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政治・経済・社会

どうしたら出生率上がると思いますか?

質問

昨年の出生率1.20で過去最低でしたね。
どうしたら出生率上がると思いますか?

回答

出生率を上げる方策はすでにいろいろ取られているし、まだ打てる手はあります。でもあらゆる方策を講じても、それでも出生率は今を維持するか若干上昇させるので精一杯だと思います。出生率の世界ランキングを見ればわかりますが、先進国と言われるところほど低い。ランキング上位にはアフリカ諸国がずらっと並び、逆に韓国、香港、台湾なんかは日本以下です。台湾はいずれ1.0を切るかもしれません。

ただ出世率を上げるには、もうこの成功モデルがすでに存在しているんです。フランスです。だからフランスを真似ればいいだけなんです。

フランスもかつて出生率低下に悩まされました。第二次世界大戦直後は3台だった出生率が1990年代には約半分の1.6ぐらいまで下がっていたと記憶しています。この時、大統領だったジャック・シラクが取った政策が有名な「シラク三原則」というものです。これは以下の3つです。

①育児の負担を減らすために、女性が産みたいと思った時に産める環境を整える

②仕事の有無に関わらず、託児ができるようにする

③育児休暇から復帰したら、より高いポジションを提供する

第一原則がちょっとわかりづらいので追加説明すると、「育児は産んだ女性がするもの」という社会認識を改めて、夫はもちろん、社会全体が育児に参加する。特に育児経験がある高齢者が参加する仕組みを作る、というものです。また第三原則の育児休暇は女性だけでなく夫である男性にも与えられるもので、「育児は人間の処理能力を上げる。だからスキルアップしているので、復帰したら、より高いポジションがふさわしい」というものです。

この結果、1990年代半ばには1.6ぐらいだった出生率は、緩やかに上昇して2010年ごろには一時期2.0を超えました。シラク三原則の中身を見ていただければわかるように、やるべきことは単純明快ですが、今の日本社会でいきなり導入するのはかなりハードルが高いと思います。ただ「女性が子どもを産んでもいい」と思える環境を作らないと、出生率なんて上がらない、特に大きなポイントは育児の負担である、ということが、シラク三原則の成果が示していると言えます。

実は欧州諸国ではこのシラク三原則を成功例として似た政策を取り入れる国が相次いで、いずれも出生率を上げることに成功しています。出生率は先進諸国ではここまでやらないと上がらないんです。こうした政策を取っていない日本、韓国、香港、台湾が世界最下位を争っているので、答えは明白です。

ただそのフランスも2010年を境にまた緩やかに出生率が下がってきました。現在は確か1.6台だったと思います。これにはフランスでもさまざまな分析が行われていて、①女性の出産年齢が高齢化しているので、結果的に2人の子どもを産むことが難しい、②女性が子どもを産むことの利益と失う職業人生の不利益が引き合わない。特に高学歴女性でこれが著しい、③若い世代がフランスの将来に夢を持てなくなっている、特に昨今の雇用環境が厳しい、④子どもを産むことには長期的な出費をともなうが、現状ではこれに見合う利益が得られない、といったものがあります。いずれもう一段階踏み込んだ政策が取られる可能性が高いと僕は見ています。

ただ1990年代後半から2010年にかけてフランスの出生率向上に寄与し、もし日本の政治家がそこまで踏み込めば、いつでも導入できる方策が一つあります。それは1999年に成立した「連帯市民協約(PACS)」と言われるものです。

このPACSは「成人した人間は性別に関係なく共同生活を送るための契約」です。これを結ぶと、ほぼ結婚同等の社会保障や税制上の優遇措置が受けられます。もともとは同性婚を認めるものだったんですが、これで男女のPACSも急増しました。そして追跡調査の結果、事実婚だったので子どもを産まなかったカップルがPACS以降、子どもを産むようになったことがわかっています。

そもそもは同性婚のために導入されたPACSですが、結果として圧倒的に増えたのは異性間でした。書類を揃えて2人で市役所に行き、手続きを取るだけでPACSの契約が成立します。解消はどちらか一方が申し立てるだけでできます。これで結婚同等の社会保障や税制上の優遇措置などが受けられるので、同棲していたカップルやお試しでPACSを結ぶカップルが急増したんです。

このPACSを結んだ男女が子どもを産んだので、出生率上昇に寄与したというわけです。現在フランスでは結婚する異性婚と、PACSを結ぶ異性婚がそう大差なくなっており、PACSを経て、やっぱり結婚しようとなったカップルもけっこういます。日本では知名度が低いPACSですが、フランスではもはや当たり前になっています。現在フランスでは約半分近くの子どもはPACSの夫婦から生まれているとされています。

この分析もいろいろされていますが、結婚には躊躇していた女性がPACSであればいいと考え、社会的な育児援助システムから「子どもを産んでもいい」と考えるようになった効果が大きいと言われています。

以上のように、女性が気軽に事実上の婚姻関係を結んでもいいと思えて、出産してもあんまりそれが不利にならず、育児の負担が小さいと思える制度や社会を作れば、出生率を上昇させられることはもうわかっているんです。でも、夫婦別姓程度でつまづいている日本で、こうしたドラスティックな制度変革は果たしてできるでしょうか?

冒頭の話に戻って、僕は現在、5人の女性から赤ちゃんを欲しがられており、60歳超にして日本の出生率向上に寄与してしまいそうな状況です。当然、「なんで赤ちゃんを欲しくなったのか」女性たちに聴き取ったわけですが、全員が一致して答えたのは「産んでも十分大丈夫な経済的基盤があること」でした。そして京都の芸妓さん以外は全員、「女手が十分あって、育児を助けてもらえそうなこと」でした。こういう状況を作れば、やっぱり女性は「赤ちゃんを産んでもいい」と考えるようになるんでしょう。

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