランス滞在5年以上で取得を申請出来ますが、「フランスに多大な貢献をする潜在的能力を持ったものを優遇する」という通達があり、その例として「ポリテクニークやグランゼコールを卒業した者」という例示があります。ですからロレーヌ大学院卒でどうか、金沢大学院では帰化はほぼ不可能です。

結局、ロレーヌ大学院の卒業に失敗するようなレベルでは、例え金沢大学の院に戻ったとしても、事実上、甥ごさんの夢が潰えたことを意味します。ここは応援してあげてください。