少子化問題について

高校や大学の受験ということであれば、「母親枠」どころか「女子枠」も、本来は不要だと思います。昨今、大学の中で「女子枠」を設けているところがあるのは、「理系学部を受験して、入学してくれる女性があまりに少ない」からです。これで「女子枠」を設けて、「女性は入学しやすいよ」と誘っているわけです。

僕の時も、娘の受験の時もそうでしたが、「ごくごく一部のトップ層」は確かに男が多いです。ただその後には女性の集団ができるものなんです。確かに東大理Ⅰには女子枠を設けるのは面白い試みかもしれません。あまりに「リケジョ」が少ないですからね。

でも優秀な女性が男性と同じ意識で受験に取り組む環境を作ったら、必要になるのは「男子枠」かもしれませんよ。確かに女性は「理数科目に弱い」傾向はあるとは思いますが、私立の医大医学部でやっているのは、「男子受験者にゲタを履かせて、男子の入学者数を増やす」ことですから。東大理Ⅲとなると、男子進学校の世界ですが、この層の医系であれば、ちゃんと真面目に勉強してくる女子の方が強いです。

この私立医大が男子受験者にゲタを履かせたがる一因は、女子を試験で取って教育して、医者に育てても、男性医師と結婚すると医者を辞めて専業主婦になってしまったり、それでなくても仕事をセーブしてしまうので、自分の大学病院の医局のようなタフな仕事から離れてしまうためだと言われています。大学側としては、「自分の大学を卒業した現役の医師を増やしたい」という発想が働きますからね。中堅の私立医大というのは、本質的に受験が理系と大差ありませんから、「理系を卒業した女性への魅力的なキャリアパス」を用意してあげれば、リケジョも自然と増えていくと僕は考えています。ポイントはそこではないんです。

優秀な女性は本質的には多いんです。僕がこのところ繰り返し言っているのは、「高等教育機関を卒業して社会に出て、女性が働きながらでも、子どもを産んで、育児しようという気持ちになるような」社会の仕組みと意識変革です。出生率の向上には、日本における「女性のロールモデルとキャリアパスを根本から見直す必要がある」というのが自論です。

「結婚して夫の世話を焼く時間はもったいないと思うけれど、子どもは欲しい」と考えている独身女性は、特に優秀な層を中心に一定数いるものです。この子育てを支援するのも一つの手だと思います。「未婚の母」に対する日本社会の偏見は根強いものがありますので。また、やや高齢になった独身女性の間では「もう自分が出産するのは負担が高いので、里子をもらってその子育てはしたい」と考える方も少なからずいます。これと、「経済的に子育てはできない」と考えて、妊娠したけれど堕胎する若年の女性との、マッチングを公的サービスとしてするのもありかもしれません。

これは別の研究結果ですが、「子育てをした女性より、独身女性の方が幸福度が高くて長生き」ということもわかっています。これを変えないと、出生率なんて上がりません。

また現時点で会社が育児休暇などの子育て支援策を厚くすると、実は一番反発するのは「独身の女性社員」なんです。「出産した女性社員ばかり優遇されている。そのしわ寄せが自分たちに来て、自分たちは損をしている」と考えるんです。この部分をなんとかしないと、企業はこれ以上の手厚い支援策が取りにくいと言われています。

質問者さんに回答すれば、例えば中学生や高校生の女の子たちが、将来の結婚や出産を意識せずに夢に向かって受験に取り組む環境を作ればどうなるでしょうか。彼女たちは目標が決まれば、真面目にせっせと取り組む人が多いです。だから僕はだんだん「男子枠」が必要になってくると思います。

大学教授をやってきた経験でいうと、課題を与えると、これをきっちり真面目にやってくるのは、圧倒的に女子学生の方です。ただこれは性差なのか、こちらが言った通りに生真面目にやってくる人が多かったです。一方、男子学生は、優秀なのもダメなのもいましたが、こっちが想定もしていなかった「発想の飛躍」がままみられました。どちらも社会では必要な要素なので、これはおぎないあえばいいんじゃないでしょうか。